見もの・読みもの日記

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考え続けるために/学校って何だろう(苅谷剛彦)

2011-05-26 23:20:49 | 読んだもの(書籍)
○苅谷剛彦『学校って何だろう:教育の社会学入門』(ちくま文庫) 筑摩書房 2005.12

 学校って何だろう。「学校」生活から遠ざかって何十年にもなるのに、周りに子どももいないのに、ときどき考えてしまう。本当は私の問いは「大学って何だろう」なのだが、いまの日本の社会では、大学も「学校」の一部と考えることに、あまり違和感を感じなくなってきているように思う。

 本書は1997年から98年にかけて「毎日中学生新聞」に連載された文章を原型とする(98年、単行本化)。執筆当時は、知識偏重・画一教育が批判され、「生きる力」にシフトした学習指導要領改訂が発表される寸前だったが、「文庫版あとがき」では、「ゆとり」教育の見直しが語られている。そういうわけで、今読むと、社会背景の古めかしさは否めない。だが、時代を超えて、なるほどと感じさせる内容も十分にある。

 本書の章題には、誰でも一度は抱く疑問が並んでいる。まずは「どうして勉強するの?」。著者は、明確な正解を提示しようとはしない。ただ、日本でも、つい最近まで「勉強したくても進学できない」子供が多かったこと、大人たちは「どの子にもできるだけ教育を(しかも、同じ教育を)受けさせてあげよう」と思って頑張ってきたことが示される。本当にそれでよかったのか。あとは自分でゆっくり考えてほしい、というのが本書のスタンスなのである。

 教室とは何か。なぜ、あんな形をしているのか。校則は、教科書は何のためにあるのか。学校は何を学ぶところか。私たちは教科書に書いてあることだけを学ぶのか。先生の仕事とは何か。明快だなーと思ったのは、試験は何を測るのか、という問い。試験の公平さを担保するのに最も大切な条件は「時間」である。つまり、学校が求める学力とは、「限られた一定の時間内に答えを出す能力」のことなのだ。そうか、と膝を打ちたくなった。昨今、大学や会社で「できる」と看做される条件も変わらない。でも本当は、正解のない状態に耐える能力とか、長い歳月をかけて考え続ける能力も、もう少し大事にされていい筈だと思う。

 また、学校とは、本来「子どもが大人になるまでに必要な知識」を教えるところであり、先生はそれ(知識)を教える専門家であって、子どもの気持ちを理解する専門家ではない。にもかかわらず、あれもこれも学校と先生に期待する傾向が日本の社会には強い、と著者は指摘する。欧米では人の生き方を教えるのは「学校より教会などの宗教の役目だと考えられていました」という説明に納得した。

 2004年の統計では、日本全国の小中高に計91万人の先生がいるのだそうだ。これは日本の人口の130分の1。多いなあ! 130人に1人、こんなにたくさんの先生が、「心の教育」の専門家になれると思いますか?という問いかけには笑ってしまった。先生とは、普通の人がついている普通の職業なのだから、限度を超えた期待をもってはいけない。こういう冷めた認識は重要だと思う。

 私のような大人にとっては、学校という仕組みが、社会や歴史という背景を持ち、つねに外部からさまざまな影響を受けているのは自明のことだ。でも、現役の中学生にとって、学校は、ほとんど世界の全てに感じられるのではないかと思う。生徒であることについて、本書は「みんないっしょ」の原則と「ひとりひとり」の原則という、対立する原則の調和を図らなければならないところに難しさがある、と指摘しているが、これも、少し俯瞰的な視点で自分自身を眺めることができれば、ずいぶん楽になるものではないかと思う。いろいろ大変だろうけど、頑張れ、中学生。いや、すれっからしの中学生だったら、何ひとつ手っ取り早い「正解」を提示しない本書は、「読む意味が分からない」って言うかもしれないけど。

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2 コメント

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Unknown (Unknown)
2016-03-30 17:00:39
この本を譲っていただけませんか
残念ながら (jchz)
2016-04-01 12:50:11
読み終わった本は処分(他人にあげたり、売ったり)してしまうことが多いので、探してみましたが、もう手元にありませんでした。
お役に立てず、すみません。

まだ書店で入手可能だと思いますが、ご事情があれば、さらにコメントください。

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