見もの・読みもの日記

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諸本の広がり/平家物語-妖しくも美しき―(国立公文書館)

2018-08-08 21:08:48 | 行ったもの(美術館・見仏)
国立公文書館 平成30年度第2回企画展『平家物語-妖しくも美しき―』(2018年7月21日~9月1日)

 国立公文書館の展示が好きでよく見に行くが、所蔵資料の特性から言って、やはり近世と近代が中心で、ほかの時代を扱うのは難しいだろうと思っていた。それが、今回のテーマは『平家物語』だという。平清盛(1118-1181)生誕900年を迎える記念の夏とは言え、なんという曲せ球を投げ込んでくるのか、と思った。しかも、教科書どおりの「諸行無常の武士たちのドラマ」だけでなく「その背後に暗躍する怨霊・天狗・魑魅魍魎!」にフォーカスしてくれているのが嬉しい。展示資料はほとんどが撮影可で、SNSなど積極的に拡散することが喜ばれている。

冒頭には『大臣影』(文久3年写)から平清盛の肖像。



『平家物語』のあらすじは、主に江戸時代の挿絵入り版本によって紹介されている。刊年不明、全12冊の「元老院旧蔵」本だそうだ(なぜ元老院!?)。写真は、物語の冒頭、熊野参詣に出かけた清盛の船に鱸(すずき)が飛び込んできたところ。平家の栄華はここから始まった。大河ドラマ『平清盛』の鱸丸=平盛国の設定を思い出して、しみじみ胸が熱くなった。しかし絵を見ると、飛び込んできた鱸は、すぐ料理されてしまったんだな。



橋の上の禿(かむろ)たち。うわああ、これもドラマの名場面がよみがえる。禍々しい赤い衣の童子たち、まさに「妖しくも美しき」存在だった。



内務省旧蔵『刀劔図』から、平家一門の重宝である小烏丸(こがらすまる)太刀の図。古風な鋒両刃造である。小烏丸は、現在は皇室御物となっている。どこかで見たような気がして、自分のブログを調べたら、2015年に根津美術館『江戸のダンディズム-刀から印籠まで-』展で、小烏丸を明治時代に写した刀を見たのだった。



『平家物語』には多様な諸本があり、別の題名を持つ『源平盛衰記』や『源平闘諍録』も異本のひとつと見なされることは、かつて大学の講義で習った。私は標準的な『平家物語』しか読んでいないのだが、異本には異本だけの、いろいろ面白い伝承が紛れ込んでいることをこの展示で知った。

壇ノ浦で平家が滅んだあと、源義経は海女の母娘(老松・若松)を潜らせて宝剣を探させた。すると海底には豪華な宮殿(!)があり、平家一門が暮らしていた。剣は安徳天皇と共に大蛇に抱かれていた、というエピソードは『源平盛衰記』にある。また、写真は義経を主人公とした『十二段草紙(浄瑠璃物語)』で、御曹司(義経)と浄瑠璃御前を二人の天狗と「妖しき」ものたちが助けに来たところ。扇は白鳩(屋根の上)に、源氏の重宝・友切丸(髭切)は龍に変化している。この場面!岩佐又兵衛の『浄瑠璃物語絵巻』と基本は同じだ!と感激した。



そのほかにも、文学史で習う平家物語の諸本の書写が出ていて、おお、覚一本!延慶本!中院本!と、いちいち感激していた。「葉子七行本」と通称される、国立公文書館のみが所蔵するという珍しい本も展示されていた。古活字本が複数あって、見比べるのも面白かった。

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