738)ミトコンドリア活性化によるCOVID-19重症化予防(その2):エネルギークライシス

図:新型コロナウイルスのSARS-CoV-2の感染によって肺炎(COVID-19)が発症する(①)。重症化すると敗血症や急性呼吸窮迫症候群(ARDS)や多臓器不全が起こり、究極的には細胞レベルのミトコンドリア呼吸の破綻が起こる(②)。活性酸素の産生が亢進して、ミトコンドリアの酸化傷害が引き起こされる(③)。ニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド(NAD+)の前駆体のニコチンアミド・リボシドやニコチンアミド・モノヌクレオチドの補充はNAD+/NADH比を高め(④)、サーチュイン1を活性化する(⑤)。サーチュイン1はPGC-1α(PPARγコアクチベーター1α)を活性化し(⑥)、PGC-1αはミトコンドリア新生を亢進して(⑦)、細胞内のミトコンドリアの数と量を増やす(⑧)。PPAR(ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体)の汎アゴニスト(受容体に結合して活性化する物質)であるベザフィブラートと水素ガスは、PPARを介してPGC-1αを活性化する(⑨)。ジクロロ酢酸とビタミンB1はピルビン酸脱水素酵素を活性化する機序でミトコンドリア機能を亢進する(⑩。抗酸化作用のあるメラトニン、CoQ10、αリポ酸、水素ガスは活性酸素を消去してミトコンドリアの酸化傷害を阻止する(⑪)。これらを組み合わせてミトコンドリアの機能障害とATP産生低下を阻止する治療は、COVID-19における重症化を阻止することができる。

738)ミトコンドリア活性化によるCOVID-19重症化予防(その2):エネルギークライシス

【サイトカインストームがCOVID-19の病状悪化に関連する】
新型コロナウイルス感染症(Coronavirus Disease 2019:COVID-19)から分離されたコロナウイルスはSARS-CoV-2(Severe Acute Respiratory Syndrome CoronaVirus 2)と命名されています。
SARS(Severe Acute Respiratory Syndrome)は日本語では「重症急性呼吸器症候群」と訳されています。つまり、重症の肺炎を引きおこすウイルスです。
SARS-CoV-2に感染しても8割くらいは軽い症状で推移して自然に治癒します。しかし、2割くらいは肺炎を発症し、肺炎に進展した患者のさらに⼀部が、重症化して集中治療や⼈⼯呼吸を要する病状になります。

SARS-CoV-2感染で死亡する場合は、肺と全身で重度の炎症反応が起こって、急性肺損傷、急性呼吸窮迫症候群、敗血症、多臓器不全が起こることが主な原因となっています。これは他のコロナウイルス(SARSやMERS)や新型インフルエンザでも重症例は同じです。
急性呼吸窮迫症候群(Acute Respiratory Distress Syndrome:ARDS)は、肺炎や敗血症などがきっかけとなって、重症の呼吸不全をきたす病気です。さまざまな原因によって肺の血管透過性(血液中の成分が血管を通り抜けること)が進行した結果、血液中の成分が肺胞腔内に移動して肺水腫を起こします。

図:正常な肺胞はI型とII型の2種類の肺胞上皮細胞で覆われ、表面にはサーファクタントが存在して肺胞が広がりやすくしている(①)。肺胞内にはマクロファージも常在する。ウイルスが感染すると免疫応答が起こり、活性化したマクロファージ(②)やウイルスが感染した肺胞上皮細胞から炎症性サイトカイン(TNF-α, IL-6, IL-1βなど)やケモカインの産生・分泌が亢進する(③)。肺胞内は好中球やマクロファージなどの炎症細胞が増え、炎症細胞から産生される活性酸素などによって肺胞上皮細胞は傷害され、浸出液によって肺胞水腫が発生し、肺胞上皮表面には硝子膜(血漿成分が固まったもの)が形成され、びまん性肺胞傷害が起こる(④)。急性呼吸窮迫症候群(ARDS)はびまん性肺胞障害によって起こり、急激な呼吸不全を起こす(⑤)。肺病変のARDSからさらに全身性病変の敗血症や多臓器不全に移行すると死に至る(⑥)。

このような病態は、サイトカイン・ストームが関与していると考えられています。
COVID-19症例の死亡の予測因子としてフェリチンやIL-6の上昇が確認されており、COVID-19患者の死亡が、ウイルスによって誘発された過剰炎症による可能性を示唆しています。

体内に細菌やウイルスが侵入すると、体に備わった免疫システムが、これらの病原菌を排除するために働きます。このとき、サイトカインケモカインというタンパク質が免疫細胞や炎症細胞から産生され、免疫細胞が活性化され、病原菌を排除します。敵が排除されれば、免疫システムは自らオフになるように制御されています。
しかし、一部の人では、炎症反応や免疫応答が過剰に発現し、サイトカインが過剰に産生され、そうしたサイトカインが誤って肺や肝臓など複数の臓器を傷害し、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)や多臓器不全を引き起こします。
このようにサイトカインが過剰に産生される状態がサイトカイン・ストーム(cytokine storm)です。ストーム(Storm)は嵐という意味です。

図:ウイルスは肺胞上皮細胞(①)や肺胞内のマクロファージ(②)に感染し、細胞内で増殖して数を増やし放出される(③)。感染した上皮細胞からサイトカインやケモカインが産生される(④)。マクロファージはT細胞にウイルス抗原を提示し(⑤)、活性化されたT細胞(⑥)や活性化したマクロファージ(⑦)からも炎症性サイトカインやケモカインが産生される。このような炎症応答が過剰に起こりサイトカイン産生抑制の制御が不能な状態になるとサイトカインストームが起こる(⑧)。サイトカインストームは、敗血症や急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を引き起こす(⑨)。

急性呼吸窮迫症候群(ARDS)や多臓器不全は、究極的には細胞レベルのミトコンドリア呼吸の破綻によるエネルギー・クライシス(energy crisis)によって細胞死が起こるので、全ての細胞のミトコンドリアの酸化傷害を軽減し、ダメージから保護し、ミトコンドリア機能を高めることはARDSや多臓器不全の予防と軽減に有効性が期待できます。

ミトコンドリアの呼吸機能を高めことによってエネルギークライシス(Energy crisis)を避ける方法としてジクロロ酢酸、メラトニン、ベザフィブラート、水素ガス、CoQ10、ニコチンアミド・リボシド、ニコチンアミド・モノヌクレオチドなどがあります。(トップの図)。

【メラトニンはミトコンドリアを酸化障害から保護する】
メラトニンは主に松果体から分泌されるホルモンで、睡眠覚醒サイクルなどの日内リズムの調節に重要な役割を果たしています。
メラトニンは、ヒトにおいて、睡眠誘導や概日リズムの制御、抗酸化作用、抗炎症作用、免疫調節、生体防御、神経細胞保護、発がん予防やがん細胞の増殖抑制作用など多彩な作用を発揮します。

松果体は脊椎動物しか存在しません。したがって、最初はメラトニンは脊椎動物においてのみ存在すると考えられていました。しかし、1984年に昆虫にメラトニンが存在することが報告されて以降、メラトニンは細菌やプランクトンや植物を含めて、自然界に広く存在していることが明らかになっています。
さらに、メラトニンがミトコンドリアで産生されており、したがって、ミトコンドリアを持たない赤血球以外のほとんどの細胞でメラトニンが産生されていることが明らかになっています。

細菌がメラトニンを合成していることが明らかになっています。この細菌のメラトニンは活性酸素を消去することによって、細胞を酸化傷害から守る役割を担っています。
ミトコンドリアや葉緑体においてもメラトニンが合成されています。これもミトコンドリアや葉緑体が酸素を利用する過程で発生する活性酸素を消去して、細胞を酸化障害から防ぐためです。メラトニンは非常に強い抗酸化作用を有しています。

動物においても、メラトニンはミトコンドリアで合成されて、ミトコンドリアで発生する活性酸素の消去において重要な働きを担っています。メラトニン合成の律速酵素であるアリルアルキルアミンN-アセチルトランスフェラーゼ(arylalkylamine N-acetyltransferase :AANAT)の活性がミトコンドリアで確認されており、高レベルのメラトニンがミトコンドリアにおいて見出されています。
つまり、メラトニンはミトコンドリアをターゲットにした抗酸化物質として、ミトコンドリアを酸化傷害から守る役割を担っていると考えられています

メラトニンは生物最古の抗酸化物質と考えられています。酸素を使ってエネルギーを産生する好気性細菌は、自身でメラトニンを産生し、活性酸素によるダメージを防いでいると考えられています。
メラトニンを産生する細菌が原始真核生物に寄生してミトコンドリアになった後も、ミトコンドリア内でメラトニンの合成が維持されています。現在生きている人間に存在するメラトニンは、数十億年にわたって地球上に存在しているシアノバクテリアに存在するものと同一です。

ミトコンドリアおよび葉緑体は、生物におけるフリーラジカル生成の主な細胞小器官です。このため、これらの細胞小器官はフリーラジカルとそれに伴う酸化ストレスから保護する対策が必要です。その役割を担っているのがメラトニンです。メラトニンは強力なフリーラジカル捕捉剤であり抗酸化剤です。メラトニンはミトコンドリアと葉緑体を活性酸素から守るために働きます

【メラトニンはCOVID-19の重症化を予防する】
米国のトランプ大統領(当時)がCOVID-19に感染した時、医師団は標準的な治療に加えてサプリメントのビタミンD3とメラトニンを投与しています。
ビタミンD3とメラトニンがCOVID-19の治療に有効であることは多くのエビデンスがあります。
メラトニンがウイルス感染症や敗血症に有効であることは多くの研究で明らかになっています。
当然、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するメラトニンの使用に対する可能性を指摘する論文も複数発表されています。例えば、以下のような総説論文があります。

COVID-19: Melatonin as a potential adjuvant treatment(COVID-19:潜在的な補助療法としてのメラトニン)Life Sci. 2020 Jun 1; 250: 117583.

【要旨】
この論文では、推定される病因に基づいてCOVID-19の症状軽減におけるメラトニンの可能性のある利点をまとめている。
最近のCOVID-19の発生は、何万人もの感染した患者が発生し大流行(パンデミック)になっている。
他のコロナウイルスや病原体によって引き起こされる急性呼吸器疾患の臨床的特徴、病理や病因の知識に基づくと、COVID-19の病態には、過剰な炎症と酸化傷害と誇張された(過剰な)免疫反応が寄与している可能性が示唆されている。
これは、サイトカインストーム(cytokine storm)を引き起こし、それに続いて、急性肺損傷(Acute lung injury)/急性呼吸窮迫症候群(acute respiratory distress syndrome : ARDS)へと進行し、そしてしばしば死につながる。
メラトニンは抗炎症作用と抗酸化作用を有し、ウイルスや他の病原体によって引き起こされる急性肺損傷や急性呼吸窮迫症候群の症状を抑制する
メラトニンは、血管透過性を抑制し、不安感や鎮静剤の使用を減らし、睡眠の質を改善することにより、重症患者の治療に有益である。これは、COVID-19患者の臨床転帰の改善にも役立つ。
特に重要なことは、メラトニンは極めて安全性が高い。メラトニンがウイルス関連疾患を抑制し、COVID-19患者にも有益である可能性が高いことを示す十分なデータがある。この推測を確認するには、追加の実験と臨床研究が必要である。

この総説論文では、メラトニンがウイルス感染症に有効であることを示す動物実験の結果などをまとめています。メラトニンがCOVID-19の重症化の予防に効果が期待できる可能性と、そのメカニズムとして「サイトカインストーム」の発生を予防する可能性があることを指摘しています。

メラトニンの産生は加齢とともに分泌量が減少します。60歳以上になると夜間のメラトニンの増加もほとんど認めなくなります。これが、高齢者が感染症やがんの発症を起こしやすくなる理由の一つという意見もあります。
したがって、メラトニンをサプリメントとして補うことは、加齢とともに低下する抗酸化力や免疫監視機構の働きを高める効果が期待でき、COVID-19の重症化にも有効と言えます。

【重症インフルエンザではミトコンドリア不全によるエネルギークライシスが発生する】

以下の論文は、徳島大学先端酵素学研究所の木戸博教授の研究グループからの報告です。

Energy Metabolic Disorder Is a Major Risk Factor in Severe Influenza Virus Infection: Proposals for New Therapeutic Options Based on Animal Model Experiments(エネルギー代謝障害は重度のインフルエンザウイルス感染の主要な危険因子:動物モデル実験に基づく新しい治療法の提案)Respir Investig. 2016 Sep;54(5):312-9.

【要旨】
重度のインフルエンザは、サイトカインストームと多臓器不全を特徴とする。基礎疾患を持つインフルエンザ患者は、疾患の重症度が急速に進行する。感染の進行段階における多臓器不全の根底にある主要なメカニズムは、特に潜在的な危険因子を持つ患者では、ミトコンドリアのエネルギー危機(energy crisis)である。
インフルエンザウイルス、サイトカイン、ウイルス増殖のためのヘマグルチニン・プロセシング・プロテアーゼ(hemagglutinin processing protease)としての細胞トリプシンのようなインフルエンザ感染の重症度を決定する因子の関係、ミトコンドリアにおける代謝中間体の蓄積およびATP産生低下は、「インフルエンザウイルス-サイトカイン-トリプシン」サイクルと呼ばれる。これは感染の初期段階で発生し、感染の中期から後期の「代謝障害-サイトカイン」サイクルと相互に関連している。
動物モデルを使用した実験は、これらの2つのサイクル間の複雑な関係を明らかにしている。
初期段階で機能するノイラミニダーゼ阻害剤による抗ウイルス治療ではなく、感染後期のATP危機と多臓器不全を対象とする新しい治療方法が提案されている。
これらの治療法には、
(i)感染誘発性のピルビン酸脱水素酵素キナーゼ4活性を阻害するジクロロ酢酸ジイソプロピルアミン(diisopropylamine dichloroacetate)によるミトコンドリアでのグルコース酸化の回復、
(ii)ミトコンドリアでの長鎖脂肪酸酸化を回復させるL-カルニチンとペルオキシソーム増殖活性化受容体-β/δの活性化剤であるベザフィブラートの使用がある。ペルオキシソーム増殖活性化受容体-β/δはカルニチンパルミトイルトランスフェラーゼII(carnitine palmitoyltransferase II)の転写を亢進するので、カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼIIの熱不安定性で半減期の短い変異体を有するインフルエンザ関連脳症の患者に特に効果的である。

インフルエンザの場合はノイラミニダーゼ阻害剤で感染の拡散を防ぐことができますので、感染初期の段階で進行を阻止できるので、この点は新型コロナウイルスとは異なります。しかし、重症化した場合は、インフルエンザも新型コロナウイルスも、基本はサイトカインストームによる多臓器の障害で、そのベースにはミトコンドリア障害によるエネルギークライシスが存在します。
このような病態には、ミトコンドリアでの酸素呼吸を活性化するジクロロ酢酸ジイソプロピルアミンや、脂肪酸の代謝(酸化)を促進するサプリメントのL-カルニチンや高脂血症治療薬のベザフィブラートが有効という報告です。

以下の論文も徳島大学先端酵素学研究所の木戸博教授の研究グループからの報告です。第一三共研究所(R&D Department, Daiichi Sankyo Healthcare Co., Ltd., Tokyo, Japan)の研究者も共著になっています。

Diisopropylamine Dichloroacetate, a Novel Pyruvate Dehydrogenase Kinase 4 Inhibitor, as a Potential Therapeutic Agent for Metabolic Disorders and Multiorgan Failure in Severe Influenza(重症インフルエンザにおける代謝異常と多臓器不全の治療薬として可能性がある新規のピルビン酸脱水素酵素キナーゼ4阻害剤のジクロロ酢酸ジイソプロピルアミン)PLoS One. 2014; 9(5): e98032.

【要旨】
重度のインフルエンザは、サイトカインストームと代謝エネルギー障害および血管透過性亢進を伴う多臓器不全を特徴とする。エネルギー恒常性の調節において、ピルビン酸脱水素酵素(PDH)複合体は、ピルビン酸の酸化的脱炭酸を触媒し、解糖系とトリカルボン酸回路(TCA回路)および脂肪酸合成系をリンクさせる働きを有し、その活性はエネルギー恒常性と関連する。
本研究では、重症インフルエンザのマウスの実験系で、新しいPDHキナーゼ4(PDK4)阻害剤であるジクロロ酢酸ジイソプロピルアミン(diisopropylamine dichloroacetate :DADA)の効果を検討した。
マウスにインフルエンザA PR / 8/34(H1N1)ウイルスを感染させると、PDH活性とATPレベルが著しく低下し、骨格筋、心臓、肝臓、肺でPDK4が選択的に上昇した。感染直後から12時間間隔で14日間DADAを経口投与すると、さまざまな臓器のPDH活性とATPレベルが大幅に回復し、血中のグルコースと脂質代謝の障害が改善された。
さらに、サイトカインストームが抑制され、トリプシンの発現亢進とウイルスの複製が抑制され、生存率が著しく改善した。
これらの結果は、ジクロロ酢酸ジイソプロピルアミンがPDK4阻害することにより、インフルエンザウイルス-サイトカイン-トリプシンサイクルと密接に関連しているホストの代謝障害-サイトカインサイクルを効果的に抑制し、重度のインフルエンザにおける多臓器不全の予防をもたらすことを示している。

ジクロロ酢酸ジイソプロピルアミン(diisopropylamine dichloroacetate)はビタミン様物質として知られ、食品ではゴマやビール酵母などによく含まれるパンガミン酸の構成成分です。
一般用医薬品では、肝臓の働きをサポートし、疲れを改善する効果を期待して、肉体疲労時の滋養強壮・栄養補給ドリンク剤などに配合されています。
リゲイン、新グロモント、ヘパリーゼ、リポビタンDなど多くのドリンク剤に配合されています。医薬品としてはリバオール(Liverall)があります。
リバオールは50年以上前から慢性肝疾患の治療薬として使用されています。
リバオールはもともとは第一三共が製造販売していましたが、現在は製造販売権をアルフレッサファーマに譲渡されています。20mg1錠の薬価が5.9円と極めて安価な薬です。
健康ドリンクのリゲインにはリバオールとビタミンB1が入っています。この組合せはミトコンドリアの酸素呼吸を活性化するので体力を高める効果があることが医学的に納得できます。
リゲイン以外にも、新グロモント、ヘパリーゼ、リポビタンDなど体力や運動能力を高める効能を宣伝している健康飲料の多くにジクロロ酢酸ジイソプロピルアミンとビタミンB1が添加されています。

図:ジクロロ酢酸ジイソプロピルアミンは多くのドリンク剤に配合されている。医薬品としてはリバオールがある。

【サイトカインストームはピルビン酸脱水素酵素活性とATPレベルの低下を引き起こす】
前述の木戸教授らの実験では、インフルエンザウイルスに感染したマウスでは、ピルビン酸脱水素酵素の活性とATPレベルの著しい低下があり、骨格筋、心臓、肝臓、肺でのピルビン酸脱水素酵素キナーゼ4(PDK4)の選択的な発現亢進が認められています。COVID-19の場合も、重症化してサイトカインストームが起こっている状況では、多くの臓器で同様にPDK4の発現が亢進していると考えられます。(ただし、確認はされていませんので、あくまで推測です。)

ピルビン酸脱水素酵素キナーゼ(pyruvate dehydrogenase kinase; PDK)はピルビン酸脱水素酵素をリン酸化して不活性化する酵素です。ピルビン酸脱水素酵素キナーゼにはPDK1〜4の4種類のアイソフォームが存在します。
PDK1は低酸素で活性化されます。PDK2はPDHの産物であるアセチルCoAとNADHで活性化され、ADPとピリビン酸で阻害されます。
PDK3はATPで活性化されます。ATPが過剰に産生されるとフィードバックでPDK3を活性化してミトコンドリアでのATP産生を阻害することになります。
PDK4はホルモンやレチノイン酸や副腎皮質ホルモンで転写が活性化され、インスリンで抑制されます。
HIF-1(低酸素誘導性因子-1)で誘導されるのはPDK1とPDK3です。

がんの代替療法で使用されるジクロロ酢酸ナトリウムはPDK1を阻害します。がん細胞のミトコンドリアを活性化する目的では通常はジクロロ酢酸ナトリウムを使いますが。最近はPDK4もがん治療のターゲットとして注目されています。例えば、PDK4阻害作用のあるリバオールが乳がん治療に有効という報告などがあります。(549話参照)

ジクロロ酢酸ジイソプロピルアミンがPDK4の選択的阻害作用があり、この作用によってミトコンドリアの代謝を活性化して、エネルギー危機を阻止することによって多臓器不全を防ぐというメカニズムです。

図:細胞内に入ったグルコースは解糖系でピルビン酸に変換され(①)、ミトコンドリアに入ってピルビン酸脱水素酵素でアセチル-CoAに変換される(②)。アセチルCoAはクエン酸回路で代謝され(③)、呼吸酵素複合体(呼吸鎖)における酸化的リン酸化(④)でATPが産生される(⑤)。重症インフルエンザでは骨格筋、心臓、肝臓、肺でのピルビン酸脱水素酵素キナーゼ4(PDK4)の選択的な発現亢進が認められている(⑥)。PDK4の発現亢進はピルビン酸脱水素酵素を阻害してアセチルCoAの産生を阻害し、ATP産生を低下する。ジクロロ酢酸ジイソプロピルアミンはPDK4を阻害することによってミトコンドリアにおけるATP産生を維持する(⑦)。

【コエンザイムQ10はミトコンドリアのATP産生を高め、活性酸素を消去する】
コエンザイムQ10(Coenzyme Q10)は別名ユビキノン(Ubiquinone)やユビデカレノン(Ubidecarenone)とも呼ばれ、体内で作られる物質です。CoQ10(コーキューテン)と略されて呼ばれています。かつてビタミンQと呼ばれたこともありますが、動物体内で合成することができるためビタミンではありません。
CoQ10は1957年に発見され、翌年には化学構造が明らかになりました。CoQ10は炭素と水素と酸素のみから成る有機化合物です(下図)。

図:コエンザイムQ10の化学構造

 ミトコンドリアでATPを産生する電子伝達系において電子伝達体の一つとして働きます。したがって、細胞内で不足するとミトコンドリアでのATP産生が低下します。さらに、活性酸素やフリーラジカルを消去する抗酸化作用があり、細胞や組織を酸化傷害から守る効果があります。
ミトコンドリアでのATP産生を高める効果と抗酸化作用があるため、体力増強と抗老化作用があります。ネズミを使った実験で、CoQ10を多く摂取させると若さを永く保ち、年をとっても活動性が落ちないという研究結果が発表されています。CoQ10を与えられたネズミは与えられないネズミより長生きだという研究報告もあります。
免疫細胞のミトコンドリアの働きを良くするので、CoQ10を投与すると、抗体の産生量や、マクロファージやTリンパ球の数や活性が高まり、感染症に対する抵抗力が増強することが知られています。 CoQ10は心筋細胞や骨格筋のミトコンドリアでのATP産生を高めるので、心臓機能を高めると同時に、運動能力の向上にも有効です。個々の細胞が活性化すると体全体の新陳代謝も促進されます。

CoQ10はアセチルCoAという物質からコレステロールと同じ経路でつくられていきます。血中に存在するコエンザイムQ10の約60%は体内で合成されたものに由来すると考えられています。CoQ10は体内でつくられますが、その量は加齢とともに少なくなります。
CoQ10は肉類や魚介類やナッツ類などの食品に含まれていますが、加齢に伴う体内量の不足を食事で補うには、現実的ではないほどの大量の食材を食べなければならず、サプリメントで摂るメリットは大きいと言えます。

日本ではかつてうっ血性心不全の治療薬として医療用に使用されていましたが、2004年から健康食品や化粧品への利用が許可され、サプリメントとして購入できるようになりました。
医薬品としては、「基礎治療施行中の軽度及び中等度のうっ血性心不全症状」の効能・効果で、1日30mgの用量で承認されています。加齢と共に体内産生量が低下するので、健康増進や抗老化の目的でサプリメントで補給する意味は十分にあります。
サプリメントとして摂取する場合の服用量についてはいろんな意見があります。健康増進や抗老化やがん予防の目的には1日100~200 mgを推奨する意見もあります。進行がんの治療では1日400 mg以上を使っている報告もあります。 
CoQ10は体内で産生される補酵素であり、かなりの大量を服用しない限り副作用はありません。決められた範囲内で服用すれば重大の副作用は無いと言えます。
しかし、CoQ10はワーファリン(血液凝固を弱める薬)やインスリン(血糖を下げるホルモン)に対する体の反応を変える可能性があります。糖尿病の治療におけるインスリンの必要量が低下します。

【アルファリポ酸は理想的な抗酸化剤】  
アルファリポ酸(別名:チオクト酸)は、多数の酵素の補助因子として欠かせない体内成分です。特に、グルコースの解糖で生成されたピルビン酸をアセチルCoAに変換するピルビン酸脱水素酵素複合体の補助因子として、ミトコンドリアでのエネルギー産生に重要な役割を果たしています。クエン酸回路(TCA回路)はアセチルCoAからクエン酸を合成する反応からスタートします。

植物と動物(人間も含む)の体内で少量産生されていて、動物では脂肪酸とシステインから肝臓で合成されます。1950年に牛の肝臓から分離されました。かつてはビタミンB群のビタミンに分類されていましたが、体内で合成されるため、現在ではビタミンとは分類されていません。ビタミン様物質と認識されています。

抗酸化作用、糖代謝を促進する作用、体内の重金属を排出する作用、糖尿病の神経障害を改善する効果などがあり、糖尿病や動脈硬化関連疾患(虚血性心疾患や脳梗塞)、多発性硬化症、認知症などの疾患の予防や改善に効果があることが報告されています。特に活性酸素などのフリーラジカルによる酸化障害が発症や病態進展に関連している疾患の治療に効果が認められています。
ドイツでは、アルファリポ酸は糖尿病による神経障害の治療薬として認可されています。アルファリポ酸を1日量として600-1,200mgを経口摂取あるいは静脈注射で用いたところ、3-5週間で糖尿病患者の末梢神経障害の症状を軽減したことが報告されています。
日本国内では医薬品(適応は「激しい肉体疲労時にリポ酸の需要が増大したとき」など)としてのみ取り扱われていましたが、2004年より一般のサプリメントに配合しても良い成分となりました。糖代謝の促進や抗酸化作用があるので、ダイエット効果や抗老化や美容を目的としたサプリメントとして人気があります。

アルファリポ酸は分子内に2つのイオウ原子を含み、酸化型と還元型(ジヒドロリポ酸)の2つの型があります。吸収されたアルファリポ酸は体内で還元型のジヒドロリポ酸に変換されます。
同じイオウを含むグルタチオンは、還元型しか抗酸化作用を示さないのに対して、アルファリポ酸は、酸化型も還元型も両方とも抗酸化作用を示すのが特徴です。2つの硫黄原子が酸化と還元のサイクルを形成してフリーラジカルを消去するからです。 抗酸化剤としてフリーラジカルを消去し、遷移金属をキレートして排除し、細胞内の抗酸化物質であるグルタチオンやビタミンCの量を増やす作用があります。

図:アルファリポ酸は還元されてジヒドロリポ酸になる。

理想的な抗酸化剤とは、
1)食事から摂取できる、
2)細胞内や組織内に移行して効果を発揮する、
3)細胞膜と細胞質の両方で働く、
4)他の抗酸化物質の働きを高める、
5)毒性が低い、
といった特徴をもつものです。
アルファリポ酸はこれらの全ての条件を満たす、唯一の天然抗酸化物質と言われています。すなわち、アルファリポ酸は抗酸化剤として次のような特徴を持っています。
1)活性酸素や一酸化窒素ラジカルなどのフリーラジカルを直接消去します。
2)グルタチオン、ビタミンC、ビタミンEの抗酸化力を再生します。これらの抗酸化物質は酸化されると抗酸化力を失いますが、ジヒドロリポ酸はこれらの酸化した物質を還元して、これらの抗酸化力を再生します。アルファリポ酸は脂溶性と水溶性の両方の性質をもつので、ビタミンC(水溶性)とビタミンE(脂溶性)のどちらの還元にも寄与します。
3)グルタチオンの合成酵素での産生を高め、グルタチオン産生に必要なシステインの細胞内取り込みを促進し、グルタチオンの産生を高めます。
4)フリーラジカルを発生する鉄や銅などのフリーの金属イオンをキレート(結合)することによって活性酸素の産生を抑えます。
5)多くの抗酸化物質は親水性(水溶性)か疎水性(脂溶性)のどちらかの性質しか持ちませんが、アルファリポ酸は親水性と疎水性の両方の性質を持ちます。したがって、細胞膜でも細胞質でも核でも働き、蛋白質や脂肪など全ての細胞内成分の酸化を抑制します。血液中の物質の酸化も抑制します。
6)酸化ストレスを軽減することによって、発がんや炎症性疾患の増悪に関連する転写因子のNF-κBの活性化を抑制します。

以上のような複数の機序によって、アルファリポ酸は強い抗酸化作用を示します。

【R体アルファリポ酸はピルビン酸脱水素酵素複合体の補助因子】  
アルファリポ酸にはR体とS体という2種類の光学異性体(鏡像異性体)が存在します。光学異性体はちょうど右手と左手のように鏡写しの関係になっています。つまり、R体を鏡に写すとS体になるという関係です

体内で生成されるアルファリポ酸はR体のみで、S体は天然には存在しません。しかし、アルファリポ酸を人工的に合成するとR体50%、S体50%の化合物が出来上がります。これをラセミ体と呼びます。ラセミ体からR体のみの単離が可能であり、R体だけのサプリメントも販売されています。
アルファリポ酸の場合、S体やラセミ体と比較して、R体の方が生物活性(=効果)が高いという研究結果が数多く報告されています。
アルファリポ酸がミトコンドリアを活性化するのは、ピルビン酸脱水素酵素の補酵素として作用するからです。
ピルビン酸脱水素酵素を活性化する作用はR体のみで、逆にS体のアルファリポ酸はピルビン酸脱水素酵素の活性を阻害します。抗酸化作用だけが目的であればラセミ体でも目的を達成できますが、ミトコンドリアを活性化する目的ではR体のみのアルファリポ酸を使った製品を摂取することが重要です。

図:グルコース(ブドウ糖)が細胞質内で解糖系で分解されてピルビン酸になる。ピルビン酸はミトコンドリアに入ってピルビン酸脱水素酵素によってアセチルCoAになってTCA回路で代謝される。R体アルファリポ酸はピルビン酸脱水素酵素の活性を高めるがS体アルファリポ酸は阻害する。

【L-カルニチンはミトコンドリアでの脂肪燃焼を促進する】
L-カルニチンは生体の脂質代謝に関与するビタミン様物質です。L-カルニチンは脂肪酸と結合し、脂肪酸をミトコンドリアの内部に運搬する役割を担っています。
脂肪酸を燃焼してエネルギーを産生する際には、脂肪酸を燃焼の場であるミトコンドリアに運ばなければなりません。中鎖脂肪酸(炭素の数が8~12個)の場合は直接ミトコンドリアに入ることができますが、長鎖脂肪酸(炭素数が13以上)の場合は、L-カルニチンが結合しないとミトコンドリアの中に入ることができません。食事から摂取する脂肪酸のほとんどは長鎖脂肪酸です。

食事から摂取した長鎖脂肪酸は、小腸で吸収されたあと、カイロミクロンとなってリンパ管へ入り、胸管から血液に入って、主に脂肪組織や筋肉組織に運ばれ、多くは貯蔵されます。エネルギーが必要になったとき、脂肪酸に分解され、ミトコンドリアに入って代謝されますが、このときL-カルニチンが必要です。L-カルニチンが無いと長鎖脂肪酸はミトコンドリアには入れないのです。

L-カルニチンはヒトの体内で合成されます。カルニチンの合成には2つの必須アミノ酸(リジン、メチオニン)、3つのビタミン(ビタミンC、ナイアシン、ビタミンB6)、還元型鉄イオンが必要で、これらの栄養素の一つでも不足すればカルニチンは不足することになります。
L-カルニチンの合成は肝臓、腎臓、脳でのみ起こります。心臓と骨格筋のように、脂肪酸の酸化によって主なエネルギーを得ている組織は、L-カルニチンを合成できないため、血液中のL-カルニチンを取り込んで利用しています。

食事性カルニチンの主な供給源は肉類と乳製品であり、穀類、果物、野菜にはほとんど含まれていません。体内で合成されますが、加齢や病気で体力が消耗したり、栄養素が不足するとL-カルニチンの欠乏がおこり、細胞内でのエネルギー産生が低下します。菜食主義を徹底する健康法や治療法もありますが、肉や乳製品を完全に排除する食事はカルニチンの不足を引き起こしやすくします。
L-カルニチンは体重減少のサプリメントとして人気がありますが、それは脂肪酸酸化を高めることができるためです。
カルニチン欠乏のある時には、L-カルニチンの補充が長鎖脂肪酸の代謝を正常化させることは良く知られています。さらに、カルニチンの欠乏のない健常人がL-カルニチンをサプリメントで摂取すると、ミトコンドリアにおける脂肪酸の酸化(分解)が亢進することが健常人ボランティアを使った研究で報告されています。

この研究では、L-カルニチンをサプリメントで投与(1日1gづつを3回、10日間服用)し、投与前と投与後で、同位元素(13C)で標識したパルミチン酸の酸化を測定ました。その結果、L-カルニチンを投与すると、13CO2の呼気への排泄が著明に増加しました。この研究結果より、カルニチン欠乏や脂肪酸代謝異常が無い健常人においても、L-カルニチンをサプリメントで補うことによって、長鎖脂肪酸の酸化を高めることが明らかになりました。

健常な人では、体内にカルニチンが十分あるので、L-カルニチンをサプリメントで補充しても、意味が無い可能性もあります。しかし、この研究では、カルニチン欠乏の無い健常な人に対しても、L-カルニチンをサプリメントで補充すれば、長鎖脂肪酸の代謝を高めることができることが示されています。
脂肪酸の酸化が亢進すると寿命が延びることが線虫を使った実験で報告されています。長鎖脂肪酸の代謝を促進するためにL-カルニチンをサプリメントで1日1〜3グラム程度補充することは寿命延長の効果が期待できるかもしれません。

【アセチル-L-カルニチンは老化に伴う運動低下を回復させる】
アセチル-L-カルニチン(Acetyl-L-Carnitine)はL-カルニチン(L-Carnitine)にアセチル基(CH3CO-)が結合した体内成分です。体内のL-カルニチンのうち約1割はアセチル-L-カルニチンの状態で存在しています。(図)

図:L-カルニチンとアセチル-Lカルニチンの化学構造

アセチル-L-カルニチンは、血液脳関門を通過して脳内に到達しアセチルコリン量を増やします。つまり、アセチル受容体であるコエンザイムA(CoA)にアセチル基を転移させてアセチルCoAを生成させ、さらにそれがコリンに受け渡され、最終的にアセチルコリンが生成します。
アセチルコリンは副交感神経や運動神経の末端から放出される神経伝達物質で、アセチルコリンの減少はアルツハイマー病との関連が指摘されています。実際に、アセチル-L-カルニチンはアルツハイマー病初期症状の改善や進行を遅らせる効果が報告されています。高齢者の気分変調や抑うつ症状を軽減する効果や、認知能や記憶を改善する効果も報告されています。

アセチル-L-カルニチンは細胞内でL-カルニチンに変換するので、L-カルニチンと同様に脂質の燃焼促進効果があります。さらに、アセチル-L-カルニチンは神経細胞のダメージの軽減や、ダメージを受けた神経細胞の修復・再生を促進する効果が報告されています。アセチル-L-カルニチンが、糖尿病性神経症や薬物による神経障害に対して症状の改善効果を示すことが多くの研究で示されています。さらに、抗がん剤の副作用で発症する神経障害に対しても、予防効果と症状の改善効果が報告されています。

老化に伴う運動低下をアセチル-L-カルニチンの補充で軽減できることが動物実験で示されています。例えば、若齢(3〜5ヶ月齢)および老齢(22〜28ヶ月齢)のラットに、飲料水中にアセチル-L-カルニチンを1.5%含む飲水を1ヶ月間与えた後に、ミトコンドリア機能および歩行活性を測定した実験結果が報告されています。
老齢ラットの歩行能力(移動距離の平均値として評価)は、幼若動物よりもほぼ3分の1に低下していました。アセチル-L−カルニチンの補充は、若年ラットおよび老齢ラットの両方において、歩行活動を有意に増加させ、その増加は高齢ラットでより大きいことが観察されました。

アセチル-L-カルニチンの補充は、年齢と共に減少する細胞の酸素消費を、若いラットのレベルまで増加させました。しかし、アセチル-L−カルニチンの補充はミトコンドリアでの活性酸素の産生を増やして酸化ストレスを高めました。ミトコンドリアを活性化すると、細胞の酸素消費が増え、活性酸素の産生量が増えて細胞の酸化ストレスを高めることになるからです。ミトコンドリアの活性を高めることによって歩行能力を若いレベルに戻すことができますが、酸化ストレスが高まるデメリットがあります。そこで、アセチル-L-カルニチンと抗酸化作用のあるサプリメントを併用すれば、ミトコンドリア機能を高め、活性酸素の害を減らして、抗老化作用が期待できると言えます。
 この論文の著者は論文の最後に、R体αリポ酸を投与すると、老齢ラットの細胞の活性酸素の産生を減らし、アセチル-L-カルニチンを投与中でも活性酸素の産生を減らすと記述されています。
前述の様に、R体αリポ酸はピルビン酸脱水素酵素の補酵素として働くので、ミトコンドリアを活性化する作用もあります。ビタミンB1もピルビン酸脱水素酵素の働きに必要です。
したがって、アセチル-L-カルニチンとR体αリポ酸とビタミンB1の併用はミトコンドリアの働きを良くする効果が期待できます

【高齢者はビタミンD欠乏になりやすい】
元来ビタミン(vitamin)というのは、生命に必要なアミンの意味で、微量で生体の正常な発育や物質代謝を調節し、生体機能の維持に不可欠な有機化合物で、普通は動物体内では生合成されないもので、食物などから摂取する必要があります。
しかしビタミンDは例外で、体内で合成できます。つまり、ビタミンDは体内で生成されることから、ビタミンというよりホルモンに近いと言えます。ただ、ホルモンは生体内で生成されるものに限定されるので、ビタミンDは体内で産生されるだけでなく、食品からの摂取量も多いのでビタミンに分類されています。欧米の報告では、体内のビタミンDの90%程度は皮膚で紫外線を浴びて生成し、10%が食事から摂取と言われています。

体内でコレステロールから合成されるプロビタミンD3(7-デヒドロコレステロール)は皮膚で紫外線照射を受けてビタミンD3(コレカルシフェロール)へ変換されます。ビタミンD3は食品やサプリメントからも摂取されます。体内で生成されたビタミンD3と食物から摂取したビタミンD3は、肝臓で25位が水酸化されて25(OH)ビタミンD3(カルシジオール)に変換され、さらに腎臓などで1α位が水酸化されて活性型の1,25(OH)2-ビタミンD3(カルシトリオール)になります。

25(OH)ビタミンD3(25-ヒドロキシビタミンD3)は体内でのビタミンDの貯蔵型であり、長期間安定に血液中を循環しています。血中25-ヒドロキシビタミンD3の濃度がビタミンDの体内貯蔵量の指標として用いられます

活性型ビタミンD3は、核内受容体への結合による遺伝子発現の調節や、細胞膜のビタミンD受容体への結合によるシグナル伝達系の活性化のメカニズムなどによって、骨形成やカルシウム代謝、炎症、免疫、発がん、細胞増殖、細胞分化、細胞死(アポトーシス)など様々な生理機能の調節に関与します。
活性型ビタミンD(1,25-ジヒドロキシビタミンD3)は医薬品として使用されています。一方、通常のビタミンD(ビタミンD3)はサプリメントとして市販されています。活性型ビタミンDは血清カルシウム濃度を高めるので、使用には注意が必要です。一方、サプリメントのビタミンD3は、肝臓で25-ヒドロキシビタミンD3に変換されたあと、必要に応じて腎臓で代謝されて活性型(1,25-ジヒドロキシビタミンD3)になり、その活性化は、副甲状腺ホルモンやカルシウム濃度によって厳密にコントロールされているため、過剰症になることはほとんどなく、安全性が高いと言えます。

日光に当たれば、体内で十分な量のビタミンD3が生成されます。日照時間の短い緯度の高いところに住んでいる人は体内のビタミンDの濃度が低い傾向にあります。また、ビタミンD含有量の多い魚やキノコの摂取量が少ない場合もビタミンD欠乏の原因になります。家に閉じこもることの多い高齢者は、ビタミンD欠乏になりやすいので、サプリメントで補うメリットは高いと言えます。ビタミンDの不足は感染症や心臓病のリスクを高めることが明らかになっているからです。

【ビタミンDの血中濃度が高いと長生きできる】
ビタミンDの血中濃度が高い方が死亡率が低下することが明らかになっています。体内のビタミンDの量の指標となる血清中の25-ヒドロキシビタミンDの濃度と死亡率との関係を検討した欧州と米国で行われた8つの前向きコホート研究の結果をメタ解析した研究が報告されています。 
この研究では、対象は50~79歳の男女計26,018人で、追跡期間中6695人が死亡しています。このうち心血管疾患による死亡は2624人、がんによる死亡は2227人でした。血清中の25-ヒドロキシビタミンDの濃度が高い上位5分の1のグループに比較して、25-ヒドロキシビタミンDの濃度が低い下位5分の1のグループの全死因死亡率のリスク比は1.57(95%信頼区間:1.36-1.81)でした。
心血管疾患のリスク比も同様な値で、25-ヒドロキシビタミンDの濃度が低い人は心血管疾患での死亡率が高くなっています。この場合、研究が開始になったとき既に心血管疾患に罹っていた人もそうでない人も同様の結果でした。
一方、がんによる死亡の場合は、研究開始時にがんの罹患経験がない人では、25-ヒドロキシビタミンDの濃度の違いによるリスクの違いは認められていませんが、がんの既往歴がある人だけを対象にすると、25-ヒドロキシビタミンDの濃度の高い上位5分の1のグループに比較して25-ヒドロキシビタミンDの濃度の低い下位5分の1のグループの人の死亡リスクは1.70(95%信頼区間:1.00-2.88)でした。
これは、ビタミンDが高い状態は、がんの発生を減らさないが、がんになってからの延命には効果があることを示唆しています。つまり、ビタミンDが再発を予防するとか、がん細胞の増殖を抑制するなどの作用によって、がんサバイバーを対象にした解析では、ビタミンDが多い方が生存期間が長くなるということです。
この論文の結論は、「25-ヒドロキシビタミンDの血清濃度は、国や性別や季節によって顕著に異なるが、25-ヒドロキシビタミンDの濃度が低いと、全死因死亡率および心血管系疾患の死亡率、がんの既往のある人のがん死亡率が高くなるのは確実である」となっています。

【ビタミンD3不足は感染症の重症化を引き起こす】
ビタミンD受容体は生体防御や免疫に関わる細胞(単球、マクロファージ、抗原提示細胞、活性化T細胞など)で発現しています。これはビタミンDが生体防御や免疫に重要な働きを持つことを意味します。したがって、ビタミンD欠乏は自然免疫と獲得免疫を低下させるので、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を含め様々な感染症の発症と重症化のリスクを高めます。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染によって発症するCOVID-19(Coronavirus Disease 2019)は、高血圧や心臓病や糖尿病を有する高齢者が重篤化しやすい傾向が明らかになっています。ビタミンD不足もCOVID-19の重症化の要因の一つになると報告されています。

ヨーロッパの国を対象に、それぞれの国の国民のビタミンDの平均濃度とCOVID-19の発症数と死亡数の関連を検討すると、ビタミンDの濃度とCOVID-19の発症数および死亡数は逆相関するデータが報告されています。つまり、ビタミンDの血中濃度が低いほどCOVID-19の発症数と死亡数が多いという関係です。
ビタミンDの補給がインフルエンザとCOVID-19の感染と死亡のリスクを低減できるという報告もあります。この論文では、「感染のリスクを減らすために、インフルエンザやCOVID-19のリスクがある人は、1日に10,000 IU(250μg) のビタミンD3を数週間服用して25-ヒドロキシビタミンD濃度を急速に上げ、その後5000 IU / 日の服用を継続する。目標は、25-ヒドロキシビタミンD濃度を40~60 ng / mL(100~150 nmol / L)より高くすることである」と考察しています。

【体内のホルモン様成分は加齢と共に産生が低下する】
私たちが生きていくためには、食物からの栄養素の摂取が必要です。脂肪、糖質、たんぱく質、ビタミン、ミネラルを五大栄養素といいます。この5つの栄養素のどれが不足しても、体の正常機能が障害されます。

ビタミン(Vitamin)の「ビタ(vita)」は「生命」とか「活力」を意味する言葉で、生命に不可欠な物質という意味をこめて名づけられました。ビタミンは、体の中で三大栄養素(脂肪、糖質、たんぱく質)の代謝を助ける働きをしています。多くの酵素反応や遺伝子発現に必須の働きを担っています。脂肪・糖質・たんぱく質のように、細胞の構成成分を作ったり、エネルギー源になるものではありませんが、それがないと体という“機械”がスムーズに働かない、いわば“潤滑油”のような働きをしているのです。

ビタミンは水に良く溶ける「水溶性ビタミン」と、水にはほとんど溶けず油に溶ける「脂溶性ビタミン」に大別されます。水溶性ビタミンには、ビタミンB群(ビタミンB1、B2、B6、B12、ナイアシン、パントテン酸、葉酸、ビオチン)とビタミンCが含まれます。脂溶性ビタミンにはビタミンA、D、E、Kがあります。

ナイアシン(ニコチン酸とニコチン酸アミド)はビタミンB3とも呼ばれ、電子伝達体のニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド (NAD) やニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチドリン酸 (NADP) に変換され、酸化還元反応に関与する酵素の補酵素として働きます。
その他のビタミン類も、細胞の働きに必須であり、不足すると様々な欠乏症を引き起こします。ビタミンは体内で合成できないので、食品から体内に取り入れるしかありません。食事からの摂取が不足する場合には、サプリメントで補う必要があります。

ビタミンと同様に、酵素反応や遺伝子発現に必須な働きを担っている体内成分の中には体内で必要量が合成されるものもあります。前述の、アルファリポ酸、L-カルニチン、アセチル-L-カルニチンは食事から摂取する意外に体内でも合成されています。体内で必要量が合成できるのでビタミンには含まれませんが、ビタミンと類似の働きを担っているので、ビタミン様物質と呼ばれます。ビタミンDは体内で生成されますがビタミンに分類されています。

体内で合成されるビタミン様物質は、加齢とともにその産生量が低下します。ビタミン様物質の体内量が減少すると、さらに細胞や組織の機能が低下して産生量がさらに低下するという悪循環を引き起こし、体の老化が促進されます。加齢とともに減少するこれらの体内成分を補えば、この悪循環を断ち切ることができます。

つまり、体内で合成されているビタミン様物質は加齢とともに減少するので、ビタミンと同様に食事やサプリメントで補うことは老化予防や若返りに有効と言えます。高齢者におけるCOVID-19の重症化予防にも総合ビタミン剤と同時にビタミン様成分(アルファリポ酸、L-カルニチン、アセチル-L-カルニチン)やメラトニン、ビタミンD3をサプリメントとして積極的に摂取する価値はあります。
この様な対処で、日頃からミトコンドリアの機能を良くしておけば、免疫力や抵抗力が十分に高められ、COVID-19の感染や重症化を予防できます。

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