インパクトの大きい地域経済論の本です。というのは従来の固定観念を否定した問題提起を統計を使って実証的に行っているからです。
「まえがき」にあるように、「地域間格差などというものはない。都会も地方も、少しの時間差をおいて同時に沈んでいるだけだ」「日本で唯一小売販売額が増えているのは、東京都でも愛知県でもなく沖縄県である」などの主張をしています。
もっと言うと、地域振興にはモノづくりが必要、地域の活性化には工業立地が不可欠、新幹線がとおれば人口が増える、高速交通網の整備は人口減少に拍車をかける、女性の就業率の高さが少子化の原因のひとつというのは間違い、などなど。
しかし、中身を読むと納得する事ばかりです。統計の使い方の方法が斬新です。
まず、実数を加工した数値よりも大切にするという考え方。例えば、有効]求人倍率という数字で少子化の不安をかきたてる風潮がありますが、出生数は近年ほとんど変化がない、それよりも人口ピラミッドで実数の推移で見るほうが将来予測には適しているという考え方に立っています。なぜなら生産年齢人口が痩せていると、この部分は10年後、20年後に高齢化し子どもは産めない、したがって出生率が好転しても高齢化そのものが回避されるわけではない、ということです。
また「都市の連結キャッシュフロー」という方法。これは相互に関係の深い複数の市町村を1つの都市圏とみなし、居住者のネットの出入り(人口社会増減)を数値化するというものです。
個別地域経済論が面白くためになります。「静岡県・豊かだが人は素通り」「仙台都市圏・思わぬ人口流入ストップ」「沖縄県・全国唯一、就業者も小売販売額も増加」「鹿児島県・所得や預貯金学は低くても地域経済は活性化」「福岡県・乗り遅れが生み出した日本一の活力」「滋賀県・人口増加が最も長持ち長続きする理由」「北海道・経済よりも迫り来る高齢化が落とし穴」「関西圏・文化の蓄積活かせず、就労人口流出」。他にもたくさんありますので、是非読んでみてください。
「終章」で「東京に依存しない国土構造を」提起しています。それは要約すれば以下のとおりです。ドメスティックな視点を捨てること、東京のマーケットに依存しない産業構造をつくること、都市づくりを「サーバー&クライアント型」にすること、生活の質の向上をめざすこと、首都の置き場を再考すること、若者が人口再生産の低い東京に集中する構造をあらためること。
一読して、地域の将来のあり方を議論したいものです。