〇『非常目撃』全12集(愛奇藝、2020)
昨年、サスペンスドラマの佳作を次々に生み出した「迷霧劇場」枠の作品である。日本で放映が決まった『隠秘的角落』や『沈黙的真相』ほど評価は高くないが、これも良作という感想を読んで視聴してみた。
舞台は長江流域の巫江県(重慶市がモデル)。山林で女性の遺体が発見された。女性の名は秦菲。劇団員・李鋭の妻である。市警察から派遣された山峰刑事(宋洋)は、現地の江流刑事(袁文康)らとともに捜査を開始する。山峰をはじめ、多くの人々は、20年前の未解決事件との類似性に気づいていた。
1998年、小白鴿(白い小バトちゃん)の愛称で呼ばれていた18歳の少女・白歌が、同じように雨の夜、何者かに殺害され、山林で遺体となって発見された。その直前、白歌は野外映画の上映会に出かけたが、仲のよい男友達が来ないことが分かり、ひとりで帰ったのである。少年時代の山峰はその場に居合わせ、憧れの白歌の後を着いていったが、途中で見失っていた。
今なお小白鴿事件にこだわる人々は他にもいた。白歌の父親である白衛軍老人は、ひとりで犯人を捜し続けていた。アルツハイマーを発症して記憶も不確かな老刑事・葉永年も、長年の考察をノートに書き留めていた。葉永年の娘・葉小禾と恋人の周宇も白歌と同世代だった。葉小禾は、白歌と秦菲が、どちらも李鋭を好きだったことを覚えている。あの日、秦菲は白歌に「李鋭は来ない」と告げ、先に帰った白歌は何者かに殺害された。10年後、秦菲は李鋭と結婚したが、罪の意識に苛まれ、二人の結婚生活はうまくいかなかった。全てを清算するため、李鋭は妻の秦菲を殺害したのである。
では小白鴿は? 葉小禾の恋人・周宇は、自分が殺したと告白する。周宇を溺愛する兄の周勝は、口封じのため、葉小禾を殺そうとヤクザ者たちを送り込み、乱闘の中で周宇は落命する。怒りに震える周勝は、彼らにつきまとっていた白衛軍老人に真相を告げ、爆殺する。あの晩、周勝と周宇は、ぐったりした白歌を乗せた竹筏が川岸に流れついているのを見た。気の優しい周宇は彼女を助けようとしたが、周勝は、川岸に建設中の観光ホテルにケチがつくことを恐れ、息を吹き返しかけた白歌を絞殺し、遺体を山林に棄てたのだ。
周勝が小白鴿事件にかかわったと知った殺し屋の石磊は、なぜか執拗に周勝を狙い始める。一方、山峰、江流らの捜査チームも、あの晩、白歌を竹筏に乗せた何者かがいることを突き止め、さらに当時、竹筏に遺体が放置される事件が他にも(男性2人、女性1人)あったことを発見する。そのひとつ、呉翠蘭事件の遺族を訪ねた山峰らは、呉翠蘭の息子である石磊が、今も母親殺しの犯人を追っていることを知る。
呉翠蘭は、殺害される前に張漢東という運転手と会っていたことが分かっていた。山峰らは張漢東を探し当てるが、彼は事件前に免許証を盗まれたと主張する。犯人は運転手仲間か? そこへ新たな殺人が発生する。山峰が通っていた麺料理屋の店主・謝希偉の養女の遺体が、竹筏に乗せられて発見された。山峰は、謝希偉を慰めようとして、その反応に不可解なものを感じ取る。その後、養女の謝甜甜を殺害したのは、夫の趙傑だと判明するが、謝希偉は娘婿の趙傑を監禁し、半殺しの状態にしていた。かつて張漢東の免許証を盗んだのも謝希偉であることが判明する。
【本格的ネタバレ】謝希偉は十代の頃に養子に出された。難病に苦しむ末の弟の手術代を工面するためだった。しかし養家が合わずに逃げ出し、ただ1枚の写真、両親、兄、姉、妹、弟、そして自分という家族の記憶だけを支えに孤独に生きてきた。そして、ある時から、写真の中の家族になぞらえて、人を殺し、竹筏に乗せて、長江下流の故郷・巴都に送り出すという儀式を始めた。家族の揃う「全家福」を夢見て。すでに5人を流し終えて、あとは弟1人である。
捜査チームが邪魔になった謝希偉は、山峰の老母や江流の妻子に近づく。山峰は、謝希偉の実の両親を探し出し、お前の家族はここにいると言って説得に当たるが、聞き入れない。いったん姿を消した謝希偉は、両親たちが暮らす巴都に現れる。折しも祭りの夜。遊園地で、乳母車に寝かされた、実の妹の子供をうっとり眺める謝希偉に向けて銃の引き金を引いたのは石磊だった。
序盤で、秦菲事件の犯人が判明し、周宇が小白鴿殺害を告白したときは、え?これからどうするんだ?と慌てたが、後半の意外な展開はとても面白かった。謝希偉を演じた焦剛は『摩天大楼』でも極悪な父親・顔永原を演じているが、本作はさらに強烈な役柄である。上記のあらすじでは唐突に感じられるだろうが、実際は序盤から画面に登場している。はじめは流行らない麺屋のぼんやりした店主という感じなのだが、中盤からじわじわと狂気が増し、大写しの笑顔が怖くなっていく。
本作の評価が高くない理由として、リアリティに欠けるという批評を読んだ。確かにミステリーやサスペンスにリアリティを求める視聴者には、失った家族を取り戻すため、人を殺して竹筏で流すなどという動機は受け入れにくいだろう。しかし私は、こういう「つくりごと」の物語が嫌いじゃない。ちょっと横溝正史に通じる感じがした。
こんな殺伐とした物語だが、画面は美しくて旅情豊かである。急斜面に張り付くように細い小路に面して建つ家、入り組んだ坂と階段、そして悠々と流れる長江。あらすじでは省略したが、山峰も葉小禾も、最終的に20年前の遺恨や葛藤を解消することができてよかった。