〇根津美術館 財団創立85周年記念特別展『国宝・燕子花図と藤花図、夏秋渓流図:光琳・応挙・其一をめぐる3章』(2025年4月12 日~5月11日)
毎年、この時期に公開される光琳の国宝『燕子花図屏風』に加えて、今年は応挙『藤花図屏風』、其一『夏秋渓流図屏風』が贅沢に揃い踏みなのは、タイトルに控えめに添えられた「財団創立85周年記念」の祝意も含んでいるのだろうか。見どころの3屏風だけでなく、取り合わせの作品も魅力的な内容だった。
はじめに「藤花屏風の章」では、同時代の画家の作品と比較することで、応挙の「写生」の革新性を称揚する。しかし比較対象にされていた呉春の『南天双鳩図』も私は気に入った。南天の枝には白い花が咲いている。応挙の『藤花図屏風』は、細かく色を塗り重ねた藤の花房と、太い筆で一筆書きしたような枝の対比が見どころだと思う。この枝ぶりは、あらかじめ構図を決めて描いたのか、即興なのか、どっちだろう。
「燕子花屏風の章」では、光琳の構図の面白さに注目。昔から大好きな『白楽天図屏風』と最近覚えた『浮舟図屏風』が並んでいて嬉しい。『浮舟図屏風』は、画面を斜めに横切る金色の小舟(にしては存在感がありすぎる)、左上には、少し欠けた月が、当初は銀色に輝いていたのだろう。この大胆な作品、どんな座敷を飾ったのか。やっぱり色里が似合いそうな気がするのは偏見だろうか。
「夏秋渓流図の章」には、いろいろ面白いスタイルの花鳥画、山水画が出ていた。伝・木村永光『牧牛図』という、知らない画家の作品があると思ったら、狩野山楽の父親とのこと。海北友松『鶴・鷺・呂洞賓図』は、岩の上で足を踏ん張る鷺の正面図が可愛かった。狩野山雪『梟鶏図』は、いじわるそうなニワトリと、きょとんとした丸い目のフクロウ。この2幅は、それぞれ単独でも楽しめるが、並ぶと面白さが増す。曽我宗庵『鷲鷹図屏風』は、鷹の羽根を墨の濃淡で丹念に描いているところなど、ちょっと洋風画を思わせた。
展示室3は「中国の小金銅仏」を特集。どれも鍍金の金色が美しかった。特に北魏時代の三尊像光背・台座は、後補の主尊を外して展示されており、精巧な細工を堪能した。
展示室5は「女面の魅力-能『杜若』に寄せて-』と題して、能面の特集。「可憐」「慈愛」「憤怒」「妖艶」などのキーワード(英語付き)付きで各種の女面を並べた構成は、外国の方にも分かりやすかったのではないかと思う。「憤怒」の分類では、完全に異類と化した「般若」や「真蛇」の面より、人間らしさを保った「橋姫」「生成」のほうが怖いと感じた。あと「近江女」の面は美しかったなあ。上まぶたが山形の弧を描いていて、ほかの能面より目が大きく感じられ、意志を持った女性に向き合っているような感じがした。しかし『道成寺』など、激しく恋する女性の役に使われるという説明を読むと、これも怖い。
展示室6は「若葉どきの茶」で、全体にシンプルな茶道具が多かった。作り付けの茶室の床の間に、書画の軸でなく竹花入(銘・藤浪、小堀遠州作)(花は無し)が掛けられていたのが珍しかった。
雨あがりの庭園は新緑一色。お客さんは多かったが、道が入り組んでいるので、あまり人の姿を見ないですむのがありがたい。カキツバタも見頃で、美しかった。