時間を扱うということ

　　　
　自分は毎週「仮面ライダー電王」を見ている。平成ライダーと括られる近年のライダーシリーズは、もはや子供の見るものではなくなっているのだが、裏を返せば大人が見るとかなり面白い。さらに今年のライダーは時間を飛び回るのが仕事なので、戦闘シーン以外は子供が見たところで理解するのは難しいだろうと思う。

　「電王」では、ライダーは基本的に過去で敵と戦っている。お台場や汐留あたりのビルをばかばか破壊しているのに死者が出ていないようなのが不思議だ。一応、過去で破壊や殺戮が起こると、ライダー達のやってきた時代、つまり「現在」でも異変が起こる。突如あったはずの建物やいたはずの人が消えてしまうのである。

　しかしライダーが敵を斃すと、時間の「運行」が正常に戻り消えた建物や人も何事もなかったかのように元通りになる。先週の説明では「人々の記憶があるから元に戻る」のだそうだ。なので現在において誰も覚えていなかった人については消えたままになってしまう、というのが今週の伏線になっていた。
　
　時間移動の話はよくあるものだが、そのたび僕はいつも違和感を覚える。「過去」でその人が死んでしまったのであれば、「現在」においては消えるも何も元から存在していないはずである。また逆に「現在」その人が生きているということは、「過去」で死ぬ運命にはなかったことの証左であるはずだ。つまりどうどうめぐりの矛盾に陥っていることになる。

　全く同じような例として、２ヶ月ほど前にルパン三世の４０周年企画として「ルパン三世 霧のエリューシヴ」をTV放映していた。これも、ルパンたちの目の前で人が次々消えていくのだが、魔毛狂介という未来から来た科学者がタイムマシンを使ってそれらの人々の祖先を消したからだという。魔毛狂介は、あるとき自分の研究所近くの岩が突然目の前で消えたことで、自分以外に過去に飛べるものがいると恐怖していた。
　
　しかし祖先を殺したのであれば、それを所与として歴史が進んでいるはずであり、そもそも「現在」で消そうとした子孫なるものがうろついていることもない。同じく、過去に誰かが岩を破壊したのであれば、その岩はないものとして時間が進むのであり、わざわざ「現在」の目の前で消えるはずもない。ちなみにこの「霧のエリューシヴ」では、魔毛狂介の声を演じた中村獅童がかなり上手だったのにも驚いた。この人にプラスの印象を抱いたのは初めてだ。

　タイムマシンといえば、みなさんお馴染みなのはドラえもんであろうが、これに至っては物語の前提に矛盾が生じている。ドラえもんの所有者(？)であるセワシは、自分の境遇が恵まれないのは先祖であるのび太のせいであるとして、過去を操作しようとドラえもんを送り込む。のび太の嫁さんは、当初ジャイ子のはずであったが、いつの間にやらドラえもんの活躍(？)により静香に変わる。のび太はいみじくも「そうすると、君らは生まれてこないことになるぜ」と的を射た発言をするが、セワシいわく“車でも電車でも東京から大阪に着けることには変わりない。手段の問題だ。”という。

　いくらなんでもこれは無茶な論理だと思うのだが、先祖の結婚相手が変われば当然子孫の系譜もがらりと変わる。つまり、セワシの設定が当初ジャイ子とのび太の子孫というのであれば、のび太が静香と結婚した時点で彼はそもそも存在するはずのない人間であり、ドラえもんもわざわざ野比家にやって来ることはない。ドラえもんがのび太と静香の仲立ちに失敗しない限りは、この物語の辻褄は合わないことになる。

　３つとも論点は同じで、いわゆる「タイムパラドックス」として議題や題材に使われるそうだ。いずれにせよ、問題は「現在」という時空間上のある１点を中心に、極めて主観的に話を立てているという点にあると思う。時間は、平面・空間に続く４次元軸と言われる。２次元からは３次元である空間の移動を認識できないように、時間を移動できない我々にとって４次元は知ることの出来ない世界である。

　ここまで僕は時間移動の矛盾「タイムパラドックス」を誤りとして書いてきたが、３次元人には認識できない４次元の事象について、誤りであると断定することは出来ない。結局のところ、時間移動を扱う、つまり３次元の人間が４次元を扱うということの難しさを指摘できる程度なのだろうと思います。

　ただ「仮面ライダー電王」は、本当に大人が見て面白い作品なのでおすすめです。