見もの・読みもの日記

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奈良にゆかりのひとびと/大和古物拾遺(岡本彰夫)

2010-12-11 23:43:39 | 読んだもの(書籍)
○岡本彰夫『大和古物拾遺』 ぺりかん社 2010.11

 書画、屏風、筆、杖、絵馬、木彫の人形など、古物(骨董)のカラー写真を満載。序に「生来古物が好きで、殊に資料の古物に心惹かれ」「大和に焦点をしぼって細々と収集を続けさせてもらって来た」という。これまで『大和古物散策』『大和古物漫遊』の2作を上梓し、いずれも初版で絶版になったが、古本屋では高騰を続け、定価の十倍の値がついたこともある由。それでは…というのは、のちのち売り払おうと目論んだわけではなく、書店でめぐり会ったこのときが機縁、と思って買ってしまった。著者が何者かは存じ上げず、もしや骨董屋のご主人?と思っていたら、春日大社の権宮司でいらっしゃることが途中で判明した。

 本書は、さまざまな古物を語りながら、結果的には、それらに関わった古今のひとびとについて語っている。筒井順慶、柳澤堯山侯(柳澤吉保の孫)のような歴史上の人物もいれば、著者が実際に交流を持った人々もいる。敢えて名を記さない(たとえば、仕事熱心だが歴史が苦手だった春日大社の神職の先輩某氏とか)エピソードも含まれる。

 感銘を受けたのは、昭和22年1月、GHQの米人が正倉院を訪れ「扉を開けて宝物を見せろ」と迫った時、免職をちらつかされても屈しなかった、当時の奈良県知事、野村万作氏の話。著者は「悪計をたくらんだ日本の某学者が進駐軍をそそのかし、開封を迫った事件」と書いておられるが、この某学者って誰なのか?

 先だって『東大寺大仏』展で認識を新たにした公慶上人について、上人の事を語らせれば、奈良国立博物館の西山厚学芸部長の右に出る者はなく、感極まって落涙する、というのも感銘深いエピソードである。生駒の宝山寺は、この秋訪ねたばかりだが、開祖の湛海律師という「とんでもない傑僧」の話も興味深く読んだ。本書には、湛海律師筆という色鮮やかな雨宝童子の像が図版として掲載されている。

 春日大社大宮(本社)の南門前に「出現石」という石があり、興福寺の伝承によれば、ここに赤童子が出現されたとのこと。赤童子さんは唯識論を学ぶ法相宗学徒の守護神だという。いいな、こんな愛らしくも力強いサポーターがいて。また、明治時代に撤去された春日大社の神宮寺には「おそろし殿」と呼ばれた建物があり、能の金春家の尊崇を受けていたそうだ。奈良の名園・依水園を復興した実業家・関藤次郎(宗無)の事蹟も興味深く読んだ。次回、奈良を訪ねるときは、本書で知ったスポットをぜひ実地見聞してきたいと思う。

 それにしても奈良には、僧侶、神職、教育者、政治家、実業家、職人など、職業の如何にかかわらず、この土地の長い歴史と伝統に敬意と愛着を持ち、何がしかの寄与を志した人々が多いことをあらためて感じた。けれども自分の名前を残すことには関心が薄く、万事控えめなのが、古都の床しさである。

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