千の天使がバスケットボールする

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『ゴーストライター』

2011-09-19 06:49:44 | Movie
これほど作品の内容に先行して、映画を撮った監督自身の生涯が話題になる人もそうそういないだろう。
その人は、ポーランド出身のロマン・ポランスキー。
詳細は他のサイトやブログで何度も紹介されているので省略するが、幼児体験を含めて様々な特異で過酷な人生経験が作品に影響を与えていると巷間伝えられれば、人はそこにポランスキーの深い闇を見たがるものである。

ひとりの売れない英国人ゴーストライター(ユアン・マクレガー)がいる。体にすっかりなじんだスエードのジャケットと肩からさげたカバンが、この作家のさえない暮らしぶりと今後もそれほどかわりばえしない生活を予想させる。ここは英国である。成り上がるには、サッカー選手かミュージシャンになるしかない国だ。それほど、文才も世間を渡る如才もないけれど、いつかは本物を書きたい売文屋の彼に、思わぬ大きな仕事がころがりこんできた。それは、引退した元英国首相アダム・ラング(ピアース・ブロスナン)の自叙伝執筆の依頼だった。前任者が事故により死亡したためにまわってきた仕事。報酬もでかいぞ。彼は、仕事のためにラングが滞在するアメリカ東海岸の孤島に向かうのだったが。。。

舞台は”アメリカ”の東海岸の孤島にある豪華な元首相の別荘。英国人が別荘とは言え、アメリカに住んでいるということまず違和感を感じる。引退したとはいえ、秘書や執事、召使もいるなかなかリッチで快適な暮らしぶりに、ピアース・ブロスナンの笑顔が決まっているグッドルッキングと鍛えた肉体に、ある種のいかがさしさとかすかに嘘の匂いを感じ取っていく。島を渡るライターに、出会う人々は彼が一様に英国人であることが話題になり口にでる。ここに、アメリカの中の英国人というキーワードが隠されている。公開当初から、トニー・ブレアがモデルと言われているのだが、私の率直な感想は監督のむしろアメリカという国に対する不信感である。ここで、一度もアメリカに入国していない、というかできないポランスキーの事件も思い出したのも、私も純粋に作品だけを観るのではなく監督自身の人生を詮索したくなっているのだろうか。先日も、ガイトナー米財務長官が、欧州連合(EU)財務相非公式理事会に出席し、債務危機への対応力を高めるため、欧州金融安定ファシリティー(EFSF)の融資能力拡大を提案した。アメリカのファンダメンタルこそ悪いのに、世界の覇権国としての親切な提案に欧州が不快感をもったのには同感する。ただ、所詮、アメリカが世界を牛耳っていて、英国も親密だったのかという厭世観はあるけれど。

映画はユーモラスさを散りばめて巧みに展開し、ヒッチコックのような上質なサスペンス映画というエンターティメント性に目も心もすっかり楽しんでいる。完璧なセリフ、演技、演出に最後の最後まで気持ちがそらされないで集中して鑑賞してしまうという点でも、監督の超一級の職人芸に思わず感嘆してしまった。ロマン・ポランスキーのこれまでの作品の中で私は鑑賞済みの作品は、『ローズマリーの赤ちゃん』『テス』『死と乙女』『戦場のピアニスト』と少ないが、どの作品も強烈な印象を残している。またこれらの作品がひとりの同じ監督だったという事実にはじめて気がつき、中でも『テス』と『死と乙女』はお気に入りの映画だということだけでも、この監督の才能を今さらながら知ったという次第である。

名前のないゴーストライター役を演じたユアン・マクレガーは「僕は政治的な映画として見ているよ。政治家について描き、とても辛らつなコメントをしているポリティカルな映画だと思う」とコメントをしている。そうだった、やっぱり、彼も英国の俳優だ。

監督:ロマン・ポランスキー
2010年 英・仏・独製作