kotoba日記                     小久保圭介

言葉 音 歌 空 青 道 草 木 花 陽 地 息 天 歩 石 海 風 波 魚 緑 明 声 鳥 光 心 思

痛みのリズム

2019年02月21日 | 生活詩
  




どれだけの寂しさが
どれだけの苦しみが
どれだけの悲しさが
彼を襲ったのだろう

さらに彼はたくさんの石を投げられ
心も体もズタボロになった

彼は怒った
どれだけの憎しみを
どれだけの苦しみを
悩みを
孤独を
背負わねばならぬというのだろう

彼を襲う数多のものに
抗するため
彼は
人を殴り
人を蹴り
金を巻きあげた

どれだけ人を殴っても
彼が背負った寂しさとは
帳尻が合わず
ぽつねん
彼は
黙った

喧嘩はめっぽう強くなったけれど
彼の悲しみと
彼の寂しさと
彼の苦しみは
彼の体を常に震わせた

彼はある日
赤の他人の夫婦に世話になることになった
彼はうろたえたけれど
夫婦の愛情に包まれ
荒れ狂う彼の拳と
怒る彼の魂は
親父とお袋に鎮められた

人並みに生きよう
彼は生き直そうと決意した
就職先の面接官は
彼の履歴書を見た
彼の体は小刻みに震えた

彼は就職し
結婚し
子供をもうけた

それでも彼の体は
震えていた
体の奥に横たわる
痛みの音が
常に彼のリズムになっていた

彼の体がリズムを刻むたび
わたしは背中をさすることぐらいしかできなかった

彼の生い立ちを知ったのはずっとあとのことだ
それを知らされなくても
彼が傷ついていることは判っていた
だからわたしに会うことを喜んだ
さする背中の傷の痛み
それはわたしの手などでは
判るはずがない
彼の目は美しく
彼の目がこの世を見るとき
この世は彼に優しくはない

君よ
もっと幸せになる義務があるのだ
君よ
他人とも自分とも戦ってきた分
もっと幸せになる義務があるのだ

君よ
君よ
本来の真面目さでもって
この世を大股で歩いてやれ
誰のためでもない
君を救った夫婦や
君を求めた奥さんや子供のためではなく
君は君のために生きるのだ
生きて生きて
もっともっと
幸せにならなければいけない
それは君の義務なのだ

風よ
吹きたまえ
彼のため
世のため

海よ
さらに青くなれ
彼の心が本当に鎮まるまで

影よ
さらに濃くなれ
彼の体が痛みのリズムに震えるのを
影よ
消しなさい
これは命令だ




コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 弥勒菩薩の夢 | トップ | ねぎを土にぶっ挿す »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿