〇根津美術館 企画展『きらきらでん(螺鈿)』(2021年1月9日~2月14日)
日本における螺鈿技術の受容と展開の歴史をたどりながら、中国大陸・朝鮮半島・日本・琉球の螺鈿の魅力を紹介する。この数年、根津美術館は絵画や工芸の「技」に注目する展覧会を開催していて、毎回、楽しませてもらっている。
冒頭には螺鈿の材料となる夜光貝、白蝶貝、鮑貝がごろりと並べてあった。日本の螺鈿は、主に夜光貝を使う「厚貝の螺鈿」で、その精巧さは中国にも知られ、北宋の方勺の著書『泊宅編』には「螺鈿器はもと倭国に出ず」という記述があるそうだ。文化庁所管『桜螺鈿鞍』(鎌倉時代)は初めて見た。正面(前輪)の表面にびっしりと満開の桜が螺鈿で表現されている。定型化された図案でなく、写実的な桜で埋め尽くされているのが豪華。
『春日大盆』(鎌倉時代)は、根来の展覧会などでよく見る朱の大盆(直径50cmくらい?)だが、今回は、ふつう見ることのできない裏面が展示されている。そこには十字を背負ったような花が5つ(中心と上下左右)螺鈿で嵌め込まれていた。輝きを失いかけているのは、擦り切れてしまったためではないかと思うが、なぜわざわざ裏面にこのような装飾を入れたのか、よく分からない。日本の螺鈿は夜光貝が主流だが、これは鮑貝を用いた早い例でもあるとのこと。『朱漆螺鈿足付盥』(江戸時代)は、名前のとおり低い三本足のついた盥で、側面に「龍」「光」「院」の三文字を螺鈿で表す。龍光院は高野山の真言宗別格本山とのこと。
中国では絵画的な「薄貝の螺鈿」が南宋~元・明と発達し、輸入品が日本でも愛玩されたが、日本の螺鈿技術に影響は与えなかった。箱や合子、机などが並んでいたが、最も贅を尽くした蓋や盤面よりも、側面や机の脚の文様のほうが、視点の移動に従って、赤(薔薇色)や緑(青に近い)の色変わりがよく分かって美しかった。螺鈿の貝色の基本は赤と緑なのだが、間に仇英筆『十八学士登瀛図巻』が展示されていて、中国絵画の(中国建築の?)基本色と同じであることが面白かった。
琉球は夜光貝の産地で、琉球王国には貝摺奉行が置かれ、中国に進貢する漆芸品が制作された。紅漆塗りが特徴で、展示品も赤色が多かったと記憶するが、ネットで「琉球螺鈿」を検索すると、最近は黒漆塗りが多いようだ。
李朝螺鈿も独特の華やかさと美しさがある。ちょっと驚いたのは朝鮮時代の『螺鈿箱』(個人蔵)で、A4サイズくらいの蓋つきの箱が、びっしり隙間のなく貝片をつなぎ合わせて覆われていた。プラスチックか金属の箱のようだった。このほか江戸の螺鈿と、神坂雪佳、黒田辰秋ら近現代の作品も展示。
展示室5はこの時期恒例となった『百椿図』。展示室6は『点初め-新年の茶会-』で落ち着きの中にも華やかさを感じた。伝・俵屋宗達筆『老子騎牛図』は干支に合わせたのだと思うが、実直な描き方の老子に比べ、垂らし込みが過ぎて、溶け出した巨神兵みたいになっている墨色の牛が不気味だけど可笑しい。