見もの・読みもの日記

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おみやげは防虫香/香り かぐわしき名宝(東京芸大美術館)

2011-05-25 23:42:55 | 行ったもの(美術館・見仏)
東京芸大美術館『香り かぐわしき名宝』展(2011年4月7日~5月29日)

 描かれたもの・造られたものをテーマにした美術展は数々あるが、敢えて「香り」という、見えないものに焦点を絞ったところが面白い。

 さて、何から来るのかなーと思ったら、冒頭はホンモノの香木。徳川美術館所蔵の蘭奢待、久能山東照宮所蔵の伽羅など。ケース越しでは分からないけど、今でも香りがあるのかなあ。気になる。奈良博から見慣れた十一面観音立像(檀像、8~10世紀)が来ていたが、「現在でも蓮弁と台座をつなぐほぞに微かな香りが残る」旨の解説に感心する。

 以下はおおよそ時代に従う。仏教文化において、仏に捧げられた香り(香炉)は、やがて人々の生活を彩るものとなっていく。MOA美術館所蔵の『金銅草花蝶鳥文香炉』(12世紀)が、仏具以外の金銅製香炉としては最古なのだそうだ。着物に香りを移すための「伏籠」は、文字どおり籠かと思ったら、パズルみたいな折りたたみ式もある(徳川美術館・江戸時代)。

 室町時代以降は、香道という独特の文化が発展する。香道具というのは、なんだか医者の手術道具セットみたいだといつも思う。博物館では、実際に香りを味わうことができないので、どうもよく魅力が分からない。その分からない香道の面白さを「見える化」するために工夫されたのが十組盤。勝敗を相撲人形や競馬人形で表わす(らしい)。東博の16室(歴史資料)で、ときどき見る道具ではあるが、これだけ揃って展示される機会は珍しいと思った。

 香合は茶道具の一つ。根津美術館や五島から、これも見覚えのある名品が揃っていたが、石川県立博物館所蔵の『阿蘭陀白雁香合』が目を引いた。デルフト製。白雁というが、白鳥だろう。香合として造られたものではないんじゃないかな。江戸時代から著名で、『形物(かたもの)香合相撲』番付に「勧進元・紅毛白雁」として掲載されている(※古美術・高辻のホームページ「資料」にPDFファイルあり)。

 慶長17年(1612)銘の『織部獅子鈕香炉』には吹き出しかけた。この展示いちばんの私のお気に入り。人間臭い表情で、咥えた枝に片手を添えた獅子は、とんだへうげものである(※画像あり)。初代・大樋長左衛門の『飴釉烏香炉』もヘンだ。不必要にデカい、リアルなカラスの姿をしている。Wikiによれば、楽家に学んだ陶芸家らしい。またヘンな数寄者を見つけてしまったようだ。

 近世、香りの美学は庶民のものに。歌麿の美人にほれぼれし、鈴木春信の『玄宗皇帝楊貴妃図』に驚く(こんな絵を描いているのか)。最後は近世~近代の、香りを主題とした絵画特集だったが、鼻孔に薫風を感じる見事なセレクションだった。伝説の仙女「羅浮」「楚蓮香」は、多くの画家が描いた定番テーマ。女性的な甘く華やかな香りを連想させる。安田靫彦『菊慈童』から感じるのは、爽やかでいくぶんストイックな菊の香り。小茂田青樹『緑雨』からは、横溢する植物の生命力を感じて面白いと思ったが、公式サイトを見たら、前期展示の『春の夜』もいいな(※画像)。この人、最近、気になる画家なのである。

 出口のショップで、分厚い図録を買い控えたかわりに、山田松香木店(本展に香木の出品もしている)の防虫香を買ってきた。これがすごくいい。月曜日から雨が続いているせいもあり、家に帰ると狭い室内に芳香が立ちこめている。癖になりそう。併設の『春の名品展』は別稿で。


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