黒猫書房書庫

スイーツ多めな日々です…。ブログはちょー停滞中(´-ω-`)

『出世花』高田郁(祥伝社)

2010-06-23 | 読了本(小説、エッセイ等)
不義密通相手・梶井兵衛門と出奔した妻・お登勢を女敵討ちするため、幼い娘のお艶を連れて、久居藩を出た矢萩源九郎。しかしそれから六年、それを果たせぬまま流浪の末倒れた二人は、通りかかった住職・正真と青年僧・正念に救われる。今際の際、源九郎は、正真に娘に新たな名をつけて欲しいと頼み、息を引き取った。その願いを受けて、同じ音で“お縁”と名付けられた彼女は、彼らの寺…死者の弔いを専門とする墓寺・青泉寺に身を寄せることに。その仕事に接する中で、その仕事の大切さを感じてゆくお縁。
そんな中、菓子屋桜花堂の後妻・お香と主人・佐平が見初め、お縁を彼らの養女にという話が持ち上がるが……『出世花』、
三昧聖(湯灌師)として、寺で働くことになったお縁は、正縁と名乗ることに。女性の湯灌の依頼を頼まれることも多くなった。
寺にも出入りしている、龕師(柩職人)の岩吉は、“一枚岩”と噂されるひどい面相の持ち主だが、ひょんなことから心根の優しい人だと感じるお縁。
巷では、内藤新宿では髪切り魔が横行しているという。臨時廻りの同心・窪田主水から曰く、内藤新宿で評判の小町娘・油屋久兵衛の娘・お紋と同じ兵庫髷という結い方をしている女性が狙われているという。
そんなある日、さる藩主の正室ふみの乳母の湯灌を依頼されたお縁は、その屋敷からの帰り道に転んで怪我をし、岩吉に助けられた。
ところが、そんな岩吉が、お紋を襲った髪切り魔の下手人として捕らえられて……『落合蛍』、
お縁の噂は巷で評判に。そんな話を聞きつけて、ある日、寺に三昧聖に会わせろとひとりの女郎がやってきた。彼女はかがり屋という女郎屋の女郎・てまり。彼女が慕う、通いの女郎・おみのが病に床に伏しているのだが、そのおみのを湯灌して欲しいのだという。
住職の許可を得、五日間おみのと一緒に暮らすことになったお縁。
そんな中、評判の良くない地廻りの卯之吉が、てまりを番屋へ引き立ててていった。彼女の客である万蔵を殺害した下手人だというのだが、その誤解は定廻り同心の新藤によって解かれた。新藤曰く、同じような死に方をした男が、他にも二人いるのだという……『偽り時雨』、
正念の元に彼の母・咲也の危篤を知らせる者がやってきた。彼は出家前、さる大名家の若君だったというのだが、その話を聞いても耳を貸さず、優しい彼らしくない態度で冷たくあしらう。
さらに寺にやってきた、尾嶋多聞の娘・あや女…彼女は正念の異父妹。君主から咲也に下げ渡されたのが、たまたま功のあった彼女の父だという。正念には何人かの兄がいたのだが、次々亡くなり、彼のところまで順番がまわってきたところで突然出家したらしい。
やがて咲也は亡くなり、湯灌を頼まれたお縁は……『見送り坂暮色』の4編収録の連作短編集。

墓寺の住職たちに救われた少女・お縁が、三昧聖と呼ばれる湯灌師として成長する話。江戸版おくりびと的な感じ。
高田さんの作家デビュー作(表題作が)だそうですが、扱う題材は違うまでも、その後の作品にも通ずるものを感じますね~。

<10/6/23>

『薔薇を拒む』近藤史恵(講談社)

2010-06-22 | 読了本(小説、エッセイ等)
両親を事故で亡くし、施設で育った内気な少年・鈴原博人。
大学進学への援助を得る為、和歌山の山奥にある、裕福な事業家・光林康雅の屋敷で働くことを決めた…そこで三年働いて、大検で大学に合格すれば、その在学中の四年間の学費と生活費は彼が負担してくれるという、好条件を提示された為だ。
博人同様の条件で、同い年の少年・樋野薫も一緒に働くことになったのだが、彼にも複雑な事情があるらしい。
主人の光林は不在がちで、そこで専ら暮らしているのは身体の弱い妻・琴子、令嬢・小夜。そして小夜の家庭教師を務める・角倉幸。屋敷のことを取り仕切っている男性・中瀬、住み込みのお手伝いさん・登実、通いできている女性・弥生がいる。
真っ白なグレートデーン・桃子と戯れる、美しい小夜の姿に、次第に惹かれてゆく博人だったが、やがて、湖に浮かぶボートで殺人事件が発生。
捜査にやってきた和歌山県警の刑事・村上は、この家は弾薬庫のようだというが……

陸の孤島に建つ館で働くことになった身寄りのない美少年ふたりと、そこに暮らす美少女。さらに周囲の人々。それぞれに秘めている思いや思惑があり、愛憎渦巻く中で殺人事件に発展してゆくゴシック・ミステリ(…というよりはサスペンス?)。
ラストがとても印象的(個人的には、彼女は事実に気づいているのでは、と思うのですが、果たして真実は如何に)。

<10/6/22>

『鳩とクラウジウスの原理』松尾佑一(角川書店)

2010-06-21 | 読了本(小説、エッセイ等)
小さな広告代理店で働く二十五歳の貧乏青年・磯野。
そんな彼のアパートに転がり込んできた、無職になった大学時代の友人二人……常にドイツの軍服を着用している非モテ系の大男・ロンメルと、後輩の天然系乙女・犬さんこと犬塚栗。
そんな中、たまたま鳩に餌をやっているところをアフロ頭の老紳士・柳田に話しかけられた磯野。その老人は、鳩航空事業団の大阪鳩航空管制部に所属しており、彼を伝書鳩管制官としてスカウトしたいと言う。
鳩航空事業団とは、伝書鳩で手紙や荷物を運ぶ仕事をしている特殊法人だという。
食い扶持が増え、また本業の仕事の依頼が少ないこともあり、その話を引き受けた彼。同僚は、ほかに赤いボンデージファッションを身に纏い、桃ジュースを愛飲する女性・間宮のみ。
最近、鳩航空事業団では鳩にラブレターを運ばせる“鳩恋(ハトコイ)”というサービスを展開中だが、ある日、それを妨害する輩が現れた。“クラウジウス団”と名乗る彼らは、伝書鳩を捕獲、勝手に手紙の内容を書き変えたりしているらしい。彼らの目的は、世界のあらゆる恋愛を妨害することだというのだが……

第一回野生時代フロンティア文学賞受賞作。
ひょんなことから伝書鳩でラブレターを運ぶ仕事を手伝うことになった青年のお話。青春恋愛モノ?
ちなみに“クラウジウスの原理”は、エネルギーは高い方から低い方へと流れるという法則のこと。
モチーフ的には魅力的で好み(かなり森見テイスト…)なのですが、少ないページ数の所為か、手を広げすぎた所為なのか散漫で、いろいろな部分が足りない印象。特に後半が、もったいないかなぁ;

<10/6/21>

『鬼九郎孤月剣』高橋克彦(新潮社)

2010-06-20 | 読了本(小説、エッセイ等)
寛永二十年秋。
愛染明王の刺青を背負う、美貌の剣士・舫九郎は、まだ見ぬ父の住まう京へ向かう決意をする。同行するのは柳生十兵衛、天竺徳兵衛、荒木又右衛門、幡随院長兵衛、唐剣権兵衛、高尾太夫、紅嵐の7人の仲間たち。
しかしそんな彼らの行く手を阻むべく、差し向けられたのは風魔一党。頭領である小太郎の信頼篤い四鬼…東鬼、西鬼、南鬼、北鬼。
東鬼が九郎たちに挑み敗れた後、西鬼は蓮之丞という女形の旅役者に化け、一行の中に紛れ込むことに成功する。
しかし、いつまでも行動を起こそうとしない彼に業を煮やす南鬼たち。
そして加納七万石の地に辿り着いた一行。そこには、江戸の柳生で剣を学び、腕は立つもの、今は落ちぶれている武士・高澤恒志郎が住んでいるらしい。彼の様子を見るべく、その家に赴いた十兵衛だったが、あいにく留守。置き手紙を残したが、そんな十兵衛の後をつけてきた風魔の小五郎に、高澤は風魔の手助けを申し出る……

シリーズ第四作。父に会うべく京へ向かうことにした九郎の行く手を阻む、風魔や剣豪たちとの死闘…なお話でした。
前作が出たのがあまりに前過ぎて(十二年ぶり…)、だいぶ話を忘れ気味(笑)。
一応、彼の出生にまつわる話は一件落着したっぽいですが、続きが出るなら今度は早めに出て欲しい…;

<10/6/19,20>


『絲的サバイバル』絲山秋子(講談社)

2010-06-18 | 読了本(小説、エッセイ等)
住んでいる群馬県内のあちこちのキャンプ場に、知り合いの家の庭。静岡や、新潟、果ては講談社の庭や、セネガルの町・カヤールまで……不審に思われても何のその、たった一人でもキャンプをしながら、野外で食と酒に舌鼓を打つ。いろんなキャンプでの出来事を綴るエッセイ集。

どこにでもキャンプに出かけてしまう、意外にアクティブな絲川さんの姿が楽しいエッセイ。
構成や描き方にも工夫されていて、特にキャンプに興味がなくても(というか、そもそもあまり専門的なことは書いてないかも)、楽しめます。
群馬からだと結構来易いのか、新潟がちょくちょく登場するのに、にやりとしたり(笑)。

<10/6/18>