見もの・読みもの日記

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照明に賛否両論/運慶(東京国立博物館)

2017-10-17 23:45:37 | 行ったもの(美術館・見仏)
東京国立博物館 興福寺中金堂再建記念特別展『運慶』(2017年9月26日~11月26日)

 日本で最も著名な仏師・運慶の作品を興福寺をはじめ各地から集め、さらに運慶の父・康慶、実子・湛慶、康弁ら親子3代の作品を揃えて次代の継承までをたどる。この秋、間違いなく東京で最も注目の展覧会である。ところが、SNSに流れてくる評判があまりよくない。いちばん気になったのは「照明が過剰」という批判。いや「効果的」という人もいるので、賛否両論というのが正しいのだろうが、少し警戒しながら見に行った。

 冒頭は運慶のデビュー作として知られる円成寺の大日如来坐像。金箔が剥げて現れた地肌の色(漆の色か)と、小豆色の背景がよく合っている。わずかに残る金箔がいつになくキラキラするので、照明が強いんだなと思うが、そんなに気にならない。バランスのとれた造形美に圧倒される。滅多に見られない背中のなめらかな丸みが素敵。運慶が学んだ奈良仏師の作風を伝える仏像として、長岳寺の阿弥陀如来と両脇侍坐像、それから東博所蔵の毘沙門天立像(中川寺十輪院伝来)。この毘沙門天は、どこにも注釈がなかったけど川端龍子氏旧蔵の品だと思う。また、父・康慶の作品として、興福寺の法相六祖像と四天王立像が来ていたのは嬉しかった。法相六祖像が全部並んだところって、数えるほどしか見たことないと思う。四天王像は、現在、仮金堂に安置されているもの。今年の春、奈良博の『快慶』展のあとに見て、とてもいいなあと思ったものだ。

 しばらく運慶の作品が続く。神奈川・常楽寺の毘沙門天立像(阿弥陀三尊は10/21-11/26展示)、六波羅蜜寺の地蔵菩薩坐像、栃木・光得寺の大日如来坐像(厨子入り)など、みんな好きだ。瀧山寺の聖観音菩薩立像は、ホコリをきれいに拭ってもらったようで、よかったね、と思って眺める。

 さて運慶屈指の名作、金剛峯寺の八大童子立像から6躯(阿耨達童子と指徳童子を除く)。うーん…これちょっと好きになれない。6躯はそれぞれ単独の単独の縦長の展示ケースに入れられて、広いスペースに散らばっている。個別に照明効果を考えているのかもしれないが、ケースの角度がまちまちで統一感がない。この方式のほうが、1躯1躯に至近距離まで近づけるし、混雑時に客が固まらない利点があることは分かる。しかし、やっぱり八大童子は集合体で見たい。2014年、サントリー美術館の『高野山の名宝』のような展示方式が好き。あと、ここは完全に照明が強すぎて、角度によっては眩しくて鑑賞の邪魔だった。

 しかし、興福寺の無著・世親菩薩立像と四天王立像のエリアはよかった。無著・世親に対する照明が明るすぎる、という批判を目にして不安を感じていたのだが、特に無著菩薩立像は、影がなくて、穏やかで柔和な表情がよく分かってよかった。実は、2004年に芸大美術館で開かれた『興福寺国宝展』では、無著・世親像に陰影をくっきり際立たせる照明が当たっていて、あまり好きになれなかった記憶があるのだ。周囲を取り囲む四天王は、ふだん南円堂にあるもの。現在、仮金堂にある四天王像(康慶作)は、かつて南円堂にあったと考えられ、いま南円堂にある四天王像は、かつて北円堂にあったとする説が注目を集めている。そして、この四天王像(特に持国天、多聞天)は、運慶作の可能性があるのだそうだ。確かに、荒ぶるカッコよさは興福寺でも随一。個人的には、ちょっと快慶の四天王を思い出す。

 後半は運慶の息子・湛慶と周辺の仏師たちへ。東大寺の重源上人坐像にまたお会いしてしまった。いつもお勤めご苦労様です。神奈川・満願寺の観音菩薩立像・地蔵菩薩立像は、充実したボディが魅力的。高知・雪蹊寺の毘沙門天立像と(ひとまわり小さい)吉祥天立像・善膩師童子立像(湛慶作)に会えるとは、予想もしていなかったので、かなり嬉しかった。妙法院(三十三間堂)の本像・千手観音坐像(湛慶作)はさすがに来ていなかったけど、その光背に装着されている迦楼羅・夜叉・執金剛神が出ていて興味深かった。三十三身がぜんぶ付いているのか。次回はよく見ておこう。

 京都・高山寺の小さな女神・善妙神立像も来てるな、と思ったら、二匹の神鹿と子犬も来ていて、笑ってしまった。うれしい~。今年の5月に高山寺に会いに行ったわんこである。運慶展でまた会えるとは思っていなかったよ~。また別室には、康弁作の天燈鬼と龍燈鬼。この子たちも何度も見ているけど、後ろにまわってふんどしのゆるみ具合を確かめられる機会はなかなかない。このエリアも照明が強すぎて、龍燈鬼の玉眼が金の膜をひいたようになっていたのは可哀想だった。

 最後は京都・浄瑠璃寺伝来の十二神将立像。現在、東博に5躯、静嘉堂文庫に7躯が分かれ分かれになっているものを一挙展示。いや、それだったら同じ空間に並べようよ、と思うのだが、ここも1躯ずつ単独の展示ケースに入れての展示である。そして照明が強いので、せっかくの魅力が失われているように感じた。

 全体としては、よいところもあり、気に入らないところもあった。文書や木札など、運慶関連資料をまとめて見られる利便性は特筆しておきたい。図録はかなり好みが分かれそうである。よくも悪くも仏像の人間的な表情をつかまえており、まるでアイドルのように撮っている。ポスター・チラシデザインが松下計デザイン室(東京芸大附属図書館長の松下先生!)であることも記録しておこう。
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