見もの・読みもの日記

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可愛いから渋カッコイイへ/和装男子(太田記念美術館)

2021-01-17 20:51:50 | 行ったもの(美術館・見仏)

太田記念美術館 『和装男子-江戸の粋と色気』(2021年1月6日~1月28日)

 浮世絵に描かれた男性ファッションに焦点をあてる展覧会。この数年、同館の企画は目のつけどころが面白いので、浮世絵にあまり興味がなかった私も、気がつけば、ほぼ毎回通うようになってしまった。

 ざっくり江戸時代の男性観を語ると、初期は女性と見紛う美少年が好まれたが、時代が下ると活発で「いなせ」な男性が理想像となる。江戸後期の『守貞謾稿』には「今も処女は美少年を愛すべけれども、娼妓および市民・武家の婦女ともに美にして侠気あるを好みとす」とあるそうだ。しかしこれも、処女(若い女性)だけは、いつの時代も美少年好きというのが分かって面白い。あと、戦国時代に近い江戸初期が優美な美少年好みで、戦乱を離れるにつれて、侠気(おとこぎ)が価値を持ってくるというのも。

 17世紀の『風俗画帖』には振袖姿の若衆(美少年)が描かれていて興味深く眺めた。私は、やっぱり江戸中期以降の男性ファッションが好き。『冥途の飛脚』の忠兵衛や『心中天の網島』の紙屋治兵衛を思い出す、シックな縞柄の着物がよい。本展のメインビジュアルになっている勝川春潮『橋上の行交』も、黒い襟巻(と思ったら頭巾を巻いているのだそうだ)、紫の長羽織の下は黒い縞の小袖。帯と鼻緒の赤が差し色になっているというのは、言われるまで気づかなかった。なるほどお洒落。しかし髻(もとどり)に何か、畳んだ懐紙のようなものを付けていると思ったら、亀戸天神境内にある妙義社で授けられた雷除けのお守りだそうだ。調べたら、現在でも初卯祭が行われていて「卯の神札(うのおふだ)」と「卯槌(うづち)」が授与されることが分かった。卯槌!「枕草子」に出てきたやつだ。来年、覚えていたら貰いに行きたい。

 長羽織は天明頃に流行したもの。黒い着物に緋博多の帯は腹切帯と言われたとか、細かい流行の解説が面白かった。男性のズボン型下着について、江戸では縮緬や絹のものをパッチと言い、木綿のものを股引と呼んだ(守貞謾稿)という区別も初めて知った。ゆとりのあるものが好まれた時期もあったそうだ。虚無僧スタイルが流行したというのにも笑ってしまった(コスプレか!)。

 江戸後期に描かれたヒーローたち、物語や伝説、歌舞伎の登場人物は、とにかく人目を驚かす、奇抜で大胆なファッションを競う。髑髏とか龍とか猛獣とか、気味の悪い動物(蛸とか蟹)とか、ヤンキー文化の源泉だなあ、と思う。こういうのも大好き。歌川国貞(三代豊国)の『東海道五十三次ノ内 小田原箱根間 曽我の里 鯰坊主』は、B級映画に出てくる謎の中国人みたいで笑った。


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