■徳川美術館 特別展『大蒔絵展-漆と金の千年物語』(2023年4月15日~5月28日)
2泊3日の関西旅行、初日は名古屋で途中下車して徳川美術館へ。お目当ては、昨年、MOA美術館と三井記念美術館で開催された『大蒔絵展』の共同開催展である。はじめに常設の展示室から。大河ドラマ関連で盛り上がっているかな?と思ったが、最初に展示されていたのは、尾張徳川家3代綱誠の『黒塗白糸威具足』と尾張徳川家初代義直が用いた『上り藤馬標』などだった。家康関連は、夏季特別展でじっくり扱う予定のようだ。
珍しかったのは、第4展示室「武家の式楽」に出ていた狂言『唐人相撲』専用の装束。細い筒袖の上衣にパッチ(袴)を穿く。一般の唐人はツバのない袋状の帽子を被り、通辞はツバのある布製の帽子を被る。中国に渡った日本の相撲取りが唐人たちと次々に相撲を取り、ついには皇帝自らが相撲の相手になるという筋立てだそうだ。他愛なくてよろしい。大人数で演ずる演目で、同館には15領揃いの衣裳が伝えられているという。蓬左文庫では企画展『能の世界-神・男・女・狂・鬼-』(2023年4月15日~5月28日)を開催中。「神・男・女・狂・鬼」は能の演目の分類分けを示す言葉で、能に親しみのない門外漢にもよく分かる展示だった。
最後に企画展示室の『大蒔絵展』へ。同館所蔵の『源氏物語絵巻・宿木一』原本を再び見ることができたのは望外の喜びだった。神仏に捧げられた太刀・手箱・経箱(平安・鎌倉時代)に始まり、権力の荘厳として使われ、西洋と出会い、近世に入って需要層が拡大し、近代・現代の名工につながる。三会場の中では、蒔絵の歴史が一番コンパクトにまとまっていて分かりやすかったと思う。
■京都国立博物館 親鸞聖人生誕850年特別展『親鸞-生涯と名宝』(2023年3月25日~5月21日)
京都へ移動して京博へ。本展は、浄土真宗を開いた親鸞聖人(1173-1263)の生誕850年という節目の年にあたり、その求道と伝道の生涯をたどる。不信心者なので、浄土真宗のことはよく知らないが、あまり仏像や仏画に期待をしてはいけないかなと思って見に行った。実際そのとおりで、文書資料の比率が高めだった。意外だったのは親鸞の直筆が多数残っていること。横画や払い画の目立つ筆跡で、信徒が聖人の筆跡を真似た写本も多い。日本民藝館で見た和讃の本が、まさにこの筆跡だったことを思い出した。あと、漢字の四つ点を三つ点にするなど、親鸞独特の書き癖があるのも面白かった。
法然・親鸞の流罪の発端となった『興福寺奏状』(展示は奏達状、奏状の草稿と伝えるものの江戸時代写本)の執筆者として、解脱上人貞慶の名前を見たときは、はっとした。念仏宗、同時代にはカルトみたいなもので、厳しい批判を浴びながら今日に至るわけで、宗教は難しい。
■龍谷ミュージアム 親鸞聖人御誕生850年・立教開宗800年記念・春季特別展『真宗と聖徳太子』(2023年4月1日~5月28日)
親鸞聖人は、29歳のとき頂法寺(六角堂)に参籠し、聖徳太子から「法然の法を聞け」という夢告を受け、晩年に至るまで深く太子に帰依した。本展は、多彩な法宝物を通して、太子信仰の高揚に親鸞聖人と弟子たちが果たした役割を再確認する。こちらは京博よりも、絵画・彫刻多めで楽しかった。聖徳太子像(絵画・彫刻)にはいくつかのパターンがあるが、垂髪童形(ツインテール)の太子は初期真宗の画像に多く、これが室町時代以降、角髪(みずら)に変化していくという。そういえば『日出処の天子』の厩戸王子は角髪と垂髪をミックスしたような髪型だったな、と思い出した。
親鸞聖人の絵伝は、東本願寺が所蔵する「伝絵」(絵巻物、康永本)が4幅の「絵伝」(掛け軸スタイル)となり、各地の真宗寺院に広まった。また、真宗寺院では聖徳太子の登場する「絵伝」も多数つくられた。日本への仏教伝来の物語(善光寺如来絵伝、聖徳太子も登場)や、日本に仏教を定着させた聖徳太子の生涯の物語から、法然・親鸞の教えに展開するかたちで布教をおこなったようである。聖徳太子の絵伝は、エピソードの選びかたに多様性があり、次第に新しい伝説が付け加わっているようで面白かった。
http://www.senjuji.or.jp/