【岩崎俊夫BLOG】社会統計学論文ARCHIVES

社会統計学分野の旧い論文の要約が日課です。

時々、読書、旅、散策、映画・音楽等の鑑賞、料理とお酒で一息つきます。

川本三郎『我もまた渚に枕』晶文社、2004年

2013-01-18 22:04:28 | 旅行/温泉

          
  表題は島崎藤村作詞「椰子の実」の2番から。取材はせず、ぶらっと見知らぬ町を歩き、風景のなかに体を溶け込ませる他所者の流儀、ということらしい(p.264)。副題にあるように東京近郊を一人散歩の記録、所感である。短い文章で、やさしく丁寧な記述、行替えが頻繁でテンポがよい。著者の人柄がにじみでる。


  訪れているところは、「船橋」「鶴見」「大宮」「本牧」「我孫子」「市川」「小田原」「銚子」「川崎」「横須賀」「寿町」「日の出町」「黄金町」「千葉」「岩槻」「藤沢」「鵠沼」「厚木」「秦野」「三崎」。わたしは「大宮」「岩槻」「三崎」以外はあまり知らない。太宰が死の直前に大宮で暮らしていたこと、わたしの住んでいる蓮田と岩槻の間に鉄道が敷かれていたことが書かれているが、知らなかった。

  市川にある脚本家水木洋子の邸宅、鶴見にある石原裕次郎の墓、思わぬことが、たくさん出てくる。著者は映画評論家として有名だが、映画の話がたくさんでてくるのも好ましい。小説と地方の風景の関係についても新しい発見があったようで、そのことが書かれているくだりにいきあたると、わたしも行ってみたくなる(この本を片手に「船橋」「市川」「銚子」などにでかえるのもオツ)。千葉は鉄道の町、トンネルの多い横須賀、相模川沿いに発展した町である厚木など、土地の特徴をひとことでつなぎとめる感覚が新鮮。

  他方、三崎の「北原白秋記念館」には私自身訪れたことがあり、著者がその部分について書いた文章に出会うと嬉しくなる。ありふれた町のありふれた日常、路地裏、土地の匂いのする場所に入り込む著者。大衆的な居酒屋があれば、迷わず入って、地元の人とおしゃべりしながらビールに肴。散歩しながら夕食の場所を探し、目星をつけ、泊はビジネスホテルとか、リーズナブルなシティホテル。最高のぜいたくな時間の記録だ。

  雑誌『東京人』に「東京近郊泊まり歩き」として連載されたものの単行本化。


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