千の天使がバスケットボールする

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今時のモスクワっ子住宅事情

2010-02-06 11:49:22 | Nonsense
「毎朝8時、週に6日、同じ制服を着た少年少女は、ソビエト連邦全域で、同じ間取りの家を出て同じ形をした学校に向かった。8時半になるとソ連全土にある同じ作りの教室で生徒たちは席につく。」

数学の難問の「ポアンカレ予想」を証明した天才数学者グリゴーリー・ペレルマンの評伝「完全なる証明」を書いたマーシャ・ガッセンは、ペレルマンと同時代に旧ソ連で数学のエリート教育を受けた。その「完全なる証明」から抜粋した上記の文章は、著者が選抜されてエリート校に転入する前の一般的なこどもたちの登校の様子である。当時のモスクワ郊外には、灰色のコンクリートでできた全く同じ形をした9階建ての住宅群があり、その全く同じ建物の中の、全く同じ間取りのアパートにこどもたちは暮らしていた。40代に入ったばかりの著者の年齢から推測すると、30年ほど前の旧ソ連の無機質で寒々とした住宅事情が目にうかぶようだ。

やがてソ連はミハイル・ゴルバチョフを指導者に迎えてペレストロイカの波にのりロシア連邦と変わり、その頃の住宅事情はトニー・パーカーの「ロシアの声」を読むと多少伺えるものがある。結婚しても住む家がなくて親戚のアパートの間借りする新婚さんもいたり、またアパート建設作業に毎日数時間従事することで、完成後には優先的に入居する権利をえる予定の看護師さんもいた。アパートは所有するものではなく、国から支給されるものだった。それでは、現在のモスクワの住宅事情は。読売新聞の「世界の家」シリーズに、モスクワから郊外へ22キロ、不動産デベロッパーのアレクサンドルさん(52)の自宅が紹介されていた。

地下1階、地上2階、約600平方メートルのりっぱな家は、土地代こみで約100万ドル(9000万円)。アレクサンドルさんのこだわりで1階はイタリアの建築様式をとりいれて床にはイタリア風モザイクを敷いて明るく洗練されている。一方、2階部分は田舎生まれのルーツを忘れないために太い木材を組んだ山小屋風にしてスキーリゾート地に来たような雰囲気でペチカもある。サウナもあれば、室内に卓球台もあり、地下にはワインセラー。車は二台とも日本製のレクサス!とグランディス。豹柄のブラウスを着たちょい派手めの二番目の妻の隣で微笑むアレクサンドルさんは、45という数字のロゴが入ったTシャツにGパンとまるで大昔のアメカジ・ルック。勿論、収入は多い。
月収約90万円+モスクワに所有するアパートの家賃収入が約22万円。家賃収入に、旧ソ連時代とは隔世の感がある。支出部門では、食費9万円に光熱費9万円とさほど日本と隔たりはなさそうだが、11歳と9歳のこどもふたりの教育費が36万円。小学生に、何故そんなにお金がかかるのか・・・、と思ったら家政婦さんふたり分の給与はたったの18万円。家政婦ひとりの賃金よりも二倍もかける教育費か。伝統的に田舎暮らしを好むロシア人にとって、財をなして郊外の自然の中に一軒家を構えるのは成功の証だそうだが、暮らし方も米国流と感じたのが、この自宅がアレクサンドルさんが共同経営する会社が開発した湖のほとりにある高級住宅地「緑の村」にあることだ。村には、学校、ロシアでもテニス場、そしてロシアらしくスケート場、スポーツセンターにおまけにヨットハーバーまで備わっている。クリーム色のとてもおしゃれでりっぱな「緑の岬」への門には、ちゃんと警備員が常駐して”関係者以外入れない”。

こんな成功者アレクサンドルさんの成功の秘訣は。
「完全なる証明」によると、1931年、モスクワ大学で数学会の長であり20世紀初頭のロシア数学の泰斗だったドミトリー・エゴロフが追放されたと記されている。理由は、信仰の篤かったエゴロフが、プロバガンダに不都合な人物だったために宗教的セクト主義者として逮捕する必要があったからだ。ソ連のイデオロギーと相容れない遺伝子学などの多くの研究がいっせいに潰されたのもこの国らしい。かってソビエトの科学は国家に奉仕するために、そして偉大なる指導者スターリンに奉仕するために存在した。アレクサンドルさんもその中のひとりで、国家に奉仕するためのソ連海軍の研究所に勤務する物理研究者だった。ところがソ連崩壊で給与は激減。食事にも困る窮乏状態の時は、同時に不動産の個人所有を認められたばかりの不動産業がなりたちはじめたばかり。代行の手数料が1件で5000ドル。5000ドルは彼の給料10年分で即決したのが、今日の成功への第一歩だった。