見もの・読みもの日記

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歴史の中の台湾/台湾紀行(司馬遼太郎)

2017-12-20 23:35:42 | 読んだもの(書籍)
〇司馬遼太郎『台湾紀行』(朝日文庫 街道をゆく40) 朝日新聞出版 2009.5

 台湾旅行に行くことに決めて、新しいガイドブックを買いに行ったついでに、そういえば台湾篇をまだ読んでいなかったことに気づいて購入し、行きの機内で読み始めて、帰りに読み終わった。本書は1993年と1994年の台湾旅行をもとに、精力的な取材をまじえて執筆されている。1993年1月は主に台北に滞在し、基隆港や日月潭にも足をのばしたらしい。1994年4月は、高雄から入り、台南、花蓮、嘉義、台東、珊瑚潭などをまわっている。しかし、不思議なことに本書を読み終えても、あまり著者が見た台湾の風景はあまり頭に残らない。むしろ、著者ではない「誰か」が見たさまざまな台湾の風景が、ぐるぐると万華鏡のように浮かんでいる。

 たとえば、台湾の行政の基礎をつくった児玉源太郎、後藤新平、そして新渡戸稲造。日本の占領行政を美化するつもりはないが、客観的に見て人材にめぐまれたなあと思う。水沢藩生まれの後藤、盛岡藩生まれの新渡戸は、少年時代、薩長という占領者のもとで、日本に対する台湾人の境涯を体験していたという指摘を面白いと思った。

 土木技師の八田與一は烏山頭にダムを築き、嘉南平野を豊かな農地に変えた。台湾の人々に愛され、尊敬された日本人として、むしろ最近になって、よく名前を聞くようになった人物である。ダム工事は、受益者たちが「組合」をつくって資金を集め、政府が補助金を出すという方式で行われたため、八田は「総督府技師」の肩書を捨て、組合に雇用された技師になったこと、太平洋戦争に徴用されてフィリピンに向かう途中、船が攻撃を受けて死んだこと、奥さんが烏山頭ダムに身を投じて後を追ったことなど、私は初めて知った。著者は、土木という技術がしばしば人類的な性格を持つと書いているとおり、このひとは日本人として顕彰するよりも、民族や国籍を超えた存在として、そっとしておくほうがいいのではないかと思った。

 伊沢修二が志願して台湾総督府学務部長心得となり、台北の北郊に芝山巌学堂という小学校を建てたというのは知らなかった。伊沢は六人の音楽教師を連れてきたが、伊沢の帰京中、この学校は日本統治に抵抗する武装勢力に襲われ、教師がみな死亡するという悲劇にみまわれた。伊沢の志が、八田に比べて劣っていたわけではないと思う。私たちの前にある歴史は、さまざまな偶然が左右したあげくの結果なのである。

 日本統治時代の山地人の反乱「霧社事件」についても、初めて詳細を知った。誇りを奪われた者の反乱という点で、熊本の神風連の乱に似ているという。人間は、生活の便利さや経済的豊かさだけで生きるものではなく、誇りを奪われたら生きていけないのだということは、いつも心に留めておかなければならないと思う。

 ほかにもたくさんの、有名・無名の人物が登場する。元新聞記者(著者の元同僚らしい)の田中準造氏は、戦前、台南に近い新営で少年時代を過ごした。引き上げで日本に移り住み、ずっとのちにひとりで新営に赴き、感極まって泣きながら、町の人々に助けられて、医者の沈乃霖先生を尋ねあてた。これは本書の中でも出色の、小説というよりおとぎ話のように美しいエピソードである。

 最初の旅で、著者は陳舜臣夫妻とともに李登輝総統と会談している。李登輝さんは、1988年、蒋経国前総統の死によって、総統に就任したばかりの頃だった(ちなみに本書巻末には『台湾紀行』を書き上げたあとの、別の機会の対談も収録されている)。李登輝さんは、親日的な政治家・言論人として知られるが、本書を読んで、むしろ思想的バックボーンはキリスト教なんじゃないかと感じた。私が非常に気に入ったのは、農民のデモが台北に向かっていると聞いて「あの沈黙の人達がデモをするようになったか」と涙があふれそうになったという逸話。近年の、若い世代による民主化運動についても、同様の感慨をお持ちだろうか。

 また、本書には、執筆時期の1993-94年という時代の刻印を、強く感じるところがある。蒋家の支配が終了し、急速に民主化が進んだ時期。忘れてはならないが、この少し前まで、台湾は自由にものを言える社会ではなく、政治犯は緑島という離島に送られていたのである。また、日本を抜いて世界でもトップクラスのドル持ちの国となり、なんと大陸に「優しい小姐」を求める嫁探しツアーが人気だともいう(当時)。著者は大胆にも李登輝総統に向かって、「もし大陸中国が、いっそ養ってくれませんかと言ってきたらどうします?」と聞いて、困らせている。

 それから20数年が経ち、台湾の民主化は、さまざまな困難につきあたりながらも着実に進んでいると思う。一方、経済はどうなんだろう。特に悪化しているとも思わないが、今、「大陸中国が養ってくれと言ってくる」状態を想像する人はいないだろう。そうした時代の変化と、予測できたもの・できなかったものを確かめながら読むと面白い。

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1 コメント

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Unknown (芽衣子)
2018-12-23 18:48:45
蔡焜燦さんの「台湾と日本精神」という素晴らしい本を読んでみて下さい

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自虐教育から解放されますよ

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