〇『棋魂』全36集(愛奇藝、2020)
10月27日にネットで配信が開始されてすぐ、中国でも日本の原作ファンの間でも大好評の噂が流れてきたので見てみた。そうしたら本当に素晴らしい作品で、ちょっとまだ語る言葉に困っている。
原作は1999年から2003年まで「少年ジャンプ」に連載されたマンガ『ヒカルの碁』で、2001年にはテレビアニメにもなった。マンガは香港・台湾・中国でも出版され、アニメ版も広くアジア圏で人気になったようである。しかし私は、これまで原作にもアニメにも触れたことがなく、囲碁の面白さもよく分からないので、大丈夫かな?と心配したが、あっという間にドラマの魅力に巻き込まれた。
1997年、9歳の時光は、おじいちゃんの家で古い碁盤を見つける。このとき、格澤曜日(超新星爆発)の閃光がきらめき、時光の前に白い衣をまとった貴人が現れる。彼は南梁の囲棋(囲碁)の第一人・褚嬴と名乗る。梁武帝の碁の指南役であったが陰謀に嵌められ、命を断とうとして異空間に迷い込んだのである。清の康熙帝の時代に一度この世に現れ、天才棋士・白子虬を指導したが、白子虬の死後は、再び異空間をさまよっていたのだ。褚嬴の姿は時光にしか見えず、褚嬴はこの世の物体に触ったり、動かしたりすることができない。
やんちゃだが、気のやさしい時光は、囲碁が打ちたいという褚嬴を囲碁教室に連れて行き、同じ年頃の少年・俞亮に相手を頼む。褚嬴の指示のとおりに石を置いた時光は、当然、勝ちをおさめるが、プロ棋士を父に持ち、天才少年を自負していた俞亮は愕然とする。その後も褚嬴は、なんとか時光に囲碁を学ばせようと画策するが、褚嬴の求める「神の一手」が、一生かけても見つからないものだと聞いて、時光は断然囲碁を止める決意をする。時光に「お前なんか嫌いだ!」と言われて姿を消した褚嬴。
6年後、15歳(中学三年生)になった時光は、幼なじみの友人を助けるため、将棋部の部長と囲碁で勝負することになる。その勝負の最中に時光のもとに降臨する褚嬴。ここから時光は次第に囲碁の面白さに目覚めていく。翌年、高校に進学し、仲間たちと囲碁部(囲棋社)「四剣客」を設立。本物の囲碁が打てない褚嬴のため、対戦型のネット囲碁に「褚嬴」の名で登録し、連戦連勝して囲碁ファンを騒然とさせる。腕を磨きたい時光は囲碁教室の夏期合宿に参加。さらに高校を中退して、プロ棋士の育成道場に入学する。
時光が少しずつステップアップするたび、個性的で魅力的な友人が次々に現れる。派手なルックスの何嘉嘉(のちに美容師になる)、ちょっと斜に構えた谷雨。ともにプロ棋士を目指す洪河と沈一朗。ある者は自分の囲碁の実力をわきまえて、囲碁を止めて大学受験に臨む。ある者は高い能力を持ちながら、父親の介護のためプロ棋士をあきらめる。現実味のあるエピソードばかりで胸に応えた。若者たちを見守る囲碁道場の教師たち(板老師と大老師)、時光のお母さんとか白潇潇など、数少ない女性の描き方もよい。憎まれ役の岳智も憎めなかった。
そして時光のそばにはいつも褚嬴がいて、俞亮がいた。俞亮は「神童」の面影を失った時光に失望しながら、諦めずに彼を追いかけてくる時光の存在を気にし続ける。時光が褚嬴に見守られ(視線が母性的なのだ)仲間たちともみくちゃになりながら才能を伸ばしていくのに対して、俞亮は孤独に戦い続ける。唯一の癒しは、師兄の方緒。
プロ棋士となった時光は、ついに俞亮の父・俞暁陽名人と対戦の機会を得る。果敢に戦った時光の実力を認めた俞暁陽は「僕の友人と対局してほしい」という願いを聞き入れ、ネットで褚嬴と対局する。褚嬴の勝利。しかし「神の一手」は見つからなかったという褚嬴に、時光は俞暁陽が勝っていたかもしれない一手を指摘する。勝負を離れた者だからこそ見出すことのできる「一手」に褚嬴は満足する。このドラマでは、少年たちだけでなく褚嬴も成長し変化していく存在である。時光との交流を通して、人生には囲碁以上に大切なものがあることに気づくのだ。
2005年の端午節、再び超新星爆発の到来が予測されていた。褚嬴は最後の一日を自分の誕生日と偽って、時光と思い出の地をめぐり、楽しく遊び暮らす。そして疲れた時光が眠りについたあと、褚嬴は静かに姿を消す。このときの独白が素晴らしくいいのだが、あれを時光に聞かせてあげないのはズルいと思う。これが第32回。
そのあと、時光は碁を打てなくなってしまう。この絶大な喪失感の描写もよい。洪河が、谷雨が、沈一朗が、時光を立ち直らせようとするのだが全く効き目がない。結局、時光は自分で碁盤に向かって、そこに褚嬴がいることを実感し、深い谷底から戻ってくる。その手を引いて走り始めるのが俞亮。最終話は、時光と俞亮のイチャイチャにニヤニヤしながら幸せな気分で終わる。遠い空の上から二人を見守っているであろう褚嬴の存在も感じながら。
このドラマ、知っていた俳優さんは時光役の胡先煦くんと谷雨役の紀李くんだけだが、みんな大好きになった(特に若手男優陣!)。俞亮役の郝富申くんは、三枚目の役もできる子で、ちょっと高橋一生に似ていると思っている。褚嬴役の張超氏は絵に描いたような、いや名画から生まれたような美形なのに、素はボンヤリしたところが可愛い。低音砲と言われる声も好き。ぜひ古装劇に出てほしい。
すごく面白いドラマなので楽しんでください!