千の天使がバスケットボールする

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『厳重に監視された列車』

2008-12-22 23:20:11 | Movie
とんでもない映画を観てしまった。『つぐない』ももろ私好みだったがチェコのイジー・メンツェル監督の『厳重に監視された列車』は、今年度鑑賞した中で最高の映画!、というよりも間違いなく生涯のベスト10に入る映画である。

第二次世界大戦下のナチス・ドイツに占領されたチェコの田舎町。(以下、一部内容にふれております。)
まだあどけない顔立ちのミロシュ(ヴァーツラフ・ネツカーシュ)は、年金の支給がはじまると早々に楽隠居した父と同じ鉄道員になった。のどかな田舎の駅で、鳩を飼うのが趣味でまぬけなメタボ腹の駅長と一日中女のことばかり考えている後頭部の薄くなりかけた女たらしのエロい先輩の元で、せっせと鉄道員の見習いをはじめる。小さな国のチェコは、あいかわらず大国に翻弄されているが、目下ミロシェの頭を翻弄している重要事項は、恋人の車掌のマーシャの存在だった。先輩にベッドの彼女の感想を聞かれたりとからかわれるのだが、内気なミロシェは、実はまだ・・・チェリー・ボーイ。
しかし、彼だって大人の世界には興味しんしん。

「女は自然が生んだ最高の宝石だ」

駅の用務をこなす爺さんだって、そう言っているではないか。
そんなミロシェにねがってもない初体験のチャンスがやってきた。マーシャから、彼女の叔父さんの家にふたりでお泊りするという甘い甘いお誘い。これにノラナイテはない。ところが、素敵なお誘いと彼女にのったはいいが、彼は経験不足ゆえに思うように”コト”は運ばなかった。(涙、もしくは爆笑)
なんとミロシュは最初の失敗で、自分は一生女を抱けないカラダと思いつめてしまうのだったが。。。

友人との待ち合わせ時間までのほんの軽い時間つぶしぐらいの感覚で観た映画。「ぴあ」で見つけた小さな作品紹介で、チェコ、モノクロ映像、暗そう、マニアックっぽい、「童貞」の2文字(←やっぱりそれか)で気に入りそう値踏みして鑑賞したのだが、本編がはじまる前の同じ監督の『英国王、給仕人に乾杯!』の予告編ですでにイジー・メンツェルの世界に私はすっかり魅せられてしまったのだ。つぎはぎだらけの予告編にも関わらず、この監督が個性的で独創的な世界を築いていること、そして笑いの質が芸術的であり、尚チェコ出身というお国柄だろうか、どうやら政治的であることも感じた。

そして観た本作品。冒頭のひなびた田舎の駅の佇まいだけでも笑える。駅舎から鳩がいっせいに飛ぶのを観ても笑い、タイトルをバックにエルガーの「威風堂々」が流れては笑い、ママが可愛い息子ミロシェの初出勤の着替えをさせながら帽子をかぶせる優雅な場面で笑い、3分に1回は笑い、そのたびに映画つくりのセンスのよさ、完成度の高さ、要するに監督の才能に感嘆させられた、というよりもミロシュを励ます青年医師役でもほれてしまった。この映画を製作した時、彼はまだなんと28歳。セリフは最小限に抑え、脚本、キャスティングも優れていて、構図は完璧。主人公の童貞喪失と成長や、女たらしの先輩のエロい遊戯やマーシャのセクハラ大好き叔父さんといったシモネタ話しを中心に次々と笑いの中に物語は展開していくのだが、市井の人々の牧歌的な暮らしと戦争下における不条理、支配者とレジスタンスといったシリアスさの社会性もさりげなく漂わせている。緊張感が高まるうちに最後はどうオチをつけるのかと思っていたら、想像もしなかった衝撃的な結末。誰も予測できないラスト。
93分映画の90分間、何度も笑った私の笑いはいったいなんだったのか。あのすべての笑いは、ラストの3分でそっくり意味をもって重く返すためだったのか。さすがに、チェコ人だ。日常におけるエロスとは、生命の輝きだったのだ。そして、そしてなんと尊い命の儚いことだろうか。

「コミカルな要素があるほど悲劇も際立つ」
今回の来日時のインタビューで応えている彼のベクトルは、最初の長編映画でもわかる。アカデミー賞外国語映画賞を受賞して世界にその名を知らしめたイジー・メンツェルも、今ではすっかりお爺さんになっている。

監督: イジー・メンツェル
原作 :ボフミール・フラバル
脚本 :ボフミール・フラバル/イジー・メンツェル
1966年チェコ製作



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2 コメント

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ああ・・・ (manimani)
2008-12-23 00:33:10
こんばんは
これ、観たいと思っていたのに忘れていました;;
こちらの記事を拝見してすごい後悔が・・・・;;生涯のベスト10とは・・;;
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ああ、、、 (樹衣子)
2008-12-24 22:14:10
・・・観のがしちゃったんですね・・・。笑。
そんな方には、『英国王 給仕人に乾杯!』を。
随分かわりましたが、イジー監督の真髄は随所で実感できます。ここだけでも最高と思える場面が連続します。エロネタも満載ですし。←その点だけは、老いても変わらず枯れずですね。
才能のある監督ですよ。
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