見もの・読みもの日記

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ゆるくて、やさしい中国/古染付と中国工芸(日本民藝館)

2024-04-22 22:22:56 | 行ったもの(美術館・見仏)

日本民藝館 『古染付と中国工芸』(2024年3月30日~6月2日)

 古染付とは、明代末期の中国・景徳鎮民窯で、日本への輸出品として作られたやきものを言う。だが、染付(そめつけ)という柔らかな和語の響きからも、私はこれが中国産であることを忘れてしまいがちだ。今回、玄関に入ると、左手の壁には「大空合掌」の泰山金剛経拓本と鄭道昭の山門題字。右手には殷比干墓、楊淮表記摩崖(なんのことやらメモだけ取ってきて、調べながら書き写している)。見上げると、大階段の2階の壁には『開通褒斜道刻石(かいつうほうやどうこくせき)』の拓本が左右に並ぶ。そうか、古染付って中国の工芸だったな、と気づいて、なんだか嬉しくなる。

 大階段の踊り場中央には、呉州赤絵(漳州窯)の『人物山水文皿』。赤いチェックのような文様の帯でぐるりと縁取られた中型の皿で、人物とも山水ともつかない、青緑色のかたちが飛び交っている。階段下の展示ケースには、古染付のうつわに混じって、漢代の印文磚、唐代の加彩陶俑(舞楽女子)、明代の小さな明器の馬など。どれも素敵。

 心を躍らせながら、2階の大展示室へ。細かいことは気にしない、自由でおおらかな気風で描かれた、達磨、羅漢、道士や漁夫など。動物では『古染付栗鼠文中皿』のタワシをつなげたようなリス。『双鹿文皿』の四つ足に全く力のないシカ。『遊兎文小皿』の3匹列になったウサギ。私の大好きな『蓮池釣人図鉢』は大階段裏の展示ケースに出ていた。

 大展示室は、壁沿いの展示ケースの作品が全て撮影可だった。気に入った作品三選。

 古染付は明代のやきものだが、今回、清代~現代(20世紀)の民窯が多く出ていたのが珍しくておもしろかった。黄釉、飴釉、鉄釉などで、小さめの器形が多い。官窯の超絶技巧とは全く異なる「民藝」の温かみを感じた。

 併設展、2階の「墨の表現」では海北友松筆『黄山谷愛蘭図』が目を引いた。黒い頭巾を被った白衣の人物が俯いて立っている。「日本の磁器」には染付に類似した人物文のうつわも出ていたが、自由と軽妙さが物足りない感じ。「螺鈿・華角工芸と朝鮮陶磁」は、華角工芸(牛の角を薄く剥いで作った透明な板の裏側に彩色をする)の箱に、象や牛などさまざまな動物が描かれていて可愛かった。あと、各展示室で横に寝かせた冊子や軸物を抑えるのに使われている卦算(けさん)が卵殻貼りでオシャレだった。ほかに「河井寛次郎と棟方志功」。

 1階の「スリップウェア」には、グレゴリオ聖歌の楽譜や聖人図など西欧の工芸が多数。「北陸の手仕事」には、石川県の陶磁や漆器、新潟県の織物など。入口に黒い木製の『銭箱』が置いてあって、能登半島地震の災害義援金を受け付けていたので、ミュージアムショップで冊子『民藝』を購入して、五千円札を崩して寄附させてもらった。

 最後の部屋は、1月31日に鬼籍に入られた柚木沙弥郎氏の特集で、柚木氏の写真が掲げられていた。しかし「追悼」という悲しい言葉を吹き飛ばしてしまうような、明るくパワフルな染色作品の数々。こういう布をまとって死出の旅路に出ることができたらいいな、と思ってしまった。

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