○琅琊榜(ろうやぼう)全54集(2015年、山東影視伝媒集団)
2015年、中国で放映されると大反響を呼び、中国版エミー賞「国劇盛典」で10冠を獲得するなど、噂は早い時期から聞いていた。日本ではCS「チャンネル銀河」が2016年4月に初放映し、2016年10月現在も深夜に再放送が進行中である。また「BSジャパン」でも平日の午前中に放映中なので、SNSにさまざまな感想が流れてくる。しかし、私はBSもCSも見られる環境ではないので、YouTubeで中文字幕版を探し当てて、視聴することにした。
物語の舞台は中国の南北朝時代をモデルとした架空の国「梁」である、という情報は視聴前から聞いていた。中国の古装劇(時代劇)としては珍しい設定だと思ったが、私が詳しく知らないだけかもしれない。しかし、時々あるトンデモ古装劇に比べると、衣装もセットも登場人物の所作も、むしろリアルな「古色」が感じられて、物語世界にすぐに馴染んだ。
梁国には、かつて大きな動乱があった。林燮(りんしょう)将軍の率いる精鋭七万人の赤焔軍が、突如、謀反の罪を疑われ、皇帝の軍に殲滅された。皇帝の長男・祁王は、首謀者と目されて自害を命じられ、祁王の母親・宸妃も自ら命を断った。それから12年。皇帝は老い、宮廷では皇太子と異母兄弟の誉王が後継者争いをしていた。誉王は「麒麟の才子を得た者、天下を得る」という予言に従い、「麒麟の才子」と呼ばれる梅長蘇(またの名を蘇哲、江湖の勢力・江左盟の宗主)を梁の都・金陵に招き入れる。
梅長蘇の正体は、林燮の息子・林殊だった。彼は誉王を補佐すると見せかけて、信頼できる靖王を擁立し、赤焔軍と祁王府の人々の名誉回復のために知力をしぼる。しかし、彼の身体は毒に犯されており、残された時間は少なかった――。
というような設定なのだが、皇子たちの皇位継承争い、官場の政治闘争、後宮の女性たちの暗闘、さらに滅びた異民族「滑族」の再興の願いとか、いろいろなステークホルダーが複雑に絡み、憎むべき敵であっても婚姻や血縁や師弟関係で結ばれていたり、善悪の描き方が陰影に富み、ずっと飽きさせない。ストーリーの流れも、緊迫した頭脳戦とダイナミックな肉弾戦(剣戟)が交互に配置されている。弁舌で戦うシーンは、かなり早口で、私の中国語能力だと字幕がぜんぶ読み切れなくて苦労した。実は今、もう一回見直しているのだが、あらためて気づくことがいろいろある。
主人公の梅長蘇役は胡歌(フーゴー)。『射雕英雄伝』2008年版を見た直後だったのだが、こっちのほうが数倍、いや数十倍よいと思った。男前のヒロイン・霓凰郡主は劉濤(リュウタオ)。どこかで見たと思ったら、胡軍版『天龍八部』の阿朱を演じた女優さんではないか! え~変わらないなあ。飛流を演じた呉磊(ウーレイ)くん可愛い。まあ個人的に一番好きなのは、禁軍大統領の蒙摯(蒙大統領)ですね。中国語で「史上最萌大將軍」って言われているのを見つけて、笑ってしまった。陳龍(チェンロン)覚えておこう。私は、悪役の誉王がけっこう好きで、言侯、謝玉、黎綱、高太監など、やっぱり中華ドラマはおじさんがいい。もちろん女性も、若者も、と言い始めるときりがないのでこのくらいにしておく。
日本語版のドラマサイトは「『半沢直樹』を超える激烈な復讐劇」とか「壮絶な宮廷復讐劇」を謳い文句にしているが、梅長蘇こと林殊が目指したものは「復讐」とはちょっと違う気がする。中国語字幕では「昭雪」という動詞を見た。反乱が事実無根であったことが皇帝によって天下に布告されること、祖先の位牌を奉じて堂々と家の祭祀を行えるようになることが、仇敵に対する復讐よりも、もっと重要なのである。この感覚は、私も少し分かる。きっと中国人(中華系)なら強く共感するのだろう。ドラマでは、悪人も自分の子供(特に男児)には強い愛着を示し、周囲もそのことに惻隠の情を抱く。あれは西欧的な親の愛情とは、ちょっと違うのではないのかな。中国の伝統文化における「家」の存続の重みを強く感じた。
※参考:架空歴史的《琅琊榜》都有哪些朝代的影子?(中文)
ドラマの時代設定に関し、興味深かった解説は上記の文章。孔笙介監督によれば、服飾は「唐朝の前」、道具は「宋朝」、礼儀は「漢唐を主」にしたそうだ。劇中の梁国は、皇姓が蕭、帝都が南京(金陵)であることは南朝の梁国に似る。中央官制は明朝の三省六部制を参考にしており、皇帝直属の監察機構である懸鏡司は、明朝の錦衣衛に似ている、という指摘は、いちいち腑に落ちた。しかし、南京なのに、あんなに雪が多くて寒々してるのか~。
私は、日本のドラマにない中国ドラマの「ゆるさ」(荒唐無稽さ)が好きだったのだが、この作品に限っては、そういう中国風味が全くない。世界中どこに持っていっても視聴者の心を捉える作品だと思う。中国ドラマのエポックメイキングな変化を感じる。
※チャンネル銀河:琅琊榜(ろうやぼう)~麒麟の才子、風雲起こす~(公式)
2015年、中国で放映されると大反響を呼び、中国版エミー賞「国劇盛典」で10冠を獲得するなど、噂は早い時期から聞いていた。日本ではCS「チャンネル銀河」が2016年4月に初放映し、2016年10月現在も深夜に再放送が進行中である。また「BSジャパン」でも平日の午前中に放映中なので、SNSにさまざまな感想が流れてくる。しかし、私はBSもCSも見られる環境ではないので、YouTubeで中文字幕版を探し当てて、視聴することにした。
物語の舞台は中国の南北朝時代をモデルとした架空の国「梁」である、という情報は視聴前から聞いていた。中国の古装劇(時代劇)としては珍しい設定だと思ったが、私が詳しく知らないだけかもしれない。しかし、時々あるトンデモ古装劇に比べると、衣装もセットも登場人物の所作も、むしろリアルな「古色」が感じられて、物語世界にすぐに馴染んだ。
梁国には、かつて大きな動乱があった。林燮(りんしょう)将軍の率いる精鋭七万人の赤焔軍が、突如、謀反の罪を疑われ、皇帝の軍に殲滅された。皇帝の長男・祁王は、首謀者と目されて自害を命じられ、祁王の母親・宸妃も自ら命を断った。それから12年。皇帝は老い、宮廷では皇太子と異母兄弟の誉王が後継者争いをしていた。誉王は「麒麟の才子を得た者、天下を得る」という予言に従い、「麒麟の才子」と呼ばれる梅長蘇(またの名を蘇哲、江湖の勢力・江左盟の宗主)を梁の都・金陵に招き入れる。
梅長蘇の正体は、林燮の息子・林殊だった。彼は誉王を補佐すると見せかけて、信頼できる靖王を擁立し、赤焔軍と祁王府の人々の名誉回復のために知力をしぼる。しかし、彼の身体は毒に犯されており、残された時間は少なかった――。
というような設定なのだが、皇子たちの皇位継承争い、官場の政治闘争、後宮の女性たちの暗闘、さらに滅びた異民族「滑族」の再興の願いとか、いろいろなステークホルダーが複雑に絡み、憎むべき敵であっても婚姻や血縁や師弟関係で結ばれていたり、善悪の描き方が陰影に富み、ずっと飽きさせない。ストーリーの流れも、緊迫した頭脳戦とダイナミックな肉弾戦(剣戟)が交互に配置されている。弁舌で戦うシーンは、かなり早口で、私の中国語能力だと字幕がぜんぶ読み切れなくて苦労した。実は今、もう一回見直しているのだが、あらためて気づくことがいろいろある。
主人公の梅長蘇役は胡歌(フーゴー)。『射雕英雄伝』2008年版を見た直後だったのだが、こっちのほうが数倍、いや数十倍よいと思った。男前のヒロイン・霓凰郡主は劉濤(リュウタオ)。どこかで見たと思ったら、胡軍版『天龍八部』の阿朱を演じた女優さんではないか! え~変わらないなあ。飛流を演じた呉磊(ウーレイ)くん可愛い。まあ個人的に一番好きなのは、禁軍大統領の蒙摯(蒙大統領)ですね。中国語で「史上最萌大將軍」って言われているのを見つけて、笑ってしまった。陳龍(チェンロン)覚えておこう。私は、悪役の誉王がけっこう好きで、言侯、謝玉、黎綱、高太監など、やっぱり中華ドラマはおじさんがいい。もちろん女性も、若者も、と言い始めるときりがないのでこのくらいにしておく。
日本語版のドラマサイトは「『半沢直樹』を超える激烈な復讐劇」とか「壮絶な宮廷復讐劇」を謳い文句にしているが、梅長蘇こと林殊が目指したものは「復讐」とはちょっと違う気がする。中国語字幕では「昭雪」という動詞を見た。反乱が事実無根であったことが皇帝によって天下に布告されること、祖先の位牌を奉じて堂々と家の祭祀を行えるようになることが、仇敵に対する復讐よりも、もっと重要なのである。この感覚は、私も少し分かる。きっと中国人(中華系)なら強く共感するのだろう。ドラマでは、悪人も自分の子供(特に男児)には強い愛着を示し、周囲もそのことに惻隠の情を抱く。あれは西欧的な親の愛情とは、ちょっと違うのではないのかな。中国の伝統文化における「家」の存続の重みを強く感じた。
※参考:架空歴史的《琅琊榜》都有哪些朝代的影子?(中文)
ドラマの時代設定に関し、興味深かった解説は上記の文章。孔笙介監督によれば、服飾は「唐朝の前」、道具は「宋朝」、礼儀は「漢唐を主」にしたそうだ。劇中の梁国は、皇姓が蕭、帝都が南京(金陵)であることは南朝の梁国に似る。中央官制は明朝の三省六部制を参考にしており、皇帝直属の監察機構である懸鏡司は、明朝の錦衣衛に似ている、という指摘は、いちいち腑に落ちた。しかし、南京なのに、あんなに雪が多くて寒々してるのか~。
私は、日本のドラマにない中国ドラマの「ゆるさ」(荒唐無稽さ)が好きだったのだが、この作品に限っては、そういう中国風味が全くない。世界中どこに持っていっても視聴者の心を捉える作品だと思う。中国ドラマのエポックメイキングな変化を感じる。
※チャンネル銀河:琅琊榜(ろうやぼう)~麒麟の才子、風雲起こす~(公式)