見もの・読みもの日記

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命を生み出す工芸/驚異の超絶技巧!(三井記念美術館)

2017-10-30 22:41:08 | 行ったもの(美術館・見仏)
三井記念美術館 特別展『驚異の超絶技巧!:明治工芸から現代アートへ』(2017年9月16日~12月3日)

 早い時期から「明治の工芸推し」を表明していた山下裕二先生の監修。同館は、2014年にも特別展『超絶技巧!明治工芸の粋』を開催しているが、本展は、明治工芸と現代作家のコラボレーションを実現した点が新しい。

 明治工芸のジャンルとして取り上げられているのは、七宝、金工、漆工、木彫・牙彫、自在、陶磁、刺繍絵画など。七宝は二人のナミカワ、並河靖之と涛川惣助の作品がたくさん来ていた。私は並河靖之の作品を知って、明治の七宝って素敵!と認識した過去を持つのだが、あらためて見ると涛川惣助の「無線七宝」の超絶技巧に舌を巻く。ぼんやり溶け合うような幻想的な色彩、これが七宝って信じられない。

 金工は正阿弥勝義の『古瓦鳩香炉』とか、漆工は柴田是真の『古墨形印籠』とか、デザインの美しさとは別に、何かに「似せる」ことに徹した超絶技巧は、それだけで魅力的である。極めつけが安藤緑山の木彫。キュウリ、トマト、茄子、パイナップルとバナナ、葡萄。どう見ても、切れば汁の滴る植物である。みずみずしい、しかし明日には萎れる植物にしか見えない。緑山の木彫は、緑山の個性を強く感じるのが、自在は、あまりにも対象に没入しすぎて、作者性をあまり感じない気がする。ほとんどロボットに近い。高瀬好山の『飛鶴吊香炉』は、翼をひろげた銀色の鶴が美しくて、欲しいと思った。

 美的には、旭玉山の木彫がどれも気に入った。白木の文箱や硯箱の蓋や中蓋に写実的な花鳥を浮き彫りにして、その部分にだけ彩色を施す。品があって愛らしい。これ、多少クオリティを落としても復刻してくれたら買うわ~と思った。気になって「旭玉山」の名前で自分のブログを検索したら、象牙製の小さな人体骨格(芸大所蔵)をつくった人だと分かった。面白いなあ。

 会場では、明治工芸と現代アートが入り混じって置かれており、解説プレートを見ると、区別できるようになっている。全く明治工芸にはない手法やコンセプトなので、一目見て現代アートと分かるものもあれば、すぐに判別できないものもある。前原冬樹の木彫『一刻:皿に秋刀魚』は呆れたというか、笑ったというか。こういうセンスは少し明治人っぽいと思った。1980年代生まれの若い芸術家が「自在」(金工だけでなく、黄楊など違った素材でも)をつくっているのも面白かった。

 とても気に入ったのは、佐野藍の『Python(パイソン)xxx』と『ピンクドラゴン』。どちらも白い代理石の表面に浮かぶ微かな模様を活かして、うずくまる爬虫類を彫り出している。中国の玉や石の工芸で使われる技法だ。本郷真也の『流刻』は金工で、雌雄の巨大なオオサンショウウオを表す。無生物と生物の境界があやふやに見えてくることが、この展覧会の魅力のひとつだと思う。
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