荒野

荒野まで来てしまったよ
荒野まで来てしまったよ

彼は黒いフェルト帽を被って
小さな女の子の手を引いて
ビルの中に消えていった

もう彼はバス停に戻ってこない
あの家に帰ってしまった
ケンタッキーも
もうない
あんなふうに
笑うことはない

荒野まで来てしまったよ
荒野まで来てしまったよ
僕ら
歩いているうちに

荒野はずっと続き
どれだけこの先
歩いても
荒野は終わらない

彼の苗字が変わってから
僕は十年
時をやり過ごすだけだったよ

荒野へ来てしまったよ
荒野へ来てしまったよ
あとは干からびて
枯れるだけ

彼は若作りするけど
本当はしわだらけなのさ
僕は禿げあがって
眉毛は白髪なのさ

荒野へ来てしまったよ
荒野へ来てしまったよ
白い服の女の子
彼は子供を持って
荒野へ来てしまったんだよ

どす黒いこと
たくさんしてきたね
どす黒い思い
たくさんしてきたね
今
荒野の風に吹かれて
僕ら
荒野へ来てしまったんだよ

彼は言う

もう一人の彼は言う
「最近、人とすれ違ってしまうんですよ」
誰ともかみ合わぬ
その思い

もともと
私たちはひとりだったのに
しょうがなくて
交流しなければいけない時がある

その時
思うのだ

人と通じない

でも彼は
通じたいと思っているから
すれ違ってしまう感情に
わずか
おろおろする

どのドアを叩いても
門前払い
どのドアを叩いても
居留守

それでも
彼もわたしも
生きていく
孤独なんて
当たり前
それでいい

バス停 空港

彼はバスターミナルの
椅子に座る

行先の違う
バス停を見まわす

彼はあのバスが
どこへ行くのかを
知っている
あのバスに乗ったら
そう思う

椅子はひんやりとして
彼は手を振る

彼は空港へゆく
あの飛行機が
どこへ行くかを
知っているから
それに乗ったら
と思う
バスも
飛行機も
ほぼ
確実に
目的地に着くのだ
何時間後
彼は降り立つ
その街を歩いてみる

行きたい場所があるのは
本当に幸せだろうか
行けぬ苦しみを差し引いても
実は
彼
幸せなのだ

暑さ

どしゃ降りの
夏の雨
彼のあとをついて
山の細道をゆく

通り過ぎて

---

暑いと感
悲しみは
夢の場に座る

coffee

コンビニのカウンター
荷を置いて
一杯のcoffee
100円のひととき

何かを
思うつもりだった

けれど
何も
思わず
残りの
coffeeを
飲み
路地を
ゆく

散歩道

ずっと眠って
花冷えの昼

夕に雨がやんだ隙
厚手のコートをはおっては
外に出て
行きたい場所に迷わず向かう
それは
最近見つけた
散歩道
近場であっても
通り過ぎてきた道

横断歩道を渡って
まっすぐ歩き
遮断機の脇を
西へ進む
川沿いの道を
川を見ながら
歩いてゆく
川辺に降りる階段を
とんとんおりて
水かさが増した
川べりをあるいてゆく
カモがいて
さっと振り返ると
川の真ん中で
ぼしゃんと音がして
何かが川底に潜った気配に
うれしくなって
ゆっくり
ゆっくり
歩いてゆく

セイタカアワダチソウが
切られ
切られた口が
黒くなっている
土手に緑の葉がいっぱい出ていて
春がたくさん生きている

陽気の昼間なら
甲羅干しする亀たちも
見られるけれど
今日はみんな川の中

土手をあがる階段を進み
松の林を目前にして
ラジオ体操
雨が降りだしてきても
平気
スワイショウで
邪気を飛ばせ

雨はどんどん
降ってきて
傘が必要だろうけれど
平気
帽子もかぶって
厚手のコートは
雨を弾き
さあ
帰ろうと
歩いてゆく

雨は降る
どんどん降る
それでも
うれしいのは
慈雨を受ける
草木の思いが
判ったような
判らぬような

雨の落下で
息する草草
その声が
道路を走る
車の音に消されても
わたし
知っている

今度は亀を見にいこう

生活文学

陽気の中を
散歩する
大根を買い
キノコをたくさん買って
エコバックに入れて
自転車を漕ぐ

草木があれば
自転車押して
とことこ
歩く

明日は雨だというので
洗濯をたくさんする
夕方には
乾いている
そんな春の日

夜
三時間
電話で話す友
彼の示唆は
文学と思考の大波だ
打ち寄せて
体に宿る
本気の言葉は
やっぱり凄い
迫力がある
互いに生きて
あと二十年
するべきことは
しれている
今までしてきたことを
するだけだ
それは
文学であって
他にない

空は青い

空を見た
「空は青い」
と無言で思った
胸いっぱいで
「空は青い」
と響かせていた

強く響いていたものだから
手帳をひらいて
文字にして
「空は青い」
と書いていた

書記した
「空は青い」
という文字を見て
わたし
今更だけれど
驚いた
本当に
驚いた

言葉とはこういうもんだ
書記することによって
言葉の世界に成る

『文化』と
文と化する
と書くことも
こういうことだと
やっと判った

実際の青い空より
美しいものは
あるのだろうか
でも
もっときれいな青い空
わたしたち
言葉や
絵具や
映像や
音楽で
あらわすことができるのだ
人間は
未だ戦争するけれど
青い空を
書くことだって
できるのだ

大先輩

懐かしいひとたち
に
出会う

石の階段に座って
川を見ている

風、陽、青。

さくら
咲き始めている
川沿い
四季桜
交雑種コヒガンの品種
秋―初冬と春に
白色の花が咲く
バラ科

三つのコーヒーカップ
一つはアメリカン用の大きなカップ
大先輩たちの笑顔は
ネイティブを思わせる
一語も聞き逃してはならない
すべて勇気になる

生きてゆく
生きて
行く

サワフタギの葉

十時間も
眠ったままだった
海が目前に見える
岩影に身をひそめ
波の音を聞いて
夢を見ていた

三枚の毛布にくるまって
ペットボトルの水を飲んだ

明け方は冷えてきた
だから目をあける
すると
黒い海
やがて明るくなって
青い海
白い波
風が吹いて
潮の匂いが
強くなる

---

そのうち
流れが良くなるさ
土手に
草の
緑

クラシックが流れる
小さなスピーカーと
街路樹の間で
わたし
いつものように
何かを探すように
やっぱり
見るのだ
空を

カラス舞う

黄金色（こがねいろ）に
光っている

サワフタギの葉

---

帰
即
寝
起
入
雑
寝


　　　　　　
　　　　　　　　風よ、吹け

求道者の目

冬が終わり
温かい日が続き
春が来たと思ったら
冷たい雨が降る

打ち寄せる
未だ
打ち寄せて
波頭が叩く

そこまで歩いていた
戻る時もあった
止まる時もあった
それでも
そこまで
歩いていった

雨の中
歩いてゆく
誰のためになるだろう
何のためになるのだろう
信じて
歩いて
一歩ずつ
前へゆく

空を見あげる
雨粒が顔に当たる
冷たくて
強い雨だ

あの人は歌う
若き時から
歳を経ても
歌う
黄金の光を
探すため
求道者の如く
額に汗をかき
真摯に見つめている
一点を
その目も
傍らの年配者も
美しい目をしている
人間の美しさは
見事に目にあらわれる
お金を出しても
得られない
その瞳

病院が爆撃された

それは希望だった
それも希望だった
あれも
どれもこれも
うつろいやすくても希望であることにはちがいなかった

知らぬ
行ったことのない国
そのある街で空爆が続き
hospitalも爆撃された
sensou hanzai

―――

さびしくなると
歌が用意されていた

内省している
内省してゆく
静かになる

このさびしさ
おぼえがある
あの時だったか　
ギターを手をのばした

何かにつかまりたい
ミヤザワケンジの命綱

風は冷たく
風は冷たく

精神性なんかを
信じたばかりに
宝くじ買って
夢見ることになった

どうやって幸せになったらいいか
わからないときは
まずミルクティーを飲むことだ
すべてはそのあとだ

思考は天秤
マイナスとプラスを
ゆらゆら

おひさまに傘（WA）

静か

静かな朝
心も静まっている

ジンチョウゲの匂い
北風に乗って

ヒノキ花粉の始まり
スギよりキツイ

静まっている
何故だろう

蒸気の音が聞こえる
外はあったかい

あとから
散歩
土筆
亀
スワイショウ

ストレッチ

どんなめぐりあわせか

バスに乗って
地下鉄に乗って
高架の下を歩き
懐中電灯を照らして
その射程距離に驚き

メロンソーダの緑
泡の白

蜘蛛の巣と
蜘蛛

ストレッチ
花粉は夜中に

チューリップの芽と葉
地中に球根

温かき
林

自由の丘
その湾曲した道

土手の上
酸模（スカンメjは　　‐＝高田渡　スカン

赤土の

Mrムスタング

Jの呪縛が
解けてゆく

普通に生きていることを
当たり前だと思うな

ますます木が
近くなる

Mrムスタングは言った

腰痛には背筋を伸ばす　後ろで手を組み
寝る時も背筋を伸ばすように

ムスタング
ボルボ

ムスタングの
助手席に
乗りたいと言う

手渡された100円硬貨

3人に会って
世界が明るくなった

天使たちに
話しかけられ
笑顔をいただく
そんな幸せ