737)ミトコンドリア活性化によるCOVID-19重症化予防(その1):免疫老化の改善

図:加齢に伴ってリンパ球(T細胞やB細胞など)や貪食細胞(マクロファージや樹状細胞など)などの免疫細胞の機能が低下する(①)。これを免疫老化(Immunosenescence)と言う(②)。免疫老化によって感染症に罹りやすくなり、さらに感染が持続(遷延化)しやすくなる(③)。持続的感染は持続的な炎症反応(慢性炎症)を引き起こして、炎症性サイトカインの分泌が亢進する(④)。このような慢性炎症状態は組織障害を介して細胞や組織の老化を促進する(⑤)。このような慢性炎症の持続によって老化が促進される現象を炎症加齢(Inflammaging)という(⑥)。免疫細胞のミトコンドリアを活性化すると免疫老化と炎症加齢を抑制できる(⑦)。免疫細胞のミトコンドリアを活性化する薬やサプリメントとしてメトホルミン、ベザフィブラート、メラトニンなど多くのものがある(⑧)。これらを利用すると免疫老化を抑制し、がんや感染症の発症や進展を抑制できる。

737)ミトコンドリア活性化によるCOVID-19重症化予防(その1):免疫老化の改善

【新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症化を抑えることが治療の鍵】
新型コロナウイルス感染症のCOVID-19(Coronavirus Disease 2019)はコロナウイルスのSARS-CoV-2(Severe Acute Respiratory Syndrome CoronaVirus 2)の感染によって発症します。
現在、日本を含め世界中で感染が拡大しています。
一般的に、約8割の患者は⾃然に軽快して治癒していますが、約2割の患者は肺炎を合併しています。肺炎に進展した患者のさらに⼀部が、重症化して集中治療や⼈⼯呼吸を要する状態になります。
高齢者や基礎疾患のある人が重症化しやすいことが分かっています。
普通の風邪やインフルエンザでは肺炎などの⼊院を要する状態に⾄ることは⽐較的稀です。
⼊院を要するような肺炎を約2割という⾼い確率で合併するのが、新型コロナウイルス感染症の怖い点です。
しかし、新型コロナウイルスは肺炎を発症して重症化しなければ、普通の風邪やインフルエンザと同じように自然に治癒します。つまり、重症化することを防げれば、新型コロナウイルスは怖くはありません。

ウイルスの増殖を抑える抗ウイルス薬は重症化を抑えますが、有効性の高い抗ウイルス薬がまだ開発されていません。
ワクチンの接種が始まっており、ワクチン接種で抗体ができれば、感染予防や重症化予防に有効ですが、私たちがワクチン接種を受けられるのはまだ数ヶ月先のようです。
ワクチン接種を受けられるまでの数ヶ月間は、高齢者や基礎疾患のある人など重症化しやすい人は、COVID-19で死なないためには、感染を防ぐことと、感染しても重症化を防ぐ方法を実践することが必要です。

感染予防のためには他人との接触を避け、手洗いやマスクなどの感染予防の対策を実践することになります。
重症化の予防」に関しては、個人で実践できる方法が数多くあります。つまり、栄養状態を良くし、抵抗力や免疫力を高め、適度に運動し、睡眠を十分にとり、ストレスを避ける、タバコは吸わないなどの生活習慣の改善が主です。
さらに、漢方薬やサプリメントや医薬品を使って、積極的に抵抗力や免疫力を高めることはプラスになると思います。
しかし、多くの人は、「感染すれば医療機関を受診するしか無い」という考えしかなく、自分で抵抗力や免疫力を高めて、重症化を予防しようと日頃から実践している人は少数のように思います。「重症化するのが怖い」と自覚していても、自分で重症化を予防することを実践し、努力している人は少ない様です。

急性呼吸窮迫症候群(ARDS)や多臓器不全は、究極的には細胞レベルのミトコンドリア呼吸の破綻によるエネルギークライシス(energy crisis)によって細胞死が起こるので、全ての細胞のミトコンドリアの酸化傷害を軽減し、ダメージから保護し、ミトコンドリア機能を高めることはARDSや多臓器不全の予防と軽減に有効性が期待できます。
ミトコンドリアの呼吸機能を高めことによってエネルギークライシス(Energy crisis)を避ける方法としてジクロロ酢酸ナトリウム、ジクロロ酢酸ジイソプロピルアミン、メラトニン、L-カルニチン、ベザフィブラート、コエンザイムQ10などがあります。
感染症に対する免疫力を高める方法としてミトコンドリアの機能を高めることは極めて有効であり、サプリメントや医薬品や運動や食事によって達成できるので、日頃から実践しておく価値はあります。

【細胞分裂するたびにDNAのテロメアが短くなる】
人間の胎児から取り出した線維芽細胞を培養すると次第に分裂の速度が落ちて、約50回の分裂回数が限界で、いくら栄養物質や増殖を促進する物質を加えても分裂することはできずに最後は死んでしまいます。
一方、成人の人間から取り出した線維芽細胞の分裂できる回数はその年齢に応じて減少していることも明らかになっています。すなわち、細胞の中には細胞の分裂した回数をきちんと数える装置があって、ある回数を過ぎると細胞は死を向かえるプログラムが働き出すのです。
細胞の分裂回数に限界を設けているのが遺伝子の末端のテロメアの存在です。
染色体DNAの末端部分にはTTAGGGという配列が多数繰り返された構造がみつかりテロメアと名付けられました。この6塩基のリピート部分には遺伝情報が入っていないので、無くなっても遺伝子の発現には問題ない部分です。
しかし、テロメアが無くなると細胞はDNAの複製ができなくなります。
DNAは2本の鎖状で、それぞれの鎖を鋳型にして新しいDNA鎖を合成します。新しい鎖を作るとき、DNAポリメラーゼという酵素が鋳型のDNA上を移動しながら、新生DNAを作ります。
この酵素が鋳型のDNAに結合するためには、まずプライマーとよばれるRNAが鋳型のDNAの末端に結合する必要があります。
DNAポリメラーゼはRNAプライマーに結合し、そこから新生DNAの合成を開始します。その際、プライマーが結合した鋳型DNAの末端部は複製されません。そのため、細胞分裂でDNAを複製するたびに、染色体のDNA末端は少しづつ切れて短くなっていきます。
短くなっても問題ないように、最初から遺伝情報とは関係なく必要のないDNA配列(TTAGGGの繰り返し配列)がテロメアとして存在しているのです。
しかし、テロメアの長さに限界があるので、いずれはテロメアが無くなると、もはや細胞分裂ができなくなります。

図:染色体の末端にはテロメアという構造があり(①)、この部分のDNAはTTAGGGという配列が多数繰り返されている(②)。細胞分裂するたびに、このテロメア部分のDNAは短くなり(③)、テロメアが無くなった時点で、細胞はそれ以上に分裂することができなくなる(④)。

生殖細胞や幹細胞(骨髄の造血細胞や消化管粘膜上皮細胞のように細胞回転が早い細胞を供給している細胞)やがん細胞のように無限に分裂できる細胞もありますが、これはテロメアを延ばすことができるテロメラーゼという酵素が働いて、テロメアの長さを維持しているからです。普通の細胞にはテロメラーゼ活性はほとんどありません。
高齢者ほど感染症に罹りやすく、重症化率や死亡率が高くなることが知られています。最近の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)でも高齢者が重症化のリスクが高いのは免疫力が低下しているからです。
免疫系の老化性の機能低下の原因として、高齢者では細胞のテロメアが短縮しており、リンパ球などの免疫細胞の増殖が制限されることが指摘されています。

【テロメア短縮が免疫老化を引き起こす】
免疫システムは病原体やがん細胞から生体を守る働きを担っています。この免疫システムは自然免疫獲得免疫に分けられます。
自然免疫は先天的に備わった免疫で、微生物などに特有の分子パターンを認識して異物を攻撃します。マクロファージや好中球には細菌などの病原体に共通した情報を認識できる受容体を細胞表面に持っていて病原体を認識して貪食します。さらにマクロファージはナチュラルキラー細胞を活性化します。
一方、獲得免疫は,後天的に外来異物の刺激に応じて形成される免疫です。高度な抗原特異性と免疫記憶を特徴とします。(下図)

図:細菌やウイルスなどの病原菌に対して好中球やマクロファージやナチュラルキラー(NK)細胞が排除する。抗原による感作の必要のないがん細胞に対する第一次防衛機構が「自然免疫」となる(①)。病原菌の抗原が樹状細胞に取り込まれ(②)、抗原を貪食した樹状細胞はリンパ節に移動して抗原の情報をT細胞やB細胞に渡して活性化し(③)、病原菌に対する抗原特異的な免疫応答によって病原菌を排除する(④)。この抗原特異的な免疫応答が「獲得免疫」となる(⑤)。

病原微生物が侵入したり、何らかの原因で炎症が起こると、血管から顆粒球や単球などが遊走して来ます。このように炎症反応によって集まってきたり、あるいは組織に常在していた樹状細胞やマクロファージは、侵入した細菌やウイルス粒子、あるいは死滅した細胞の死骸や断片などを取り込み、リンパ液の流れに沿って所属リンパ節に移動します。
樹状細胞やマクロファージは取り込んだタンパク質を分解し、その結果産生されたペプチド(アミノ酸が数個から数十個つながったもの)をMHC(major histocompatibility complex:主要組織適合抗原複合体)分子の上に提示します。
活性化した樹状細胞はリンパ節で手当たりしだいにナイーブT細胞(まだ一度も活性化されたことのないT細胞)とくっつきあって、何かを確かめます。ナイーブT細胞はその表面にT細胞抗原認識受容体(TCR)を持っています。樹状細胞の表面に提示されたMHC+抗原ペプチドとピタッとくっつく受容体(TCR)をもったナイーブT細胞と出会うと、そのT細胞を活性化します。

抗原を提示して活性化している樹状細胞にはCD80/86という補助刺激因子が発現しており、T細胞のCD28と結合し、刺激を送ります。
さらに、活性化した樹状細胞はサイトカインを放出しており、ナイーブT細胞はそれを浴びることになります。
このようにTCRを介するシグナルとCD28を介する補助刺激とサイトカインによる刺激を同時に受けたTリンパ球は初めて活性化し、TCRの特異性を保ったままで分裂・増殖して自らのクローンを増やします。
CD4陽性T細胞(ヘルパーT細胞)は、Th1またはTh2のパターンを示すサイトカイン産生細胞へと分化します。

CD8陽性T細胞(キラーT細胞)は成熟し、細胞質内にパーフォリンやグランザイムなどを含んだ細胞傷害顆粒を持つエフェクター細胞になります。
エフェクター細胞はリンパ節を離れ、胸管を経て循環血液中へと流れ込み、血流に従って全身を巡ります。炎症の起こっている組織から産生されるサイトカインやケモカインなどの作用でエフェクターT細胞は炎症部位に集まり、病原菌やがん細胞の攻撃に参加します。

図:病原菌(細菌やウイルスなど)に由来する抗原(①)やがん細胞から放出されたがん抗原(②)を未熟樹状細胞(③)が取り込んで成熟して抗原を提示するとき(④)、MCH(major histocompatibility complex:主要組織適合抗原複合体)分子にペプチド抗原を載せて細胞傷害性T細胞やヘルパーT細胞に提示する(⑤)。このとき、MCH+ペプチド抗原にぴったり結合するTCR(T細胞受容体)を持つT細胞は、補助刺激因子(CD28とCD80/86など)や樹状細胞から放出されるサイトカインの働きで活性化され、がん抗原を認識するT細胞がクローン性に増殖し(⑥)、病原菌やがん細胞を抗原特異的に攻撃する(⑦)。

この様に病原菌やがん細胞に対してリンパ球が抗原特異的に攻撃する場合、T細胞やB細胞などのリンパ球がクローン性に増殖する必要があります。「リンパ球のクローン性増殖」とは、ターゲットとなる病原菌やがん細胞に特異的に反応するリンパ球が細胞分裂を繰り返して同じ細胞を増やすことです。
リンパ球のテロメアが短く、例えば10回しか分裂できないと2の10乗(210)の細胞数は1024個です。1000個程度のリンパ球では病原菌やがん細胞に十分な抗原特異的な攻撃はできません。がん細胞の場合、1gのがん組織には約10億個のがん細胞が存在します。
20回の細胞分裂(220)で約100万個です。30回の細胞分裂(230)で約10億個です。
リンパ球がクローン性に増殖する場合、テロメラーゼ活性が亢進して、細胞分裂が継続できるように働いていますが、高齢になるとリンパ球のテロメラーゼ活性は低下しています。テロメラーゼ活性が低下していると、抗原に特異的なリンパ球のクローン増殖に限界があります。これが、高齢者が感染症やがんの発症が多いことの理由の一つです。病原菌やがん細胞を排除する免疫細胞のクローン性の増殖が十分にできないためです。

人間の個人間では白血球のテロメア長(LTL)に顕著な違いがあります。この違いは通常、性別、人種/民族、受胎時の父方の年齢、および環境暴露の特異な影響に起因します。
あるコホート研究では白血球のテロメア長が短いと、肺炎による入院のリスクが高く、感染に関連する死亡のリスクが高いことが報告されています。インフルエンザワクチン接種後の免疫反応に関する別の研究では、Bリンパ球のテロメア長が長い人は、Bリンパ球テロメアが短い人と比較して、より強力な抗体反応を示しました。
つまり、COVID-19のワクチン接種を受けても、白血球のテロメア長が短い体質の人や高齢者は、抗体が十分にできない可能性があることを示唆しています。
白血球テロメア長に関する疫学データでは、加齢、肥満、男性、白人、アルコール依存症、アテローム性動脈硬化、糖尿病、感染症、心血管疾患が白血球テロメア長の短縮と関連することが報告されています。
このようにテロメアの長さが様々な要因で影響を受け、寿命に影響することが指摘されています。高齢者になってもこの免疫機能が良好に保持されている人は、90歳代や100歳代の超高齢が達成できます。逆にいうと、90歳代以上に長生きしたければ、免疫機能を良好な状態に維持することが必要条件になるということです。

【慢性炎症は免疫力を低下し、老化を促進する】
老化というのは、加齢に伴って個体の生存に必要な様々な生命機能が低下していく現象です。
加齢に伴って免疫系が老化(機能低下)する結果,免疫系本来の非自己を排除する機構と炎症反応を制御する機構が低下し,その結果、高齢者では易感染性や炎症の持続(慢性炎症)が引き起こされます。
加齢に伴う免疫系の老化を特徴づける現象として「免疫老化(Immunosenescence)」と「炎症加齢(Inflammaging)」があります。
「免疫老化」は免疫系本来の役割である「非自己を排除する機能」が加齢に伴って低下することを指し、高齢者で認められる易感染性の原因となっています。ミトコンドリア機能の低下は免疫細胞の機能低下の重要な原因となっています。
「炎症加齢」は炎症反応を制御する機構が加齢に伴って低下する結果、慢性的に炎症が持続することによって老化が促進されることです。
「Inflammaging」はinflammation(炎症)+aging(加齢)から作られた用語で、炎症が老化や、老化に伴う様々な疾患と密接な関係があることから生まれた造語です。
加齢に伴って免疫機能は個体・細胞レベルで低下していますが、一方で高齢者の血中において インターロイキン6(IL-6)や 腫瘍壊死因子α(TNFα) などの炎症性サイトカイン、C-反応性タンパク質(CRP)や種々の補体分子などの炎症性タンパクが慢性的に増加しています。
このような血中の炎症性物質の増加に加えて、高齢者では自己抗体の保有率が上昇しています。老化に伴う慢性炎症が状態が様々な老化関連疾患の発症を促進しています。

図:加齢に伴ってリンパ球(T細胞やB細胞など)や貪食細胞(マクロファージ、樹状細胞など)の免疫細胞の機能が低下し(①)、この免疫老化(Immunosenescence)によって、感染症に罹りやすくなり、さらに感染が持続しやすくなる(②)。持続的感染はさらに免疫機能を低下させ、悪循環を形成して免疫老化が進行する(③)。持続的感染は持続的な炎症反応(慢性炎症)を引き起こして、炎症性サイトカインの分泌が亢進する(④)。このような慢性炎症状態は組織障害を介して細胞や組織の老化を促進する(⑤)。このような慢性炎症の持続によって老化が促進される現象を炎症加齢(Inflammaging)という(⑥)。

【NAD+を増やすと免疫力が向上してCOVID-19の死亡リスクを低下できる】
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)では高齢者ほど死亡率が高いことが明らかになっています。
高齢者は心臓や呼吸器の機能が低下し、動脈硬化や糖尿病や高血圧などの併存疾患を持つ人が多く、これらの状態がCOVID-19に対する死亡リスクを高めています。高齢者では免疫機能が低下していることも、重症化しやすい理由と思われます。心臓や呼吸器や免疫組織の機能を高めれば、COVID-19の重症化のリスクを軽減できますが、その方法の一つとしてニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド(NAD+があります。
以下のような報告があります。

Influence of NAD+ as an ageing-related immunomodulator on COVID 19 infection: A hypothesis(COVID 19感染に対する加齢関連免疫調節剤としてのNAD+の影響:仮説)J Infect Public Health. 2020 Sep; 13(9): 1196–1201.

【要旨】
老化に関連した生物学的機能の低下は、人間の病気の罹患率と死亡率の増加に対する重要な要因である。これらの生物学的機能の低下の中には、心臓機能の大幅な低下、肺のガス交換の障害、免疫機能の障害がある。
加齢の過程において、液性免疫および細胞性免疫応答における多くの変化が観察される。循環している炎症誘発性サイトカインが増加し、ナイーブリンパ球が減少し、抗原提示細胞の数が上昇し、全体的な免疫応答が損なわれている。
さらに、老化はテロメアの長さの進行性の短縮と関連している。テロメアは染色体の末端に位置し、染色体の安定性を維持する上で重要な役割を果たす。また、テロメアの短縮に対して免疫細胞は感受性が高いため、テロメアの長さは免疫系にとって非常に重要である。
テロメアの短縮は、免疫細胞の機能と発達に悪影響を及ぼす。これらの有害な変化により、感染症の重症化、入院のリスク、さらには死亡のリスクが高まる。
高齢のCOVID-19患者は、免疫機能障害、サイトカインストーム、および呼吸機能障害により、実際に合併症のリスクが高くなる。
抗老化作用と免疫調節作用のあるニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド(NAD+のような因子を投与すると、その強力な免疫調節効果と寿命延長効果により、これらの病的変化を最小限に抑えることができる。 NAD+はPARP-1を直接阻害する作用があり、炎症誘発性サイトカインの過剰活性化を防ぐことができる。
NAD+レベルを上げると、テロメアが安定し、免疫細胞の機能にプラスの影響がある。

COVID-19に感染した場合、高齢者は重症化しやすく、子供はほとんど軽症で終わります。この違いは、高齢になるほど免疫力が低下することが関連していると考えられています。
前述の様に、老齢の個人と子供のDNAレベルでの重要な違いの1つは、テロメアの長さです。テロメアは染色体末端の反復ヌクレオチド配列の領域を表します。免疫系はテロメアの短縮に非常に敏感で、その機能は厳密に細胞の再生とTおよびB型の細胞のクローン性増殖に依存するためです。テロメア短縮は細胞の分裂増殖を制限します。
ニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド(NAD+ は酸化還元反応をになうさまざまな酵素の補酵素としてよく知られています。
生体内での NADの合成経路における中間体である ニコチンアミド・リボシド(NR)ニコチンアミド・モノヌクレオチド(NMN)をサプリメントで補うと、体内のNAD+の量を増やし、がサーチュイン群を活性化することにより、糖尿病などの老化関連疾患の病態を軽減するとともに、老化遅延や寿命延長にも関与しているらしいということが明らかになっています。(713話参照)

サーチュイン(サーチュインファミリー)は食物不足(飢餓状態)の時に活性化される遺伝子群で、NAD依存性脱アセチル化酵素です。哺乳類では七つのサーチュイン(SIRT1~7)が存在し、SIRT1、 6、7は核内、SIRT3、4、5はミトコンドリア、SIRT2は細胞質に局在します。
栄養素、特に糖が減少すると、NAD+が増え、サーチュインが活性化します。
サーチュインはNAD+/NADHの比率の変動を感知することによって、細胞内の栄養素の供給状況や物質代謝の状況を把握しているのです。
サーチュインはタンパク質の脱アセチル化(アセチル基を除去する)によって様々な酵素の活性を調整することによって、細胞周期、代謝、抗酸化システム、オートファジーなどの細胞機能の制御に関与しています。

カロリー制限(栄養不良を伴わない低カロリー食事療法)で、霊長類を含む多岐にわたる生物種において老化を遅延させ、寿命を延長させることが知られていますが、このカロリー制限のときに活性化されて寿命延長と抗老化作用に関与するのがサーチュイン遺伝子です。
サーチュイン1はPGC-1αを脱アセチル化することによって活性化します。活性化したPGC-1αはミトコンドリア新生を亢進します。
サーチュイン1はAMPK(AMP活性化プロテインキナーゼ)やPPAP(ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体)によって活性化されます。さらに絶食時に発現が亢進するFGF21というホルモンによっても活性化されます。

老化および老化関連疾患は,ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(nicotinamide adenine dinucleotide:NAD)量低下,およびNAD依存性脱アセチル化酵素サーチュインの活性低下と密接な関わりを持つことが示されています。
加齢に伴って体内のNAD+の量は減少します。

図:加齢とともに組織のタンパク質重量当たりのNAD+は減少する。NAD+の減少が、老化に伴う臓器や組織の機能低下の主な原因となっている。

老化に伴いNAD量およびサーチュイン活性が低下しますが、ニコチンアミドリボシド(nicotinamide riboside:NR)ニコチンアミドモノヌクレオチド(nicotinamide mononucleotide:NMN)などのNAD中間代謝産物の補充がサーチュインを効果的に再活性化することが明らかになっています。

図:ニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド(nicotinamide adenine dinucleotide:NAD+)はトリプトファンやニコチン酸やニコチンアミドなどから生成するルートもあるが、特にNAD+の前駆物質であるニコチンアミド・モノヌクレオチド(nicotinamide mononucleotide:NMN)とニコチンアミド・リボシド(nicotinamideriboside:NR)をサプリメントとして摂取すると体内のNAD+を増やすことができる。

NAD+の前駆物質であるニコチンアミド・モノヌクレオチド(nicotinamide mononucleotide:NMN)とニコチンアミド・リボシド(nicotinamideriboside:NR)は以前はかなり高額でしたが、最近は比較的安価に入手できるようになっています。

【身体活動不足は死亡に対する主要な危険因子】 
加齢によって筋肉量が減少し、筋力低下や身体機能が低下することをサルコペニアと言います。加齢とともに心身の活力(運動機能や認知機能等)が低下した虚弱な状態をフレイルと言います。
筋肉量を増やし、筋力を高めてサルコペニアを予防するために最も有効な方法は筋力トレーニングとタンパク質の豊富な食事です。フレイルを予防するためには心肺機能を高める有酸素誘導が有効です。

2017年7 月のランセットの論文によると、世界の全死亡数の約9%は身体活動不足が原因で、その影響の大きさは肥満や喫煙に匹敵すると言っています。(Lancet. 2012 Jul 21; 380 (9838): 219-29. )
運動不足は心臓の冠動脈疾患や2型糖尿病や乳がんや大腸がんのリスクを高めるからです。
この論文では、身体活動の不足(physical inactivity)は、冠動脈疾患の6%、2型糖尿病の7%、乳がんの10%、大腸がんの10%の原因になっていると推定しています。2008年の全世界の死亡者数5700万人のうち530万人(約9%)の死亡の原因に身体活動の不足が関与していると推定しています。したがって、もっと身体活動を増やすべきだと提言しています。

薬を使わないで免疫力を高める最も有効な方法は運動です。適度な有酸素運動(ウォーキング、サイクリング、水泳、ジョギング)には抗炎症作用があり、炎症性サイトカイン(TNF-α、MCP-1、IL-6など)を減少させ、抗炎症性のサイトカインのIL-10を増加させます。
さらに、運動はアディポネクチンを増やし、インスリン感受性を増加します。

定期的な運動がヒトの微生微生物に対する免疫反応を高めることが示されています。身体運動によるこれらの健康作用の基本的なメカニズムは、AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)の活性化です。
興味深いのは、ポジティブな免疫調節効果は軽度から中程度の強度の運動でのみ達成できることです。対照的に、高強度または長時間の運動(マラソンなど)は、主に内因性コルチゾールの増加により、免疫応答を低下させることが知られています。

適度な運動は心身両面から体の治癒力を高めて病気を予防します。適度な運動は様々な方法で治癒系の働きを活発化します。
血液の循環をよくし、体の代謝を盛んにし、気分を爽快にして、ストレスを緩和し、リラクセーションと快適な睡眠により体の治癒力を向上します。適度な運動によって、ナチュラルキラー細胞活性の上昇など免疫機能が高められることも報告されています。 
動物が繰り返しストレスを受け、そのストレスを吐き出す身体的なはけ口が与えられないと、体の状態がどんどん悪化します。しかし、動物がストレスを受けても、体の運動ができる場合には、ダメージを受ける量は最小限ですむという研究があります。
運動がストレスの適当なはけ口になると免疫力と高めることにもつながります。つまり、規則的に体を動かすことは、ストレスの結果おこる生理的産物をうまく吐き出させるための手段として、一番適当な方法であり、体の自然治癒力や防御能を刺激する作用があります。 
運動によって、インスリン様成長因子-1(IGF-1)の血中濃度が低下するという報告もあります。IGF-1は老化を促進しがん細胞の増殖を促進する作用があるので、IGF-1の血中濃度の低下は老化とがんを抑制する効果と関連します。

運動には、身体的な利点と同時に、大きな心理的変化も起こすことがあります。 規則的に運動している人は、運動していない人に比べて、考え方が柔軟になりやすく、自己充足感が高く、抑うつ感情も軽減します
抑うつ感情は健康維持に悪い影響を与えるため、規則的な運動によって抑うつ状態から抜け出すことは、心身を健全な状態にもっていき、免疫力にも良い影響を与えます。 
この様に運動は様々なメカニズムで体に良い影響を与え、生活習慣病を予防し、老化を抑制し、寿命を延ばす効果もあります。 

COVID-19の感染拡大によって外出が制限され、運動不足やストレスから、心身に悪影響をきたす健康二次被害の問題が生じています。
意識的に運動を行うことは、ストレスの解消と、免疫力を高めてウイルス性感染症を予防する上でも極めて重要です。

【PGC-1αを活性化するとミトコンドリアが増える】
細胞内のミトコンドリアの増殖を刺激することによって、細胞内のミトコンドリアの数と量を増やすことができます。
その方法として、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)のリガンド(ベザフィブラートなど)、AMPプロテインキナーゼ(AMPK)を活性化するメトホルミンカロリー制限絶食ケトン食によって体内で産生されるケトン体(βヒドロキシ酪酸など)、分子状水素(水素ガス)などが報告されています。
 
ミトコンドリアが増えることを「ミトコンドリア新生」や「ミトコンドリア発生」と呼んでいます。細胞内でミトコンドリアが新しく発生することです。通常、既存のミトコンドリアが増大して分かれて増えていきます。
ミトコンドリア新生で最も重要な働きを担っているのが、PGC-1α(Peroxisome Proliferator- activated receptor gamma coactivator-1α)です。日本語訳は「ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γコアクチベーター1α」です。
PPARのリガンド(フェノフィブラート、ベザフィブラートなど)やメトホルミンやレスベラトロールやカロリー制限やβヒドロキシ酪酸はこのPGC-1αを活性化する作用があります(下図)。

図:カロリー制限は体内のエネルギー低下によってAMP/ATP比とNAD+/NADH比を高める(①)。AMP/ATP比の上昇はAMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)を活性化し(②)、NAD+/NADH比の上昇はサーチュイン1(Sirtuin 1)を活性化する(③)。サーチュイン1はセリン・スレオニン・キナーゼのLKB1を活性化し(④)、LKB1はAMPKを活性化する(⑤)。AMPKはサーチュイン1を活性化する(⑥)。サーチュイン1はPGC-1αの発現を亢進する(⑦)。PGC-1αは、ミトコンドリア新生を亢進し、脂肪酸β酸化とTCA回路と酸化的リン酸化と糖新生とケトン体合成を亢進する(⑧)。メトホルミンやプテロスチルベンはミトコンドリアの呼吸酵素複合体Iを阻害して、カロリー制限と類似のメカニズムでPGC-1αたんぱく質の発現を亢進する(⑨)。ケトン体のβヒドロキシ酪酸やPPARαのリガンド(フェノフィブラートやベザフィブラートなど)はPGC-1αたんぱく質の発現を亢進する(⑩)。ニコチンアミド・モノヌクレオチドとニコチンアミド・リボシドはNAD+を増やしサーチュイン1を活性化する(⑪)。

【高脂血症治療薬のベザフィブラートはミトコンドリア新生を亢進する】
転写因子というのは特定の遺伝子の発現(DNAの情報を蛋白質に変換すること)を調節している蛋白質で、数多くの種類があります。
ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(Peroxisome Proliferator-activated Receptor :PPAR)は細胞の核内に存在する転写因子の一種です。ペルオキシソーム(Peroxisome)はほぼ全ての真核細胞が持つ直径0.1-2マイクロメートルの球状の細胞小器官で、多様な物質の酸化反応を行っています。脂肪酸のベータ酸化、コレステロールや胆汁酸の合成、アミノ酸やプリン体の代謝などが行われています。

PPARは細胞内のペルオキシソームの増生を誘導する受容体として発見されましたが、その後の研究で、糖質や脂質やタンパク質などの物質代謝や細胞分化に密接に関連している転写因子群であることが明らかになりました。脂質や糖質の代謝を促進するので、PPARを活性化する物質は高脂血症や糖尿病の治療薬として臨床で使用されています。
PPARには3種類のサブタイプ(アルファ型、ガンマ型、デルタ型)があります。これら3種類のPPARを活性化する薬として高脂血症治療薬のベザフィブラートがあります。ベザフィブラートはPPARを活性化し、ミトコンドリア新生を亢進するPPARγコアクチベーター-1α(PGC-1α)の発現を増強することが知られています
ベザフィブラートでミトコンドリア新生を亢進し、ミトコンドリア機能を活性化すると、ミトコンドリアの機能異常を是正できるという報告があります。

A metabolic shift induced by a PPAR panagonist markedly reduces the effects of pathogenic mitochondrial tRNA mutations.(PPARの汎アゴニストによって誘導される代謝シフトは病的なミトコンドリアtRNA変異の作用を顕著に軽減する)J Cell Mol Med. 2011 Nov;15(11):2317-25.

ミトコンドリアDNAの変異などでミトコンドリアの酸化的リン酸化の活性が低下した細胞にベザフィブラートを添加すると、ミトコンドリアの量が増え、ミトコンドリアのタンパク質の合成が亢進し、酸化的リン酸化活性が上昇し、ミトコンドリアにおけるATP産生能を亢進することが培養細胞や動物実験で報告されています。
ミトコンドリア新生を促進するPPARγコアクチベーター-1α(PGC-1α)の発現と活性を亢進して、ミトコンドリア新生を亢進し、酸化的リン酸化活性を高めることは、ミトコンドリアの異常に起因する疾患の治療として有効であることが示唆されれています。

ミトコンドリアDNAには22種類のtRNAの遺伝子がコードされています。ミトコンドリアDNAの変異などでミトコンドリア機能が低下していても、ベザフィブラートでミトコンドリア新生を亢進して酸化的リン酸化を促進すると、ミトコンドリア機能異常を改善できるということです。
PGC-1αの活性化はミトコンドリア新生の亢進と同時に、異常なミトコンドリアを分解するミトファジーを亢進して、ミトコンドリアの品質を良くする効果があるということです。(下図)

図:PPARの汎アゴニストのベザフィブラートやAMP活性化プロテインキナーゼやサーチュイン1を活性化するメトホルミン、カロリー制限、ケトン体、水素ガスはPGC-1α(ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γコアクチベーター1α)を活性化する。PGC-1αはミトコンドリア新生を亢進して新しいミトコンドリアを増やし、ミトファジーを亢進して異常なミトコンドリアの分解を亢進する。その結果、ミトコンドリアの品質を良好に維持する。

ベザフィブラートはミトコンドリア新生を亢進して、さらに異常なミトコンドリアの分解(ミトファジー)を亢進して、がん細胞におけるミトコンドリア異常を是正し、がん細胞の増殖や浸潤を抑制できる可能性が示唆されます。
これは、ミトコンドリアDNAの変異によってミトコンドリア機能が低下しているALS患者の場合でも、ミトコンドリア新生を亢進するとミトコンドリアの機能を改善でいる可能性を示唆しています。
また、がん治療に使われる免疫チェックポイント阻害剤のオブジーボを使用するとき、ベザフィブラートを併用すると、ミトコンドリアの活性が亢進してオプジーボの抗腫瘍効果が高まることがオプジーボの開発者の本庶佑教授らの研究で明らかになっています。(Tumors attenuating the mitochondrial activity in T cells escape from PD-1 blockade therapy. eLife. 9: e52330. 2020)

【分子状水素(水素ガス)は生体にとって理想的な抗酸化物質】
私たちが呼吸によって取り込んだ酸素を使ってミトコンドリアでエネルギーを産生する過程で スーパーオキシド・ラジカル(O2-という活性酸素が発生します。スーパーオキシド・ラジカルは体内の消去酵素(スーパーオキシド・ディスムターゼ)によって過酸化水素(H2O2)に変わり、過酸化水素はカタラーゼやグルタチオン・ペルオキシダーゼという消去酵素によって水(H2O)と酸素(O2)に変換され、無毒化されます。
しかし、スーパーオキシドや過酸化水素の一部は鉄イオンや銅イオンと反応して、ヒドロキシルラジカル(・OH)が発生します。ヒドロキシルラジカルの酸化力は活性酸素のなかで最も強力で、細胞を構成する全ての物質を手当たりしだいに酸化して障害を起こします。
また、誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)によって炎症細胞から産生される一酸化窒素(NO)スーパーオキシド・ラジカル(O2-が反応すると、ペルオキシナイトライト(・ONOO2-)という酸化力の強いフリーラジカルが発生します。ペルオキシナイトライトは炎症疾患における組織の酸化障害や発がん促進の原因となります。
水素ガスはヒドロキシルラジカルとペルオキシナイトライトを消去することによって、炎症における組織の酸化傷害を阻止します。

体内で過剰に発生する活性酸素は、体の構成成分を酸化することによって、老化を促進し、動脈硬化性疾患やがんなど多くの疾患の原因となっています。また、慢性関節リュウマチや潰瘍性大腸炎などの自己免疫疾患や慢性炎症性疾患では、組織の炎症によって産生される活性酸素が疾患の進行や増悪を引き起こしています。
活性酸素はミトコンドリアを傷害して細胞機能を低下します。
したがって、活性酸素の害を取り除くことは、老化関連疾患や慢性炎症性疾患の治療に有効です。
 
しかし、活性酸素には体に必要な「善玉」もいて、全ての活性酸素を消去すると体の機能に悪影響を及ぼす可能性もあるというジレンマがありました。その点、水素は活性酸素の中でも体の組織や細胞にダメージを与える「悪玉活性酸素(=ヒドロキシルラジカルやペルオキシナイトライト)」だけを消去し、善玉の活性酸素の働きを妨げないことが明らかになっています。
しかも極めて小さいので体内のどこにでも容易に浸透できます。例えば、水素ガス(H2)の分子量は2ですが、ビタミンCの分子量は176、ビタミンEは431、コエンザイムQ10は863という大きさで、水素ガスの数十倍から数百倍の大きさです。
水素ガス以外の抗酸化物質は分子量が大きいことや脂溶性や水溶性のどちらかの性質を持つため、体の中で働ける場所が限定されます。一方、水素ガスは小さいので、血管が閉塞していても組織に浸透して働き、血液脳関門も容易に通過できるので、脳内にも到達して抗酸化作用を発揮します。
このように、水素ガスは生体にとって「理想的な抗酸化物質」と言えます。

【水素ガスはPGC-1αの発現を誘導してミトコンドリア機能を亢進する】
分子状水素(水素ガス)がFGF21を活性化して、肥満や糖尿病を改善することが報告されています。

Molecular hydrogen improves obesity and diabetes by inducing hepatic FGF21 and stimulating energy metabolism in db/db mice.(分子状水素は、db / dbマウスにおいて肝臓のFGF21を誘導し、エネルギー代謝を刺激することにより、肥満および糖尿病を改善する)Obesity (Silver Spring). 2011 Jul;19(7):1396-403.

FGF21(Fibroblast growth factor 21;線維芽細胞増殖因子21)は他の線維芽細胞増殖因子と構造上の相同性を持っていますが、細胞増殖を促進する「増殖因子」としての活性はなく、糖や脂質代謝を制御するホルモン様作用を示すタンパク質です。
肝臓・脂肪・筋肉・膵臓などで産生され、FGF21の主要な標的組織は肝・膵・脂肪組織と考えられています。
FGF21の生理的役割は、飢餓に対する適応と考えられています。空腹に反応して肝の脂質代謝が亢進し、さらにケトン体が産生されると、FGF21が放出されます。
FGF21を全身的に投与すると、血糖・中性脂肪が低下し、膵臓β細胞の機能が改善し、肥満と脂肪肝が改善し、アディポネクチンが増加し、心血管リスクファクターマーカーが減少するなどの効果が見られます。

FGF21はカロリー制限と同様の健康作用を発揮し、マウスの実験では寿命延長効果も見られています。FGF21は有望なカロリー制限類似薬と言えます。FDF21を過剰に発現するように遺伝子改変したトランスジェニックマウスは寿命が30%(オス)〜40%(メス)延びたという実験結果が報告されています。
FGF21は成長ホルモン(GH)/インスリン様増殖因子-1(IGF-1)シグナル伝達系を抑制します。成長ホルモン/インスリン様成長因子-1(IGF-1)シグナル伝達系の活性化は寿命を短縮することが明らかになっています。FGF21はこのシグナル伝達系を阻害することによって、健康作用を発揮し、寿命を延長する効果を発揮します。
分子状水素(水素ガス)がFGF21の発現を亢進するのであれば、そのシグナル伝達系の下流に存在するサーチュイン1を活性化し、PGC-1αの発現を誘導する作用があるはずです。実際に分子状水素はPGC-1αの遺伝子発現を刺激して脂肪酸代謝を促進することが報告されています。

Molecular hydrogen stimulates the gene expression of transcriptional coactivator PGC-1α to enhance fatty acid metabolism(分子状水素は転写活性化因子PGC-1αの遺伝子発現を刺激して脂肪酸代謝を促進する)NPJ Aging Mech Dis. 2016; 2: 16008.

メカニズムは複雑でまだ不明な点も多いのですが、水素ガスはPPARα/FGF21/PGC-1αシグナル伝達系に作用してミトコンドリア新生を亢進し、ミトコンドリア機能を高める効果があるようです。これは、肥満と糖尿病とメタボリックシンドロームの改善における分子状水素の潜在的有益性を示唆しています。

以上の様なミトコンドリアを活性化する方法を積極的に実践すれば、新型コロナウイルスに感染しても、重症化せずに治すことができると思います。

 

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