見もの・読みもの日記

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2017年10月@関西:長沢芦雪展(愛知県美術館)

2017-10-14 23:14:29 | 行ったもの(美術館・見仏)
愛知県美術館 開館25周年記念『長沢芦雪展:京(みやこ)のエンターテイナー』(2017年10月6日~11月19日)

 三連休3日目の月曜日は名古屋に移動。「愛知県美術館」って覚えがないなあと思ったら、私は2005年に『自然をめぐる千年の旅』を見に来て以来の再訪のようだ。愛知芸術文化センターという大きなビルの中にあって、1階や2階からアプローチしようとしたら美術館の案内が何もなくて、まごまごしてしまった(地下から入ると分かりやすい)。美術館のある10階に上がると、開館前からすでに行列ができていた。

 少し並んで会場に入る。第1室に人が溜まっていたので、とりあえず先の様子を見てくることに決める。いくつかの部屋を通り越すと、無量寺の方丈を再現した展示室に行き当たる。これは素晴らしい! 無量寺の展示収蔵施設(応挙芦雪館)でも、本来の配置を意識した展示になっていたと記憶するけれど、今回は、写真で仏間とご本尊を再現、畳や柱などのしつらえも現地を意識し、観客の目線の高さが、畳に座った場合の目線と同じになるよう、配慮されているという。

 美術館の巡路に従うと、上間二之間(室中の左側)からアプローチすることになり、『薔薇に鶏・猫図襖』がまず目に入る。三匹の猫がかわいい。蘆雪といえば、まず犬が思い浮かぶが、蘆雪の猫もいいと思う。本展には『童子・雀・猫図』3幅対という作品も出ていて、猫らしい顔の猫だった。

 無量寺の襖絵は何度も見ているので、さあこの裏側が虎図だ!と思ってわくわくする。室中の入口に立つと、奥から手前に向かって、びよ~んと飛び出すような虎と龍。やっぱり両作品は、この方向感覚(向かい合わせ)で見るのが正しいと思う。正面から見ると少し胴長に感じられる虎も、この位置だと俊敏そうに見える、という指摘になるほどと思った。あと、裏側で池の魚を狙っている猫が、実はこの虎だというのも納得できた。この虎は、どこをズームアップしてもかわいいのだが、展覧会の図録に尻尾(くるっと輪を描いたところ)のアップ写真があって、撫ぜて愛玩している。

 龍図は、もしかすると仏間の側から眺めるほうが、キッと振り向いたスピード感が増すかもしれない(と、いま思っている)。その裏側は下間二之間で『唐子遊図』。これはいたずらし放題の子供と子犬の一団が、左端で、なぜか透明になって虚空に消えていくので胸が詰まる。

 このあと、もう一度、冒頭から。冒頭には剃髪して黒い道服を着た『長沢芦雪像』。髭の剃りあとが濃い。初期の作品としては、華やかな彩色画多し。『東山名所図屏風』は知らない作品だった。田辺市・高山寺の『朝顔に蛙図襖』は、襖4枚を横切る朝顔のツルの儚さと強さが見事。蘆雪は一時期、黒っぽく染めた紙に油彩画ふうの粘りをもった絵具で描いた作品を試みているそうだ。『降雪狗児図』(阪急文化財団逸翁美術館)は、表情も愛らしい白犬と背中を向けた白黒ぶち犬が、西洋の素朴絵のようにも見える。松濤美術館の『いぬ・犬・イヌ』展で見て、ひそかにお気に入りになったもの。類似の作品『母子犬図』はすみだ北斎美術館所蔵というから、また東京で見る機会があるといいな。

 また、月を描いた作品をまとめたコーナーがあって、感銘を受けた。夜空の色が美しい『朧月図』、幻想的な『月夜山水図』、波間にゆらめく月影を描いた『月下水辺藪』など。自然現象つながりで『雨中釣燈籠図』は、燈籠から漏れる光さえも雨ににじんでいる。蘆雪は、サービス精神旺盛で、人を楽しませ、驚かせる「奇想」の絵をたくさん描いているが、こういう自然現象に向き合った作品では、静謐な美が感じられる。

 蘆雪の代表作は漏れなく抑えてあって、充実した展覧会だった。でも個人的には『方広寺大仏殿炎上図』がなかったのが残念。あと、もう少し墨画の鳥の絵が欲しかった。蘆雪の描く鳥(スズメ、カラスなど)は、なんとなく意地の悪そうな顔つきをしていて好きなのである。あと『四睡図』も見たかった…とか、希望を言い始めると切りがないのでやめることにする。私は「長澤蘆雪」という表記が好きなのだが、本展のように「長沢芦雪」と書くと、急に現代的なセンスが強調されるようで面白い。
コメント
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