千の天使がバスケットボールする

クラシック音楽、映画、本、たわいないこと、そしてGackt・・・日々感じることの事件?と記録  TB&コメントにも☆

アレクサンダー・ガヴリリュク  ピアノリサイタル

2009-07-08 23:01:34 | Classic
「神から選ばれたピアニスト」「ホロヴィッツの再来」「20世紀後半の最高のピアニスト」、はたまたromaniさま曰く「次の世代の最高のピアニスト」などなど、これまでさまざまなピアニストにも使われたかもしれないこのフレーズ、しかし彼がはたしてホロヴィッツの再来なのかどうかはわからないが、次世代の最高のピアニストには間違いない!彼のヴィルトォーゾぶりには、まさに衝撃をうけた一夜だった。

最初のベートーヴェンの「悲愴」の有名な和音による出だしからして、私めは驚きを禁じえなかった。完璧なテクニック、はこのクラスのピアニストだったら当然かもしれないが、まだ24歳という若さが信じられないくらいに深い精神性が感じられ、それでいて老成とは無縁な限りない可能性を秘めた若々しい鮮度が感じられる。これまでピアノで弾かれるベートーベンの音楽には、なにか寄り添えない厚い膜のようなものを感じていたのだが、ガブリリュク君が奏でる「悲愴」はかってないくらいベートーベンに対する親密性が感じられた。

そればかりではなく、次のショパンの「軍隊ポロネーズ」では、一転、若々しいショパンがよみがえって今そこで演奏しているかのようなショパンの真髄が宿っている。しかもどの音の一音一音磨かれた宝石が、ころがるように美しいのである。大事な音と音型があり、それをひきたてるための力をぬく音が全くなく、すべての音に意味があり、またすべての音がそれぞれに輝いている。ある音は真珠のように、ある音はダイヤモンドのように、そしてある音は夜空に燦めく星のように。
続くリストでは、まるで悪魔メフィストが舞い降りてきたようにドラマチックに変幻自在に、彼の指は次々と超絶技巧のテクニックを披露し、完璧に鍵盤から対象の音をつかまえていく。私の席からは、彼の指の動きがよく見えたのだが、どんなに難しい曲も指が易々と動いているのである。それでいて、テクニックが際だつ完璧さがもたらす冷たさがなく、エンターティメント性の浅さもなく、つややかであたたかみのある音楽。豪華絢爛。会場はまさにガブリリュクくんの世界に酔いしれた。日本人は慎ましいから拍手喝采で感動を伝えるが、外国だったらスタンティグ・オベーションで拍手鳴り止まずだろう。彼の演奏には、本当に興奮させられる。圧巻はホロヴィッツによる「カルメン変奏曲 」。こんな超難曲を巧みに、また音楽性をたっぷりと魅せて弾いてしまうからホロヴィッツの再来と言われてしまうのだろうが、しかし私の印象は、romaniさまと同様、ホロヴィッツ的なヴィルトォーゾという天才性をもちながらも彼のもつ音楽性は違うと感じた。何よりも”猫の額ほどの知性”というたとえの言葉が失礼なくらい、彼は作曲家のとらえかたに対しては知的なピアニストと思われる。

彼の目標は、「各作曲家の中心にあるエッセンスをとらえること、真実を見極めること」だそうだが、その言葉どおりまさにエッセンス、作曲家の真髄にせまる演奏に特徴がある。ガブリリュクくんは浜松国際コンクールで優勝して以来、日本人に人気のあるピアニストになっている。すっかり私も、私設応援団気分で早々に次回の来日演奏も楽しみにしている。それはそれでよいのだが、あえて不遜にも辛口を申せば、未来の巨匠の器があるのだから、今後欧米で知名度をあげて第一線で活躍しなければ巨匠にはなれない。ただの人気ピアニストとマエストロは違う。そしてドイツ・グラモフォンあたりでCDを録音しなけれないけないと思うのだが、、、。早速私もCDを購入したのだが、レーベルがなんとジャパン・アーツ・・・。ちょっと笑えるのだが、それでいいのか。
といっていたら

「それにしても、メジャーレーベルのプロデューサーは、なぜガヴリリュクをスカウトしないんだろう。
早くしないと、きっと後悔しますよ・・・」
こんなromaniさまの言葉を見つけた。全く同感であります!


------ 09年7月8日 オペラシティ --------

ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第8番「悲愴」
Beethoven: Piano Sonata No.8 "pathetique"

ショパン Chopin :軍隊ポロネーズ Polonaises Op. 40
           :即興曲 第1番 Impromptu No. 1
           :夜想曲 第8番 Nocturne No.8

リスト:メフィスト・ワルツ 第1番 「村の居酒屋での踊り」
Liszt: Mephisto Waltzes No.1 "The Dance in the Village Inn"

ストラヴィンスキー:「ペトルーシュカ」からの3楽章
Stravinsky: Trois mouvements de Petrouchka

ラフマニノフ:10の前奏曲 作品23より 第1,2,5,6,7番
Rachmaninov: Prelude Op.23 No.1,2,5,6,7

ビゼー/ホロヴィッツ: カルメン変奏曲
Bizet / Horowitz: Carmen Variation

[出演]
アレクサンダー・ガヴリリュク Alexander Gavrylyuk (ピアノ/Piano)


■アンコール曲
モーツァルト:ロンド 二長調 K485
モーツァルト(ヴォロドス編):トルコ行進曲
ラフマニノフ:楽興の時 第3番
メンデルスゾーン(ホロヴィッツ編):結婚行進曲