見もの・読みもの日記

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金屏風の四季と生きものたち/ライトアップ木島櫻谷(泉屋博古館東京)

2024-04-09 21:09:23 | 行ったもの(美術館・見仏)

泉屋博古館東京 企画展『ライトアップ木島櫻谷-四季連作大屏風と沁みる「生写し」』(2024年3月16日~5月12日)

 大正中期に大阪天王寺の茶臼山に建築された住友家本邸を飾るために描かれた木島櫻谷の「四季連作屏風」を全点公開するともに、リアルな人間的な感情を溶かし込んだ動物画の名品を紹介する。

 先週末は日本画が見たい気分だったので、とりあえずこの展覧会に来てみた。最初の展示室に入ると、ほの暗い空間の三方の壁に、金地彩色の六曲一双屏風が5作品。『雪中梅花』『柳桜図』『燕子花図』『菊花図』。ここまでが1917~18年に制作された「四季連作屏風」(冬-春-夏-秋の配置なのだな)で、さらに1923年制作の『竹林白鶴』が並んでいた。ほかに今尾景年の墨画淡彩の軸がひっそり掛かっていたけれど、実に贅沢な空間。

 木島櫻谷という画家は、最近気になり始めたばかりで、あまり多くの作品を見ていないのだが、『雪中梅花』『柳桜図』は、ここで見た記憶があった。『雪中梅花』は、胡粉(?)の厚塗りで描かれた雪が、細い枝の上になったり下になったり、まとわりつくように積もる様子に生々しさを感じた。『菊花図』は、遠目に見ると卓抜なデザイン感覚が目について、スタンプを押したようにどれも同じ白菊の花に見えるのだが、近づくと、意外と菊の花びらを丁寧に写実的に描いているのが分かる。『燕子花図』は、もちろん光琳の『燕子花図屏風』(今年もたぶん見に行く)を本歌取りにした作品だが、燕子花の配置も、風に揺れるような長い葉先の重なりも、本歌よりずっと自然でのびやかで、大正の時代精神のようなものを感じてしまう。

 第2~第3展示室には、櫻谷が描いた動物画に加え、櫻谷が学んだ円山四条派、岸派など、江戸の動物画も一緒に展示されていた。櫻谷の『狗児図』(個人蔵)と森一鳳の『猫蝙蝠図』は双璧を争う愛らしさ。櫻谷は京都市動物園に通って、めずらしい動物たちの姿を写生することに励んだという。京都市動物園(1903/明治36年開園)が当時の日本画壇に与えた影響って、1冊本が書けるくらい大きいんじゃないかと思っている。櫻谷の『獅子虎図屏風』(1904/明治37年)はその成果の1つ。虎の毛皮のなめらかな感触が想像できて、思わず手を伸ばして触れたくなる。

 ちょっと笑ってしまったのは、淡彩(ほぼ墨画)の『雪中老猪図』。カピバラみたいな茫洋とした顔をしている。そして、これらの作品のもとになった写生帖(展示場面は、ほぼ動物の写生)が展示されているのも嬉しい。ハチワレのビーグル(?)は『狗児図』と同じわんこだろうか? 安心し切って眠る姿が愛らしかった。いま、府中市美術館で開催中の『ほとけの国の美術』では、日本人がとりわけ情感豊かな動物絵画を描いた理由を、涅槃図の伝統から考察しているが、ぜひ、あわせて本展も見てもらえるといいと思う。

 第4展示室は、同時開催企画『住友財団助成による文化財修復成果-文化財よ、永遠に』と題して、同館コレクションの毘沙門天立像(平安時代)と呉春・亀岡規礼筆『松・牡丹孔雀図衝立』を紹介している。保存の取組み、ありがとうございます。


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