〇東京国立博物館 特別展『蔦屋重三郎 コンテンツビジネスの風雲児』(2025年4月22日~6月15日)
2025年の大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(NHK)との連携展。江戸時代の傑出した出版業者である蔦重こと蔦屋重三郎(1750-1797)の活動をつぶさにみつめながら、天明、寛政(1781-1801)期を中心に江戸の多彩な文化を紹介する。私はこの大河ドラマ連携展が好きで、ドラマ自体が気に入らないときでも、展覧会だけは見に行ってしまう。今年はドラマそのものが面白いので、展覧会もたっぷり楽しめた。
会場へは、ドラマの撮影で使われた吉原の大門を潜って入る。すると(夜の吉原のように)薄暗い第1展示室の中央には、毎年、開花時期にあわせて人工的にしつらえられたという桜の植え込み。2024年の藝大『大吉原展』の会場のつくりとよく似ていた。展示は、大河ドラマのストーリーをなぞるように進む。まず蔦重が生まれ育った吉原と遊女たちを描いた華やかな絵画作品、歌川豊春『四季遊里風俗図』4幅は、細長い画面の使い方が斬新。品川・深川・吉原が「三遊里」と目されていたのだな。同じく豊春『新吉原春景図屏風』は、遊女たちよりも、粋人を気取った男たちの着こなしに目が行ってしまう。
ついで平賀源内との出会い。『再見嗚呼御江戸』に『物類品隲』にエレキテル!(郵政博物館所蔵)。ホンモノのエレキテルが見たくて(~5/18展示)早々に出かけたのである。さらに各種の吉原再見、『一目千本』『雛形若菜』、富本正本・往来物と続くので、わ~ドラマのとおりだ~とテンションが上がった。そして蔦重は、朋誠堂喜三二、太田南畝、山東京伝らと交流し、自ら狂歌を詠んだり、戯作の筆を執ったりする。短い人生の晩年には、曲亭馬琴や十返舎一九も起用している。という感じで、前半は「書籍」の出版に重点を置く。展示物は小型の版本が多く、1点ずつ紙製(アーカイバルボード)の展示台に載せられているのが、あまり博物館では見ない風景で面白かった。
後半はお楽しみの浮世絵。私は、これまであまり浮世絵(美人画)に関心を持ってこなかったので、完全に初心者モードで驚き、楽しんだ。なるほど歌麿の美人大首絵、確かにいいわ。そして写楽の独創性。最後に日本橋の耕書堂の店先や日本橋の風景を楽しめるのもよい付録だった。図録にも、たぶんドラマで撮影された天明寛政期の江戸の街風景の写真が収録されており、日本橋風景の端に唐がらし売りのおじさんが見切れてる(わざと?)のが嬉しかった。
会場内では、中学生か高校生の男子が「これ、蔦重がつくった本だよ!」とうれしそうにお母さんに説明していたり、おばさまグループが「源内先生が」とふつうに平賀源内を先生呼びしていて、大河ドラマの影響力をしみじみ感じてしまった。私は、むかしむかしの学生時代に文学史で蔦重の名前を覚え、2010年にサントリー美術館で開催された展覧会『歌麿・写楽の仕掛け人 その名は蔦屋重三郎』も見たはずだが、あまり私の関心にマッチしなかったので、このブログに感想も残していない。それが、やはりドラマが頭の隅にあると、絵師も作家も本屋(版元)の主人たちも、生身の存在に感じられて、親しみが湧く。ありがたいことだと思う。
展覧会会場に設置された日本橋・耕書堂のセット。
ドラマで使われたエレキテル。木箱の中に大きなガラス瓶が入っているのね。
展覧会を見た帰り、思い出して寄ってみたのは、我が家から徒歩圏にある「平賀源内電気実験の地」の碑(江東区清澄1-2-1)。隅田川の河岸にかなり近い。源内先生、この頃は深川清澄町にお住まいだったのね。富岡八幡宮のあたりも、時には散歩していらしただろうか。