〇『趙氏孤児案』全41集(2013年、中国中央電視台;中視伝媒他)
中華ドラマファンの間では、2017年は大豊作の1年と言われているらしい。確かにそうだ。昨年の暮れ、まさかこんな1年が始まるとは予想していなくて、ちょっと見たいものが途切れた合間にGYAO!ストアで『天命の子~趙氏孤児』(日本名)を見始めた。面白いので、あっという間に最初の配信話数を見尽くしてしまって、続きの配信を待っているうち、関心が『射雕英雄伝』に移り、そのあとも『軍師聯盟』『人民的名義』に嵌って、戻ってこられなくなってしまった。年末に至って、ようやく全話を見た。日本語字幕版ではなく、中国の動画サイト「騰訊視頻」を利用して、第1話から見直した。
舞台は中国春秋時代の晋の国。趙朔とその一族は政敵の屠岸賈によって滅亡させられたが、生まれたばかりの幼児・趙武は、趙朔の食客・公孫杵臼と、医者の程嬰によって助け出される。屠岸賈は城内の赤子の皆殺しを命じる。程嬰は、趙武の身代わりに、同じ日に生まれた我が子の命を差し出し、以後、我が子・大業と偽って、趙武を育てる。この奇計を屠岸賈に信じさせるため、公孫杵臼は命を捨て、程嬰の妻・宋春は記憶の一部を失い、夫を認識できなくなる。
程嬰は、趙朔の妻・荘姫公主や趙朔の下僚・韓厥将軍に恨まれ、蔑まれながら、屠岸賈の庇護の下、大業(趙武)を育てあげた。大業は、屠岸賈の一人息子・無姜と兄弟のように睦まじく育つ。そして19年後、ついに真実が明かされるときがやってくる。
煎じ詰めれば善悪のはっきりした復讐譚なのだが、ドラマは起伏に富んで見事な展開だった。元来「史記」や「春秋左氏伝」が伝える物語で、元曲や京劇でも親しまれてきたというので、ドラマの脚色がどのくらい入っているのか、よく分からなかったが、Wikipeadiaを読んで、かなり創作をまじえているらしいことが分かった。
主人公・程嬰(呉秀波)と屠岸賈(孫淳)の超級頭脳戦がひとつの見どころだが、それだけではない。奸臣・屠岸賈は、愛妻・孟姜の死と引き換えに息子の無姜を得、息子の幸せ=栄耀栄華を願って、政敵を倒し、権力の簒奪に邁進する。しかし成人した無姜は、己れの出生を疑い、父に反発する。屠岸賈が差し向けた女スパイの湘霊は、大業の人柄にほだされ、屠岸賈から離反する。智者を以てしても予測できない「人心」の面白さ。また、屠岸賈の罠に落ちて命を失った趙朔だが、その生前の善行が、めぐりめぐって程嬰や趙武を助けることになる。
登場人物は多くないが、みな印象的である。完全な悪人も完全な善人もなく、貪欲、短気、臆病、浅慮など、みんな何かの欠点を抱えていて、しかし魅力的に描かれている。全ての真相が明らかになったあと、大業(趙武)は屠岸賈の命を取るべきか取らざるべきかで悩むが、復讐にはやる公主と韓厥が「なぜ殺さない!」とキレる場面が面白かった。程嬰の妻・宋香(練束梅)は、少しでも豊かな暮らしを夢見る、単純で善良なおばちゃんで、程嬰のような智謀も義侠心も持ち合わせないのに、運命に翻弄されて、苦難の多い生涯を終える。検索すると、素顔は若々しい女優さんだが、老齢に至る難しい役をよく演じている。そして、最後まで宋香と程嬰が引き裂かれることなく、物語が終わってよかった。
物語のその後を想像すると、謀反人の子となった無姜はつらい人生を送っただろうなあ。政治は嫌いだと言っていたから、辺境警備に赴いたか。草児はそばにつきそっただろうか。義父の程嬰を失った趙武も大変だろうと思う。晋の朝廷には、ほかに趙武を教え導く大人がいそうにないので。
2013年に中国国内で数々の賞を総なめにしたという評価には納得。日本でテレビ放映したら、少なくとも一部には熱狂的なファンがつくドラマだと思う。どこか試してくれないかなあ。
中華ドラマファンの間では、2017年は大豊作の1年と言われているらしい。確かにそうだ。昨年の暮れ、まさかこんな1年が始まるとは予想していなくて、ちょっと見たいものが途切れた合間にGYAO!ストアで『天命の子~趙氏孤児』(日本名)を見始めた。面白いので、あっという間に最初の配信話数を見尽くしてしまって、続きの配信を待っているうち、関心が『射雕英雄伝』に移り、そのあとも『軍師聯盟』『人民的名義』に嵌って、戻ってこられなくなってしまった。年末に至って、ようやく全話を見た。日本語字幕版ではなく、中国の動画サイト「騰訊視頻」を利用して、第1話から見直した。
舞台は中国春秋時代の晋の国。趙朔とその一族は政敵の屠岸賈によって滅亡させられたが、生まれたばかりの幼児・趙武は、趙朔の食客・公孫杵臼と、医者の程嬰によって助け出される。屠岸賈は城内の赤子の皆殺しを命じる。程嬰は、趙武の身代わりに、同じ日に生まれた我が子の命を差し出し、以後、我が子・大業と偽って、趙武を育てる。この奇計を屠岸賈に信じさせるため、公孫杵臼は命を捨て、程嬰の妻・宋春は記憶の一部を失い、夫を認識できなくなる。
程嬰は、趙朔の妻・荘姫公主や趙朔の下僚・韓厥将軍に恨まれ、蔑まれながら、屠岸賈の庇護の下、大業(趙武)を育てあげた。大業は、屠岸賈の一人息子・無姜と兄弟のように睦まじく育つ。そして19年後、ついに真実が明かされるときがやってくる。
煎じ詰めれば善悪のはっきりした復讐譚なのだが、ドラマは起伏に富んで見事な展開だった。元来「史記」や「春秋左氏伝」が伝える物語で、元曲や京劇でも親しまれてきたというので、ドラマの脚色がどのくらい入っているのか、よく分からなかったが、Wikipeadiaを読んで、かなり創作をまじえているらしいことが分かった。
主人公・程嬰(呉秀波)と屠岸賈(孫淳)の超級頭脳戦がひとつの見どころだが、それだけではない。奸臣・屠岸賈は、愛妻・孟姜の死と引き換えに息子の無姜を得、息子の幸せ=栄耀栄華を願って、政敵を倒し、権力の簒奪に邁進する。しかし成人した無姜は、己れの出生を疑い、父に反発する。屠岸賈が差し向けた女スパイの湘霊は、大業の人柄にほだされ、屠岸賈から離反する。智者を以てしても予測できない「人心」の面白さ。また、屠岸賈の罠に落ちて命を失った趙朔だが、その生前の善行が、めぐりめぐって程嬰や趙武を助けることになる。
登場人物は多くないが、みな印象的である。完全な悪人も完全な善人もなく、貪欲、短気、臆病、浅慮など、みんな何かの欠点を抱えていて、しかし魅力的に描かれている。全ての真相が明らかになったあと、大業(趙武)は屠岸賈の命を取るべきか取らざるべきかで悩むが、復讐にはやる公主と韓厥が「なぜ殺さない!」とキレる場面が面白かった。程嬰の妻・宋香(練束梅)は、少しでも豊かな暮らしを夢見る、単純で善良なおばちゃんで、程嬰のような智謀も義侠心も持ち合わせないのに、運命に翻弄されて、苦難の多い生涯を終える。検索すると、素顔は若々しい女優さんだが、老齢に至る難しい役をよく演じている。そして、最後まで宋香と程嬰が引き裂かれることなく、物語が終わってよかった。
物語のその後を想像すると、謀反人の子となった無姜はつらい人生を送っただろうなあ。政治は嫌いだと言っていたから、辺境警備に赴いたか。草児はそばにつきそっただろうか。義父の程嬰を失った趙武も大変だろうと思う。晋の朝廷には、ほかに趙武を教え導く大人がいそうにないので。
2013年に中国国内で数々の賞を総なめにしたという評価には納得。日本でテレビ放映したら、少なくとも一部には熱狂的なファンがつくドラマだと思う。どこか試してくれないかなあ。