「鉄西区」などのドキュメンタリー映画で世界的に知られている中国の監督、
王兵(ワン・ピン)が初めて製作した長編劇映画です。
文化大革命の直前に起きた中国共産党を批判した人たちを粛清する「反右
派闘争」の悲劇にメスを入れ、歴史の荒波に飲み込まれて行った名もなき悲
劇の人々を描いています。
毛沢東が一度は言論の自由を打ち出し、急変して批判者を逮捕し砂漠の地
下壕舎に収容、悲惨極まりない収容所生活で多くの人が死亡したそうです。
そんな過酷な体験をしながらも生き残った人たちの証言をもとに脚本が作ら
れ、密かに撮影されました。
中国では現在もタブーとされている史実であり、中国では公開されていない
そうです。
ワン・ピン監督は、香港・フランス・ベルギーから出資をつのり、ゴビの砂漠に
粛清者収容施設のセットを作り、3年の歳月をかけて撮影した根性は、人間
の尊厳をあくまで追求したい監督の執念としか言いようがありません。
ワン・ピン監督が脚本を書き、本職の俳優と素人との混合キャストを組んだそ
うですから、手法としては壮絶な記録映画のタッチですが、間違いなく劇映画
であり、見ていてそのあたりが混がります。
ラストは上海から囚人の夫を若妻が尋ねてくるのですが、夫は既に死んでい
て、泣きながら夫の埋葬された場所を探すところは見ていてやるせないし、
日本の「野火」のように人肉を喰う話や、人が吐いたゲロまで掬って食べる場
面などは正視が出来ません。
隆盛の現在を誇る中国で、極めて近い過去にこんな凄惨な事実があったこと
を知って驚くばかりですが、中国の現体制を告発するというより、世の中の不
条理をあくまで追求した作品として見てあげたいと思います。