478)医療大麻を考える(その8):大麻取締法第四条と人権

図:国家は「個人の幸福(人権:Human rights)」と「集団の幸福(公衆衛生:Public health)」を保護する役割が求められている。大麻に関する国家の介入は、個人に対しては医療目的で使用する権利や快楽を求める権利(人権)を保護する義務がある。一方、集団に対しては大麻の有害性を取り締るための薬物規制によって公衆衛生(集団の幸福)を保護する義務がある。司法は、この人権と公衆衛生のバランスで医療大麻使用の可否を判断しなければならない。昨今の大麻の医学研究の成果と、憲法や国際人権規約などによる「人権の規定」によって、全ての人間には「医療目的で大麻を使用する権利」が保証されていると理解できる。医療使用の場合は、公衆衛生(集団の幸福)には何の影響も及ばさないので、薬物規制の対象にはならない。すなわち、医療目的での大麻の使用の是非は、人権の視点を重視して判断されるべきものである

478)医療大麻を考える(その8):大麻取締法第四条と人権

【大麻取締法第四条で大麻の医療使用が禁止されている】
大麻取締法第四条で、大麻の医療使用を禁止しています。該当部分は以下のようになっています。

第四条
  何人も次に掲げる行為をしてはならない。


一 大麻を輸入し、又は輸出すること(大麻研究者が、厚生労働大臣の許可を受けて、大麻を輸入し、又は輸出する場合を除く。)。

二 大麻から製造された医薬品を施用し、又は施用のため交付すること。

三 大麻から製造された医薬品の施用を受けること。

そして、『この規定に違反して、大麻から製造された医薬品を施用し、もしくは交付し、又はその施用を受けた者』は五年以下の懲役に処する(第二十四条の三)となっています。
「何人も」と定められているため、患者、医者、研究者であっても、例外なしに大麻を医療目的で使用することはできません。海外で有効性が証明されている疾患でも日本では大麻は使用できません。病気の治療目的であっても大麻を使用すれば、医者も患者も処罰されます。

【大麻の有害性はタバコやアルコールよりも低い】
大麻取締第四条の条文は、医学的および常識的に考察すると、極めて理解しがたい異常な条文です。大麻の医療使用を禁止することを法律で規定することに何の意味もないからです。
ある植物あるいは成分を「医療目的で使ってはいけない」とわざわざ法律で規定しているのは大麻くらいです。
そもそも、医薬品は基本的に毒性を有し、副作用のリスクを伴うものです。毒性があっても、薬効のメリットが勝れば、医薬品として利用できます。
抗がん剤のように毒薬や劇薬に分類される毒性の強いものでも医薬品として認められています。

米国ではモルヒネの副作用で1年間に16000人以上が死亡し、1年間に数十万人が救急外来に運ばれているというデータがありますが、医薬品として普通に処方されています。
食中毒の原因となるボツリヌス菌の毒素(ボツリヌストキシン)は致死量が体重1kgあたり1μg(1mgの1000分の1、1グラムの100万分の1)という自然界で最も強力な毒性を持っていますが、その注射製剤が、斜視や痙性斜頸や眼瞼痙攣など多数の疾患や美容のしわ取りなどで、日本を含め多数の国で認可されています。
ボツリヌストキシンは生物兵器禁止条約(細菌兵器(生物兵器)及び毒素兵器の開発、生産及び貯蔵の禁止並びに廃棄に関する条約)で開発・生産・貯蔵・輸出入が国際的に制限されていますが、医薬品としては世界各国で使用されています。
美容関係ではしわ取りや小顔や部分痩せや多汗症などで、ほとんどの美容整形クリニックが扱っています。
このように自然界最強の毒であっても医療目的で利用できることを理解すれば、大麻の医療使用をわざわざ法律で禁止する根拠は常識的には理解できません。

健康や社会に対する大麻の有害性は、タバコやアルコールに比べるとは極めて低いのは良く知られています。
WHOからの報告(2011年)によると、アルコールとタバコが原因の疾患による死亡数は全死亡の12%を占めると推定されています。米国では喫煙による健康障害に対する医療費が1年間に960億ドル、アルコールの場合は、健康障害の他にアルコール関連の犯罪や社会問題に対する費用を含めると、トータルのコストは年間2000億ドルになると推定されています。つまり、タバコとアルコールによる健康や社会に対する被害は米国では1年間で30兆円を超えると推定されています。
このような社会に対する被害の大きいアルコールやタバコが許可されて、ほとんど社会に対して被害を及ぼしていない大麻の医療使用を禁止する必要性は無いはずです。

英国の臨床系学術雑誌としてはトップレベルの「ランセット(Lancet)」の編集部は「Deglamorising cannabis(奪われゆく大麻の魅力)」という論説を発表しています(Lancet 346(8985), 1241, 1995年)。
この論説には大麻が医学的に極めて安全であることをはっきりと述べています。
この論説の最初に「大麻の吸引は、たとえそれが長期間に及ぶものでも、健康には害はない。」と断言しています。また、「大麻を使用する人に健康上の害は何もない。大麻を禁止する法律が無くても犯罪は増えない。」とも述べて、大麻の非犯罪化や合法化を認めるべきだと言っています。
大麻を禁止する科学的根拠もメリットも無いという主張です。

ランセットは2003年にタバコは非合法化すべきだと主張しています。つまり、医学的権威は大麻よりタバコの方が健康や社会に対する有害作用ははるかに強いと断言しているのです。(412話参照)

【大麻取締法第四条を改正しないのは行政の怠慢】
日本では、戦前までは、大麻は漢方薬や大麻チンキなどと医療利用の長い歴史がありました。日本薬局方でも戦前までは医薬品として記載され、薬効が表示されていました。民間薬としても「喘息に良く効く」と記載されています。
戦後、GHQ(連合国総司令部)が大麻全面禁止の指令を出してきたとき、GHQが大麻の麻薬性を問題にしていると考えて、精神作用のある成分を含みマリファナの原料になる花穂と葉を厳禁し、茎と種子は利用可能にして大麻の農業利用を存続させようとしました。
つまり、大麻の医療利用は、農業利用の存続のためのスケープゴートになったのです。
このため、大麻取締法では、大麻を『大麻草(カンナビス・サティバ・エル)及びその製品をいう。ただし、大麻草の成熟した茎及びその製品(樹脂を除く。)並びに大麻草の種子及びその製品を除く』と定義し、医療使用に関しては厳禁することになったのです。
GHQの大麻全面禁止指令を、医薬品としての大麻を厳格に取り締まることで回避しようとした結果が第四条といえます。(詳細は470話参照)
これは約70年前の法律です。そして、1952年4月28日にサンフランシスコ講和条約が発効し、日本の独立が回復した以降は、大麻の医療使用を認めるように大麻取締法を改正すべきでしたが、行政も政治家も誰も何もしなかったということです。
その怠慢を行政訴訟で訴えても良いくらい、大麻取締法はほったらかしにされ、公益財団法人「麻薬・覚せい剤乱用防止センター」のように全く間違った情報を流し続けています。
厚労省や警察は「大麻は危険な薬物である」と喧伝しています。日本では大麻に関する議論は、覚せい剤やヘロインなどの麻薬と同一視されて「ダメ・ゼッタイ」のスローガンのもとで完全な悪者扱いとなっています。
しかし、世界中で大麻の解禁が進んでいます
米国コロラド州では2014年から、嗜好品としての大麻販売が解禁となりました。
オランダには「コーヒーショップ」と呼ばれる大麻販売店があり、大麻を購入・消費できます。少量であれば所持も非犯罪化されています。
ヨーロッパの多くの国やカナダやオーストリアなどでは、大麻所持は非犯罪化されているか、せいぜい軽犯罪の扱いになっています。
このように、世界的には大麻解禁の流れが加速していることを考慮すると、医療目的での所持も使用も禁止している日本の現状は、もはやそれを支持する根拠がありません。

【全ての人間は健康を求める権利がある】
健康(health)というのは、単に「病気がない」ということだけを意味するものではありません。世界保健機関(WHO)憲章では、その前文の中で「健康」について、次のように定義しています。

Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.

(健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが 満たされた状態にあることを言う。)

さらに続いて以下のように言っています。

The enjoyment of the highest attainable standard of health is one of the fundamental rights of every human being without distinction of race, religion, political belief, economic or social condition.

(人種、宗教、政治信条や経済的・社会的条件によって差別されることなく、最高水準の健康に恵まれることは、 あらゆる人々にとっての基本的人権のひとつです。)
(日本WHO協会訳)

つまり、WHOは私たちが最高水準の健康を求めることは基本的人権であると断言しています。
さらに、健康を求める人間の権利は、国際人権規約によって国際的に保護されています。
この規約の正式名称は「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約 ( International Covenant on Economic, Social and Cultural Rights)と言い、1976年に発効し、日本は1979年に批准しています。そのA規約の第十二条に以下のように記載されています。

経済的,社会的及び文化的権利に関する国際規約(A規約) 第十二条

1 この規約の締約国は、すべての者が到達可能な最高水準の身体及び精神の健康を享受する権利を有することを認める。
2 この規約の締約国が1の権利の完全な実現を達成するためにとる措置には、次のことに必要な措置を含む。
(a) 死産率及び幼児の死亡率を低下させるための並びに児童の健全な発育のための対策
(b) 環境衛生及び産業衛生のあらゆる状態の改善
(c) 伝染病,風土病,職業病その他の疾病の予防,治療及び抑圧
(d) 病気の場合にすべての者に医療及び看護を確保するような条件の創出

全ての人間にとって健康を求めることは、国家から干渉を受けない人権として保証されています。このことは、国際的な約束事であり、日本も守る義務があります。

【医療大麻は薬物規制の対象にはならない】
国家および司法は、個人の幸福(人権)と集団としての市民の幸福(公衆衛生)を保護することが求められています。
娯楽目的での精神活性薬の使用を制限する「薬物規制」は、公衆衛生を保護するために必要です。この場合、一般市民の健康と福祉と公衆道徳や安全を守ることが根拠となります。
娯楽用の大麻の使用は一部の国や地域で合法化されていますが、まだ、薬物規制の対象として考えられています。
WHOによる「健康(health)」の定義では「完全な幸福」が包含されており、快楽(pleasure)も価値ある合法的な健康の結果であると受け入られています。
しかし、薬物政策の領域ではそうではなく、薬による快楽はしばしば否認されたり嫌悪の対象になっています。
個人には「快楽を求める権利」がありますが、それが公衆衛生(集団の幸福)に悪影響を及ぼす場合には、薬物規制を行うのが国家や司法の義務になります。
大麻は、タバコやアルコールより社会に対する有害性は極めて低いのですが、娯楽用大麻は集団の幸福(公衆衛生)の観点から、日本における大麻規制への反論は難しいかもしれません。日本ではまだ多くの国民が、大麻に対する根拠のない拒否感や嫌悪感を持っているからです。 

図:国家や司法は人権(個人の幸福)と公衆衛生(集団の幸福)の両方を保護する必要がある。娯楽用大麻の場合は、人権よりも薬物規制による公衆衛生の保護の方が重視されても仕方ない。

一方、医療大麻の使用による病気の治療を求める(あるいは、自己治療する)患者の権利(人権)と公衆衛生のバランスを考えるとき、人権の方が重視されるべきです。
医療目的での大麻の使用は、公衆衛生にはほとんど影響を与えないので、薬物規制の対象外になるはずです。つまり、大麻の医療使用を求めるとき、大麻の有害性の取り締まり(薬物規制)の対象にならないと言えます

 

図:全ての人間は、病気を治して健康(幸福)になる権利が基本的人権として認められている。したがって、「適切な治療を受ける権利」や「自分で治す自己治療の権利」は人権として認められている。大麻に医療用途があることは多くの研究で証明されている。また、大麻を医療目的で使用する場合や自己治療に使う場合、公衆衛生(集団の幸福)に対する影響は無いと言える。したがって、医療大麻の使用は有害性の取り締まり(薬物規制)の対象外になると考えられる。医療大麻の是非の法的な議論は、人権を重視して判断すべきである。

個人の人権と公衆衛生学的政策(薬物規制)におけるバランスは娯楽用使用と医療目的での使用で異なると考えられます。
健康を求めることは基本的人権として認められていますが、WHOによる「健康(health)」の広い概念を理解できないと、医療用大麻使用の問題に対して偏狭的な考察しかできず、健康を希求する人々の権利を適切に理解することができず、公衆衛生の本来の目的を妨げることになります。
このような、人権の観点から医療大麻の使用に柔軟に対応すべきことは、国際法や人権の観点から指摘されています。

【大麻取締法第四条は人権を侵害している】
大麻に医療効果があり、特に難病や末期患者の疼痛や食欲低下や消耗状態を改善し、うつ状態を軽減し、気分を楽にする効果など、多くの有益な効果が明らかになっています。
がん治療における有効性や有用性も多数報告されています。
がん治療に大麻を使用するメリットがあることを、がん治療に関して世界で最も信頼性と権威のある米国国立がん研究所とアメリカがん協会が公式に認めています。(474話477話参照)
死期が迫っている末期がん患者において、大麻から得られる高揚感(ハイな気分)と気分の上昇は症状の改善に役立つことが指摘されています。

世界で最もレベルの高い臨床系学術雑誌のニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(New England Journal of Medicine: NEJM)は、1997年にその当時の編集長のジェローム・P・カシラー博士(JEROME P. KASSIRER, M.D.)が以下のようなEditorial(論説)を書いています。

Editorial: Federal Foolishness and Marijuana(連邦政府の愚かさとマリファナ)N Engl J Med. 336(5):366-367, 1997年

この論説は、カリフォルニア州で医療大麻の使用が承認されたとき、連邦厚生省(Health and Human Services)の長官や司法長官を含む連邦政府の職員が、医師に大麻の処方を行おうとした医師を迫害したことに対しての意見を述べています。この論説のなかで、以下のように述べています。

『重病の患者にマリファナを処方することによって患者の苦痛を緩和しようとする医師の行為を禁じる連邦政府の政策は、誤った指導であり、非情で非人道的であると私は確信している。

マリファナを長期間使用すると何らかの有害作用がでる可能性はあるかもしれないし、マリファナの使用が依存性を引き起こす可能性はある。しかし、そのような重病の患者にとっては長期的な副作用も依存性も、関係のないことである。

強度の呼吸困難や疼痛を緩和するために医師はモルヒネやメペリジン(meperidine; 合成オピオイドの一種)を処方することが合法的に認められているのに、マリファナの処方が禁止されているのは間違っている。
モルヒネやメペリジンは症状を緩和する用量(有効量)と死に至る服用量(致死量)の差が非常に狭い。しかし対照的に、マリファナを多く吸っても死ぬことはない。

治療効果の証拠を要求することも間違っている。
患者が経験する有害な感覚を定量化することは極めて困難である。
このような安全域の広い治療の評価は、二重盲検試験のような臨床試験でその効果を証明することではなく、重病の患者がその治療によって症状の緩和を感じるかどうかが最も重要である。』

末期の患者などが大麻を使用したいという希望を連邦政府が妨げるのは人道的に間違っているとはっきり述べています。
カシラー博士は著明な臨床家で1991年から1999年までNEJMの編集長を勤めています。NEJMの編集長というのは、医学的な権威は世界最高レベルです。

そもそも、大麻に医療効果があることは、すでに医学の常識になっています
それは、大麻成分が結合する幾つかの受容体(カンナビノイド受容体)の存在が1990年代に明らかになったからです。

すなわち、体内にはこれらのカンナビノイド受容体に作用する内因性のカンナビノイドが存在し、この内因性カンナビノイド・システムが、記憶・認知、運動制御、食欲調節、報酬系の制御、鎮痛、免疫機能や炎症の制御、エネルギーの貯蔵や消費など、様々な生理機能に関与しています。

したがって、様々な病気の治療薬のターゲットとしてこの内因性カンナビノイド・システムが注目されており、大麻の薬効もこのシステムへの作用という観点から理解されています。
内因性カンナビノイドの存在が明らかになった1990年以降は、科学者の大麻に対する認識は規制薬物から医薬品に変わっています。

すでに、「大麻をがん治療に使う医学的根拠は十分にある」という意見に反論することは不可能になっています。
医療大麻の副作用(毒性)は抗がん剤に比べれば格段に低いことは明らかであり、アルコールやタバコやカフェインより安全性が高いことも証明されています。
米国やカナダなど多くの国や地域で医療大麻の使用が許可されるようになっています。
日本において、抗がん剤が認められて、医療大麻が認められないという現状に関しては、医学的根拠も正当性もありません。
これだけ、大麻の医療用途や医療効果が明らかになった以上、医療大麻が使用できないのは、健康や幸福や生存を追求することを保証した基本的人権の侵害にあたると言う意見は多くあります。
大麻の医療目的での使用を禁止している「大麻取締法第四条」が、「我々の基本的人権を侵害している」ことを証明するのは比較的簡単です
大麻に「医療用途がある」ことが証明されているからです。したがって、治療目的での利用を制限している大麻取締法は「健康」を求める権利(人権)を侵害しています。
さらに、前述のように、医療使用の場合は、公衆衛生(集団の幸福を追求)のために薬物規制は適用する必要が無いからです。 

【人権を侵害しているので、大麻取締法は憲法違反になる】
2016年2月現在、アメリカ合衆国では23州と首都のワシントンD.C.(コロンビア特別区)と2つの準州(プエルトリコとグアム)で医療大麻が合法化されています。
州によって合法化の程度は異なりますが、多くの州で使用が許可されている疾患は、医療大麻の効果が期待できる疾患と言えます。

このような疾患して、悪液質、がん、HIV感染症やエイズ、緑内障、吐き気、慢性疼痛、多発性硬化症、てんかん、けいれん発作、クローン病やその他の炎症性腸疾患、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、C型肝炎、心的外傷後ストレス障害(PTSD)などがあります。その他にも、多数の難病性疾患に対して効果が報告されています。
すなわち、医療大麻ががんを含めて多くの疾患の治療に有効あるいは有益であることは、米国やカナダなど多くの国の医師が認めていることであり、日本の医師がそれに反論することはもはや不可能です。
したがって、医療大麻を使用する医学的根拠があるのに、その使用を禁じている大麻取締法の第四条は健康を求める人権を侵害しています
人権を侵害しているのであれば、憲法違反になるのは明らかです。
憲法の本質は「基本的人権の保障にあり、国家権力の行使を拘束・制限し、権利と自由の自由の保障を図るためのものである」とされています。
日本国憲法第13条には「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」が保障されています。いわゆる生存権と幸福追求権です。

他人や社会に迷惑をかけなければ、自らの命を長らえることを希望することや幸福を追求することは全ての国民に保障された権利です。
したがって、日本で医療大麻が使えない状況(大麻取締法第4条)は、生存権と幸福追求権を保証した日本国憲法に違反しています。

また、世界医師会は医療を受ける患者の権利をまとめて発表しています。これは1981年にポルトガルのリスボンにおける世界医師会第34回総会で採択されたため、通称「リスボン宣言」と呼ばれています。

この宣言には患者の権利が11項目に分けて列挙されており、その中に以下のような原則が記載されています(日本語訳は日本医師会のホームページから引用)。

1.良質の医療を受ける権利
b. すべての患者は、いかなる外部干渉も受けずに自由に臨床上および倫理上の判断を行うことを認識している医師から治療を受ける権利を有する。
c. 患者は、常にその最善の利益に即して治療を受けるものとする。患者が受ける治療は、一般的に受け入れられた医学的原則に沿って行われるものとする。

10.尊厳に対する権利
b. 患者は、最新の医学知識に基づき苦痛を緩和される権利を有する。
c. 患者は、人間的な終末期ケアを受ける権利を有し、またできる限り尊厳を保ち、かつ安楽に死を迎えるためのあらゆる可能な助力を与えられる権利を有する。 

1のbとcの項目は、「がん治療に医療大麻が有益である可能性」が指摘されている以上、医療大麻を使った治療を受けたいという患者の希望を、大麻取締法という外部干渉で拒否することはリスボン宣言に違反すると解釈できます。
また、医療大麻が末期の患者の苦痛緩和に有効であることは多くの臨床研究によって明らかである点を考慮すると、大麻取締法が末期患者への大麻使用を禁止していることはリスボン宣言の10のbとcに違反しています。
このリスボン宣言の序文には「医師は常に患者の最善の利益のために行動すべきである」「医師および医療従事者、または医療組織は、この権利を認識し、擁護していくうえで共同の責任を担っている。」「法律、政府の措置、あるいは他のいかなる行政や慣例であろうとも、患者の権利を否定する場合には、医師はこの権利を保障ないし回復させる適切な手段を講じるべきである。」と記載しています。
つまり、このリスボン宣言が世界中の全ての患者に適用されなければならない原則であるならば、医療大麻の医療効果が証明された以上、大麻取締法で医療大麻を禁止していることはリスボン宣言に違反しています。

そもそも、「医療大麻」は医学領域の問題であり、行政や司法が介入するべき根拠はないと思います。もし、行政が行うべきことがあるとすると、それは患者の人権を保護するために医療大麻を使えるようにするべきであって、薬物規制の考えを適用することは医療使用の場合はできないはずです。

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