見もの・読みもの日記

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多才で多彩/鈴木其一(サントリー美術館)

2016-10-01 22:43:36 | 行ったもの(美術館・見仏)
サントリー美術館 『鈴木其一 江戸琳派の美学』(2016年9月10日~10月30日)

 鈴木其一(すずききいつ、1796-1858)は、江戸琳派の祖・酒井抱一の一番弟子。本展は、其一派や江戸琳派の関連作品を含めると、200件近い作品が揃う大回顧展である。ただし、姫路市立美術館、細見美術館にも巡回する上、サントリー美術館でも5期の展示替えがある。ま、最大の見ものである、メトロポリタン美術館所蔵『朝顔図屏風』は全期展示なので、ひとまず安心し、あとは運試しと思って出かけてみた。

 鈴木其一というと、私は月次の花鳥図とか花木図のイメージが強いが、墨画や美人画や歴史がなど、いろいろな作品を手掛けていることを改めて知った。大作では、光琳に学んだと見られる『群鶴図屏風』(ファインバーグコレクション)。金地屏風に青い水流。黒と白と灰色のかたまりである真鶴の群れ。このパロディみたいな『水辺家鴨図屏風』(細見美術館)もかわいい。

 描き表装の作品がまとめて展示してあったのも面白かった。華やかな『三十六歌仙図』(出光)など。仏画であり、描き表装でもある『虚空蔵菩薩像』(ファインバーグ)も素晴らしかった。紺青の下地に五色(?)の雲と蓮の花びらが規則正しく舞っていて、チベット仏画の雰囲気がある。図録を見てると、後期展示の仏画もいいなあ。特に描き表装の『白衣観音像』。

 階段を下りて、後半の展示に向かうところ。階段上の天井に大きな凧がディスプレイされている。鬼女の図と達磨の図と二種類。実はこれ、其一直筆の凧(複製)なのだそうだ。本物は階段下の展示ケースに飾られている。状態は驚くほどよい。前期は桜と紅葉を背景に大きく鬼女の面を描いた『紅葉狩図凧』。このコーナーには絵馬や羽子板(裏も表も超かわいい)もあって、琳派の芸術が、当時の生活に密着していたことをしのばせる。「節句掛」というのは、一度使ったら破棄すべき絵画だったのかー(図録の解説による)。

 季節の花木図はいちばん其一らしさを感じる。そして「江戸の美意識」の中心みたいな安心感がある。たまたま、見る機会の少ない『向日葵図』(畠山美術館)に巡り会えて、思わず声が出てしまった。この厳格な正面性、神仏図のような敬虔な感じがする。水色の長い花房が垂れた『藤花図』(細見美術館)もよかったが、色違いみたいに紫色の花房を描いた作品(個人蔵)もあるのだな。並べて見たい。『花菖蒲に蛾図』(ファインバーグ)の精巧な菖蒲(あやめ)の文様もよかった。ファインバーグさん、いい作品を持っているなあ。2013年の『ファインバーグ・コレクション展』を見たときは、特に其一が好きという印象は受けなかったんだけど。そして、図録を見ていると、後期や他館で出る作品にも、非常に面白そうな作品が多い。しかも個人蔵が多いので、この展覧会を逃すともう見られないかもしれないので困った。

 さて、お宝『朝顔図屏風』は最後に登場。もちろん、文句なく美しい。しかし、思っていたよりも大輪である。園芸種の朝顔の実物大くらい。私は、この花つき具合と色から見て、野生種に近い小型の朝顔を想像していたので、ちょっと戸惑った。しかも、これまで平面(図録写真)でしか見たことがなかったのだが、三次元の屏風として立てると、よりダイナミックで力強い印象になるのが面白かった。

 なお、途中の年表を見ていて、鈴木其一が安政5年(1858)流行のコレラに罹患して没したことを初めて知って驚いた。Wikiでは「死因は当時流行したコレラともいわれる」という微妙な書き方になっている。
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