見もの・読みもの日記

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小袖、歳暮の茶も/絵のなかに生きる(根津美術館)

2010-12-12 21:45:03 | 行ったもの(美術館・見仏)
根津美術館 コレクション展『絵のなかに生きる:中・近世の風俗表現』(2010年11月23日~12月23日)

 説話画、物語絵、名所絵、都市図など、さまざまな作品に描かれた風俗に注目するコレクション展。冒頭が南北朝時代の『聖徳太子絵伝』でちょっと驚く。少年から壮年まで、つねにオレンジ色の衣で描かれるのが太子(※調べたら、東宮の服色は黄丹なのだ)。蘇我氏と物部氏の戦いは、足利尊氏みたいな大鎧姿で描かれている。観覧客のおばさんが二人、「この頃から鎌倉武士みたいなの着てたのね」「そうよ、平安時代の末くらいだから」って納得していた。おいおい…。でも、考えてみると、平時の束帯姿は、近世に至ってもあまり変わらないのに、戦う人々の姿はどんどん変わる。変わる風俗と変わらない風俗があるんだな、ということを考えさせられた。

 『曽我物語図』『犬追物図』は江戸初期の屏風。おばさんたちがヒソヒソと「あんなに長くて引き摺るのね」「考えられないわ」と囁きあっていたのは、女性の着物の裾の長さを言っているらしい。そうか、私は日常生活で全く和服を着ないので、何も気づかなかったが、和服を着なれた世代の女性から見ると、違和感のある風俗なんだろうなあ。私は、この時期の男性の平服が好きだ。直垂(ひたたれ)というのだろうか、上下共布(スーツ)形式で、さまざまな色や文様のバリエーションがあって、オシャレだと思う。

 作品としては、大きな『舞楽図』屏風に魅せられた。ああ、久隅守景筆なのか。右隻には太平楽、4人の舞人の表情が生々しい。左隻には納曽利と蘭陵王、仮面をつけた舞人の表情は分からないが、幔幕から歩み出すような楽人を見ていると、息遣いと同時に音楽も聞こえてきそうだ。宗達の洗練された『舞楽図屏風』とは、また違った魅力が感じられる。冷泉為恭の墨画の小品もよかった。こんな即興的な作品も描く人なんだな。

 上の階に上がって、展示室5は「小袖の文様」と題し、桃山~江戸初期(16~17世紀)の古裂を特集。絵画に描かれた風俗の実物が確かめられて、とてもタイムリーな連携企画だと思う。鹿の子絞りや縫い締め絞りに刺繍をプラスした慶長小袖ってほんとにステキだ。Wikiを見たら、桃山小袖に比べて色調が暗いのが特徴とある。なるほど。テレビの時代劇には、こういう故実をもう少し構ってほしいなあ。

 最後は、毎回、茶の湯のしつらえで楽しませてくれる展示室6。冬枯れの「歳暮の茶」にふさわしく、備前、伊賀、信楽など、堂々とした男前の茶道具が並ぶ。いいなー。私は、茶の湯に関しては、どうも根津嘉一郎の趣味にいちばん共感する。赤楽茶碗『銘・冬野』(道入作)は、薄暗がりの中の燠火のようだ。近寄ってみると、ひび割れを固めた細い金色の筋が、冬野の稲妻をあらわしているのかも知れない。

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