『あ』
生まれた時から
あ
と発語してきた
暮らしの中で
一日一度は発語する
あ
あなたを初めて見た時
胸の中で言う
あ
目が醒めた時
言う
あ
おいしいものを食べた時
おなかの中で言う
あ
悲しみの時
言う
あ
驚いた時
嬉しい時
まず
あ
と
胸で言う
わたしたち
毎日
あ
ばかり言っていて
あ
と言ってるあいだに
次の言葉がやってきて
口の中から
こぼれて発語
「そうか」「なるほど」「ちがうでしょ」
そのうち
発語は終わり
また
あ
と言って
次の言葉を
連れてくる
あ
は
機関車だ
短い客車と
長い貨物列車を
引っ張って
暮らしのレールを走ってく
時に
「うるさい」
とか
「わかってる」
と大きな汽笛を鳴らし
もくもく煙を吐きながら
あ
のことなど
気がつかず
あ
が
わたしたちを
前進させてることなんて
気にもとめず
平気な顔で
仕事にでかけ
洗濯をする
あ
と
胸の中で
発語しながら
生きてゆく
あ
は
暮らしと暮らしの
接続詞
ん
までゆく
その日まで
わたしたち
あ
あ
と
胸で
発語して
毎日毎日
進んでく
ん
まで行ったら
さようなら
ありがとう
またね
と
胸で言い
最後の発語は
やっぱり
あ
が良いね