旧十二月十一日。寒の真っ只中のはずなのですが、この超暖冬ぶりはどうしたものでしょうか。雪の便りよりも先に花の話をよく耳にしますね。
さて、少し前のことになりますが昨年末に秋田に行ってきました。東京がクリスマスムード一色で彩られていた頃、“陸奥の古都”と呼ばれる町、角館はひっそりと静かな時間が流れていました。4年前の9月に伝統ある「角館祭りのやま行事」を見物に行って以来です。勇壮で華やかな祭りの時期とは対称的に、静かな雪の季節に訪れてみたい、という願いが叶ったわけです。夜更けに降った雪が、この町の名物である垂れ桜の枝に降り積もって、早朝北国のか弱い陽光に照らされるさまは、感動的な美しさでありました。
地方の町を訪れた際の楽しみに、古道具屋さんを覗いてみる、というのがあります。角館にも魅力的なお店を見つけました。古い商家が多いこの町でも、このところは世代が替わるタイミングなどで蔵を開けて、古い生活の道具などを処分してしまうことが多いそうです。訪れたお店で、食器や道具などを見ていると、これまでに見たこともないような道具に目が留まりました。ご主人によると最近ではすっかり珍しくなったもので、大正時代頃に作られた【貝風炉(きゃふろ)】という品物なのだそうです。
貝風炉とは秋田の伝統的な一人用の炭火コンロで、特に秋田の郷土料理“貝焼き”のための道具です。素焼きのシンプルなコンロに炭を熾して、大きめな帆立貝の殻を乗せ、魚介類や肉、野菜を煮て食べることを総称して秋田では“貝焼き”と言うのだそうです。その代表的な料理が“ハタハタの塩汁貝焼”です。昔は男の子が成長して一人前になったら、その証として夕食の際に自分専用の貝風炉とお膳が用意されたのだそうです。
この珍しい貝風炉に、簡単に漆を塗った木の台、
そしてなぜか帆立貝の殻ではなくてこれまた珍しい土瓶がセットになって、なんと2000円というお値段。嬉しい収穫でした。東京に戻ってきて、早速貝焼きでもと大きめの帆立貝の殻を探しているのですが、なかなか適当な大きさのものが見あたりません。では、土瓶に湯を沸かして熱燗でも、と思ったものの、どうにも暖かくてその気になりません。暖かいのは助かるけれども、調子がおかしくなってしまいます。寒にはそれなりの楽しみがあるわけですからね。
(写真上:雪晴れの朝、角館武家屋敷の通りはシーンと静まりかえっていました。/写真中:これが貝風炉。漆を塗ることによって格調高く見せています。/写真下:なかなかお目にかかることもなくなった土瓶。)