○根津美術館 『南宋の青磁-宙(そら)をうつすうつわ』(2010年10月9日~11月14日)
青磁の展覧会といえば、2006年の出光美術館の『青磁の美』や2007年の静嘉堂文庫の『中国・青磁のきらめき』展を思い出す。まだ「やきもの」初心者だった私には、え?これも青磁?と、びっくりするようなバラエティが印象的だった。それと比べると、今回の展覧会タイトルは「南宋の青磁」。ほんとに展覧会が成立するんだろうかと心配になるほど、極限まで絞り込んだテーマであるが、集まった作品は65件(出土陶片を除く)。全て日本国内の美術館や個人の所蔵品で、日本人って、古来ほんとに青磁が好きだったんだなあ、としみじみする。
副題の「宙(そら)をうつすうつわ」は、後周の世宗柴栄の言葉「雨過天青雲破処、這般顔色做将来」(中華圏サイトではこの表現が多用されているが、後半は現代中国語っぽい)を意訳したものらしいが、美しい訳だと思う。会場には、のっけから「天青」の名にふさわしい、晴れやかで軽やかな空色のうつわが並ぶ。東博の「馬蝗絆」は、いつも鎹(かすがい)の継ぎ目が気になってしまうのだが、本展では継ぎが目立たない置きかたをしていて、よかった。薄くまろやかな椀形に、透明な光が満ちているように見えた。
和泉市久保惣記念美術館の鳳凰耳瓶「銘・萬聲(万声)」は、完璧な姿形、王者の風格。いくぶん緑がかった色合いの、とろりと滑らかな美肌は、触れば人肌のように温かそうである。陽明文庫の「銘・千聲(千声)」は、ちょっと小ぶり。冴えた空色が氷の冷たさを感じさせる。女王の気品というべきか。もう1点、藤田美術館の槌形瓶(砧形瓶)も好きだ。小さいので、卓上に置いて、ときどき掌にくるんで鍾愛したい。手元近くに置いて愛玩するには「天青」と呼ばれる空色のうつわがいいと思う。けれど、少し離れて展示ケースを眺めると、黄味がかった緑(オリーブグリーン、あるいは青葱色)のほうが、白っぽい背景に調和するように感じられる。
展示室2は大量の出土陶片を展示。特に、南宋官窯の探索に腐心した杭州領事・米内山庸夫が昭和3年に持ち帰った「米内山陶片」には驚いた。昭和17年、根津美術館で1日だけ「支那青磁展」が開かれて公開されたそうだ。陶片ひとつひとつに番号を付け、採集地等の情報をノートに記録している。愛情を感じるなあ。ほかに博多、京都、鎌倉、東京(東大構内=加賀屋敷跡)で採集された陶片コレクションもあり。
なお、今回は展示室5がめずらしく中国の画冊・画巻の展示になっている。『回紇進宝図冊』は末尾に「五福五代堂古稀天子宝」「八徴耄念之宝」(たぶん)という乾隆帝の印があるのに、半分しか見せてくれないのは何故? 細字で「臣閻立本謹進」という書き入れも見えた(模写でしょうけど)。
※東京大学美術博物館所蔵品展『古瓦・古鏡』…米内山庸夫が持ち帰った瓦と鏡のコレクション。見逃したんだ~このこの展示。
※米内山文庫…青森にあるのか。
※乾隆帝の印章(台湾故宮博物院)
青磁の展覧会といえば、2006年の出光美術館の『青磁の美』や2007年の静嘉堂文庫の『中国・青磁のきらめき』展を思い出す。まだ「やきもの」初心者だった私には、え?これも青磁?と、びっくりするようなバラエティが印象的だった。それと比べると、今回の展覧会タイトルは「南宋の青磁」。ほんとに展覧会が成立するんだろうかと心配になるほど、極限まで絞り込んだテーマであるが、集まった作品は65件(出土陶片を除く)。全て日本国内の美術館や個人の所蔵品で、日本人って、古来ほんとに青磁が好きだったんだなあ、としみじみする。
副題の「宙(そら)をうつすうつわ」は、後周の世宗柴栄の言葉「雨過天青雲破処、這般顔色做将来」(中華圏サイトではこの表現が多用されているが、後半は現代中国語っぽい)を意訳したものらしいが、美しい訳だと思う。会場には、のっけから「天青」の名にふさわしい、晴れやかで軽やかな空色のうつわが並ぶ。東博の「馬蝗絆」は、いつも鎹(かすがい)の継ぎ目が気になってしまうのだが、本展では継ぎが目立たない置きかたをしていて、よかった。薄くまろやかな椀形に、透明な光が満ちているように見えた。
和泉市久保惣記念美術館の鳳凰耳瓶「銘・萬聲(万声)」は、完璧な姿形、王者の風格。いくぶん緑がかった色合いの、とろりと滑らかな美肌は、触れば人肌のように温かそうである。陽明文庫の「銘・千聲(千声)」は、ちょっと小ぶり。冴えた空色が氷の冷たさを感じさせる。女王の気品というべきか。もう1点、藤田美術館の槌形瓶(砧形瓶)も好きだ。小さいので、卓上に置いて、ときどき掌にくるんで鍾愛したい。手元近くに置いて愛玩するには「天青」と呼ばれる空色のうつわがいいと思う。けれど、少し離れて展示ケースを眺めると、黄味がかった緑(オリーブグリーン、あるいは青葱色)のほうが、白っぽい背景に調和するように感じられる。
展示室2は大量の出土陶片を展示。特に、南宋官窯の探索に腐心した杭州領事・米内山庸夫が昭和3年に持ち帰った「米内山陶片」には驚いた。昭和17年、根津美術館で1日だけ「支那青磁展」が開かれて公開されたそうだ。陶片ひとつひとつに番号を付け、採集地等の情報をノートに記録している。愛情を感じるなあ。ほかに博多、京都、鎌倉、東京(東大構内=加賀屋敷跡)で採集された陶片コレクションもあり。
なお、今回は展示室5がめずらしく中国の画冊・画巻の展示になっている。『回紇進宝図冊』は末尾に「五福五代堂古稀天子宝」「八徴耄念之宝」(たぶん)という乾隆帝の印があるのに、半分しか見せてくれないのは何故? 細字で「臣閻立本謹進」という書き入れも見えた(模写でしょうけど)。
※東京大学美術博物館所蔵品展『古瓦・古鏡』…米内山庸夫が持ち帰った瓦と鏡のコレクション。見逃したんだ~このこの展示。
※米内山文庫…青森にあるのか。
※乾隆帝の印章(台湾故宮博物院)