[12月24日17:00.天候:曇 長野県北部某所 マリアの屋敷]
稲生:「こんばんは。ご来館ご苦労様です。こちらにご記入をお願いします」
クリスマスパーティ開始1時間前。
早目に来る魔道師もいるので、この時から準備を始める。
因みに稲生はエントランスで受付係。
下っ端の見習なので、そんなことをやらされる。
稲生:(顕正会の衛護隊や、正証寺の任務を思い出すなぁ……)
稲生は受付台の前に立って、来館する魔道師達の記入を見ていた。
尚、稲生は案内して受付票を書かせているだけ。
その内容が正しいかどうかまでは精査しない。
精査できるとしたら、英語だけ。
辛うじて外国語は英語なら何とかなる稲生だが、それ以外の言語についてはお手上げだからだ。
特にダンテ一門の魔道師達はロシア系が多い。
その為、キリル文字なんかで書かれた日にはさっぱり読めない。
ダンテ門流内の公用語は英語ということにはなっているのだが、文字となると統一されていないらしい。
尚、位の高い魔道師が来ると、ラテン語で書いて来たりする。
本当に自由な門流である。
稲生:(結構、みんな早目に来るなぁ……)
稲生は偏見ながら、ロシア人とかは時間にルーズなイメージがあるので、遅刻上等だと思っていたのだ。
エレーナ:「よっ、稲生氏。めりーくるしみます」
稲生:「あっ、エレーナ。……何だよ、それ?」
エレーナ:「あれ?日本語では、そう言うんじゃないの?」
稲生:「言わないよ。……てか、絶対わざとだろ?」
エレーナ:「ちっ、マリアンナに影響されてクソ真面目になっちゃったね」
稲生:「いやいやいや、んなワケない。……あっ、こんばんは。ご苦労様です。では、こちらにご記入を……あ、はい。恐れ入ります」
エレーナ:「忙しそうだね。手伝おうか?」
稲生:「いや、いいよ。僕の仕事だし」
エレーナ:「私だって普段ホテルでフロントの仕事をしてるんだから、こんなのお手の者よ」
稲生:「そりゃ頼もしい。だけど、大丈夫だよ。それより、ポーリン先生とリリアンヌは?」
エレーナ:「ポーリン先生は後から来るし、リリィはもうすぐ来るよ」
と、その時、また玄関のドアが開いた。
リリィ:「ヒィヤァッハーッ!ブラック・クリスマース!!」
稲生:「り、リリィ!?」
リリィは覚醒した状態でやってきた。
普段は野暮ったい魔女のローブにとんがり帽子を被って来るのだが、今は魔法の薬を作る時にするパンクファッションに身を包んでいた。
リリィ:「悪魔の宴だ、ゴルァァァッ!」
稲生:「わ、分かったから、これに記入してくれる?」
リリィ:「ヒャッハーッ!!」
エレーナ:「……おい、リリィ。同じ見習とはいえ、稲生氏の方が先輩で年上だぞ。言う事聞けや」
はしゃぐリリィに、エレーナが姉弟子としてキツく注意した。
すると、ビクッと体を震わせるリリィ。
リリィ:「あ……ハイ」
リリィは急にしおらしくなって、受付票にボールペンを走らせた。
リリアンヌとはフランス人の名前。
その為、リリィの書く文字はアルファベットながら、内容はフランス語だった。
ポーリンはイギリス人、エレーナはウクライナ人、リリィはフランス人と多国籍組なのである。
エレーナ:「稲生氏、私はリリィを連れて行く」
稲生:「あ、ああ……って、エレーナ!キミがまだ受付をしていない!」
エレーナ:「おおっと!」
リリィ:「フフ……フフフフフフフ……」
と、そこへ、玄関前に黒塗りの高級車が止まった。
そこから降りて来たのは、黒いドレスコートに身を包み、その上から白い毛皮のコートを羽織ったアナスタシアだった。
護衛をするかのようにその周りを歩く弟子達は、黒いスーツやブレザーに身を包んでいる。
アナスタシア:「こんばんは。受付はこちらでよろしいかしら?」
稲生:「あ、はい。ご苦労様です。こちらにお願いします」
アンナ:「私が代わりに……」
稲生:「アンナ……さん」
アナスタシア組の弟子の1人、アンナがボールペンを走らせた。
他人に起こった話を又聞きさせ、その話の中に引きずり込むという魔法を使う。
また、呪いなどの魔法にも長けており、稲生を試したこともある。
もし稲生が悪い男だと判断したら、それを守る魔女として稲生を暗闇の底に沈めていたと言い放っていた。
実際はそんなアンナの逆鱗に触れることも無く、こうして無事にいられている。
アンナ:「これでいい?」
稲生:「あ、はい。ありがとうございます」
アンナもロシア人。
だがしかし、書いた文字は……英語だった!
しかも、ちゃんと内容は合っている。
稲生:「それでは控室が2階にありますので、そちらの階段からどうぞ」
アンナ:「ありがとう。先生、そちらだそうです」
他の弟子達がアナスタシアをエスコートしていく。
ダンテ一門の中で最多数を誇る弟子を抱えるアナスタシア組。
但し、弟子の数が最多であり、それらが連携する魔法は他の組とは引けを取らないまでも、個人個人の魔法力は弱めらしい。
アンナ:「マリアンナが笑っているから許してるけど、泣かしたりしたら、無限ループの地獄に落とす。私は魔女で結構。悪い男から女の子を守る為にね」
稲生:「了解しました」
エレーナ:「まあ、その前に当のマリアンナ自身にブッ殺されそうな気がするけどね」
稲生:「はい、そんな気がします……」
リリィ:「フフフ……」
と、今度はポーリンが入ってきた。
玄関の向こうでは老婆の姿をしていたが、受付台に近づくに連れて、どんどん若返って行く。
ついにはイリーナと同様、30代前半くらいの女性の年齢にまで戻った。
稲生:「こんばんは。ご来館ご苦労様です。こちらにご記入願います」
ポーリン:「うむ……」
エレーナが代わりにポーリンの名前などを記入した。
ウクライナ人が書く文字もキリル文字だと思われるが、エレーナは英語で記入した。
魔法を使わずともマルチリンガルな彼女は、東京のホテルでは外国人相手に英語を使う機会が多いからだろう。
それと、ポーリン自身が英語圏の国の者だからか。
師匠に心酔しているエレーナとリリィ。
それまでの稲生に対する軽口は潜め、またリリィもはしゃぐのをやめた。
ポーリン:「まだ時間があるのだろう?控え室で少し休みたいのだが?」
エレーナ:「先生、私がご案内致します」
リリィ:「フヒッ、私も行きます……」
こうしてポーリン組の面々も、控え室に向かって行った。
稲生:(ところで、大師匠様はどのタイミングで来られるんだろう?……大師匠様だから、魔法でもう到着されていたりして……?)
稲生:「こんばんは。ご来館ご苦労様です。こちらにご記入をお願いします」
クリスマスパーティ開始1時間前。
早目に来る魔道師もいるので、この時から準備を始める。
因みに稲生はエントランスで受付係。
下っ端の見習なので、そんなことをやらされる。
稲生:(顕正会の衛護隊や、正証寺の任務を思い出すなぁ……)
稲生は受付台の前に立って、来館する魔道師達の記入を見ていた。
尚、稲生は案内して受付票を書かせているだけ。
その内容が正しいかどうかまでは精査しない。
精査できるとしたら、英語だけ。
辛うじて外国語は英語なら何とかなる稲生だが、それ以外の言語についてはお手上げだからだ。
特にダンテ一門の魔道師達はロシア系が多い。
その為、キリル文字なんかで書かれた日にはさっぱり読めない。
ダンテ門流内の公用語は英語ということにはなっているのだが、文字となると統一されていないらしい。
尚、位の高い魔道師が来ると、ラテン語で書いて来たりする。
本当に自由な門流である。
稲生:(結構、みんな早目に来るなぁ……)
稲生は偏見ながら、ロシア人とかは時間にルーズなイメージがあるので、遅刻上等だと思っていたのだ。
エレーナ:「よっ、稲生氏。めりーくるしみます」
稲生:「あっ、エレーナ。……何だよ、それ?」
エレーナ:「あれ?日本語では、そう言うんじゃないの?」
稲生:「言わないよ。……てか、絶対わざとだろ?」
エレーナ:「ちっ、マリアンナに影響されてクソ真面目になっちゃったね」
稲生:「いやいやいや、んなワケない。……あっ、こんばんは。ご苦労様です。では、こちらにご記入を……あ、はい。恐れ入ります」
エレーナ:「忙しそうだね。手伝おうか?」
稲生:「いや、いいよ。僕の仕事だし」
エレーナ:「私だって普段ホテルでフロントの仕事をしてるんだから、こんなのお手の者よ」
稲生:「そりゃ頼もしい。だけど、大丈夫だよ。それより、ポーリン先生とリリアンヌは?」
エレーナ:「ポーリン先生は後から来るし、リリィはもうすぐ来るよ」
と、その時、また玄関のドアが開いた。
リリィ:「ヒィヤァッハーッ!ブラック・クリスマース!!」
稲生:「り、リリィ!?」
リリィは覚醒した状態でやってきた。
普段は野暮ったい魔女のローブにとんがり帽子を被って来るのだが、今は魔法の薬を作る時にするパンクファッションに身を包んでいた。
リリィ:「悪魔の宴だ、ゴルァァァッ!」
稲生:「わ、分かったから、これに記入してくれる?」
リリィ:「ヒャッハーッ!!」
エレーナ:「……おい、リリィ。同じ見習とはいえ、稲生氏の方が先輩で年上だぞ。言う事聞けや」
はしゃぐリリィに、エレーナが姉弟子としてキツく注意した。
すると、ビクッと体を震わせるリリィ。
リリィ:「あ……ハイ」
リリィは急にしおらしくなって、受付票にボールペンを走らせた。
リリアンヌとはフランス人の名前。
その為、リリィの書く文字はアルファベットながら、内容はフランス語だった。
ポーリンはイギリス人、エレーナはウクライナ人、リリィはフランス人と多国籍組なのである。
エレーナ:「稲生氏、私はリリィを連れて行く」
稲生:「あ、ああ……って、エレーナ!キミがまだ受付をしていない!」
エレーナ:「おおっと!」
リリィ:「フフ……フフフフフフフ……」
と、そこへ、玄関前に黒塗りの高級車が止まった。
そこから降りて来たのは、黒いドレスコートに身を包み、その上から白い毛皮のコートを羽織ったアナスタシアだった。
護衛をするかのようにその周りを歩く弟子達は、黒いスーツやブレザーに身を包んでいる。
アナスタシア:「こんばんは。受付はこちらでよろしいかしら?」
稲生:「あ、はい。ご苦労様です。こちらにお願いします」
アンナ:「私が代わりに……」
稲生:「アンナ……さん」
アナスタシア組の弟子の1人、アンナがボールペンを走らせた。
他人に起こった話を又聞きさせ、その話の中に引きずり込むという魔法を使う。
また、呪いなどの魔法にも長けており、稲生を試したこともある。
もし稲生が悪い男だと判断したら、それを守る魔女として稲生を暗闇の底に沈めていたと言い放っていた。
実際はそんなアンナの逆鱗に触れることも無く、こうして無事にいられている。
アンナ:「これでいい?」
稲生:「あ、はい。ありがとうございます」
アンナもロシア人。
だがしかし、書いた文字は……英語だった!
しかも、ちゃんと内容は合っている。
稲生:「それでは控室が2階にありますので、そちらの階段からどうぞ」
アンナ:「ありがとう。先生、そちらだそうです」
他の弟子達がアナスタシアをエスコートしていく。
ダンテ一門の中で最多数を誇る弟子を抱えるアナスタシア組。
但し、弟子の数が最多であり、それらが連携する魔法は他の組とは引けを取らないまでも、個人個人の魔法力は弱めらしい。
アンナ:「マリアンナが笑っているから許してるけど、泣かしたりしたら、無限ループの地獄に落とす。私は魔女で結構。悪い男から女の子を守る為にね」
稲生:「了解しました」
エレーナ:「まあ、その前に当のマリアンナ自身にブッ殺されそうな気がするけどね」
稲生:「はい、そんな気がします……」
リリィ:「フフフ……」
と、今度はポーリンが入ってきた。
玄関の向こうでは老婆の姿をしていたが、受付台に近づくに連れて、どんどん若返って行く。
ついにはイリーナと同様、30代前半くらいの女性の年齢にまで戻った。
稲生:「こんばんは。ご来館ご苦労様です。こちらにご記入願います」
ポーリン:「うむ……」
エレーナが代わりにポーリンの名前などを記入した。
ウクライナ人が書く文字もキリル文字だと思われるが、エレーナは英語で記入した。
魔法を使わずともマルチリンガルな彼女は、東京のホテルでは外国人相手に英語を使う機会が多いからだろう。
それと、ポーリン自身が英語圏の国の者だからか。
師匠に心酔しているエレーナとリリィ。
それまでの稲生に対する軽口は潜め、またリリィもはしゃぐのをやめた。
ポーリン:「まだ時間があるのだろう?控え室で少し休みたいのだが?」
エレーナ:「先生、私がご案内致します」
リリィ:「フヒッ、私も行きます……」
こうしてポーリン組の面々も、控え室に向かって行った。
稲生:(ところで、大師匠様はどのタイミングで来られるんだろう?……大師匠様だから、魔法でもう到着されていたりして……?)