黒猫書房書庫

スイーツ多めな日々です…。ブログはちょー停滞中(´-ω-`)

『小暮写眞館』宮部みゆき(講談社)

2010-06-15 | 読了本(小説、エッセイ等)
結婚二十周年を迎える父・秀夫、母・京子が念願のマイホームを手に入れた。しかしそこは、彼らの酔狂な趣味により、衰退の一途をたどる商店街の一角にある、元“小暮写真館”。元の店主だった老人の幽霊が出ると噂される、看板をつけたままの古い建物で暮らすことになった、都立三雲高校一年生の花菱英一(花ちゃん)。彼には父母の他に、八歳年下の弟・光(ピカ)がいる。そんな英一と光の間には、風子という妹がいたのだが、幼くして病死していた。
そこで暮らし始めたある日、一人の女子高生が、迷惑をかけられたと苦情を言いにやってきた。曰く、フリマで買ったルーズリーフのセットの中に、小暮写眞館で撮ったらしい写真がまぎれこんでいたのだが、それが“心霊写真”だったのだという…そこには写っていたのは六人の男女と、七番目の顔だけの女の顔。責任を取れと迫る彼女に押し切られた英一は、友人のテンコ(店子力)とともに、その写真について調査を始める。
ひとまず、今の家を仲介した不動産屋・ST不動産の社長・須藤の元へ話を聞きに行った英一。そこには態度の悪い女性事務員・垣本順子がいて、そこに写っている六人は、新興宗教に帰依していた三田家の人々だという……“第一話 小暮写眞館”、
一月。ネットで先の一件が尾ひれ付きで流されたことから、バレー部の二年生・田部が、ある心霊写真について調べて欲しいと英一の元にやってきた。
それは彼女が、部の先輩である河合公恵とその両親・富士郎と康子と共に縁側で撮った写真なのだが、背後に彼らが悲しんでいる光景も写っているのだという。撮影したのは婚約者だった足立文彦。その後、彼らの縁談は破談となっていた。その写真の謎を追うことになった英一だったが……“第二話 世界の縁側”、
三雲高校の鉄道愛好会・通称<クモテツ>の一員であるヒロシ(田中博史)に、垣本に渡した<手数料>…走ってくる電車を、正面から見られる場所…の件で世話になった英一。
そんな中、須藤社長から、妻のママ友達に妙な写真を見せられた件で相談される。それはある子供が作ったプリントに写っていたもので、鳥の形をした黄色いぬいぐるみだが、その子…フリースクール<三つ葉会>に通う十二歳の少年・牧田翔は、それはかもめだといっているのだという。その謎を調べることになった英一は……“第三話 カモメの名前”、
夏。夫婦喧嘩をした父が家出した。その喧嘩の理由は、父方の祖父が危篤になったのだが、彼は母との<約束>を守る為に、実家へ行かないと言い張っているのだという。その約束には、花菱家の悲しい記憶が秘められていた。
そして光の様子もおかしく……“第四話 鉄路の春”を収録。

昔写真屋さんをしていた建物に住むことになった高校生・花ちゃんとその周辺の人々が、ひょんなことから写真にまつわる謎にかかわることになる、青春ミステリ。そして傷ついた人々の再生の物語でもあります。
厚さ(700ページ超え)をあまり感じさせない語り口で、ちょっと切ないながらもほのぼのと温かみのあるお話でした。
表紙に使われているのが、作中に登場した電車なのかな~。

<10/6/15>