見もの・読みもの日記

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共生を語る/アンチヘイト・ダイアローグ(中沢けい)

2016-10-06 22:11:08 | 読んだもの(書籍)
○中沢けい『アンチヘイト・ダイアローグ』 人文書院 2015.9

 新大久保でヘイトスピーチを含む反韓デモが行われていることを著者が知ったのは、2012年夏のことだという。2013年2月にはヘイトデモに抗議するカウンターと呼ばれる人々が登場し、やがて著者自身も抗議の現場に出たり、安保法制に反対する国会前の集会に出たりするようになる。その様子を、私は少し前からSNSで追いかけている。

 本書は、こうした「現代の現実」をベースに2015年の2月末から4月にかけて行われた対談集である。対話者は登場順に、中島京子、平野啓一郎、星野智幸、中野晃一、明戸隆浩、向山英彦、上瀧浩子、泥憲和の8人。最初の3人は小説家で、人気作家と呼んでいいのだろうが、同時代小説を読まないので、名前しか知らなかった。小説家のエッセイさえ、ほとんど読まないので、ああ、小説家って、こんな生活をしていて、こんなことを考えているんだ、というのが、ものめずらしくて面白かった。中沢けいさんの関心のせいか、いずれもアジア、特に韓国のことが話題に上がっている。中国・台湾・韓国では、日本の文学がよく読まれているのに、日本人はアジアの現代文学を知らない、というのは、よく言われることだけど本当にそう思う。

 政治学者の中野さんとは、現在の政治状況について。安倍政権には問題があるが、民主党が「自民党以上に優等生体質なところがあって、自分たちは正しいのだからいつか報われるし分かってもらえるという発想が強い」という分析は的確すぎて、参った。

 社会学者の明戸さんは、出版関係者による『NOヘイト!』の共著者の一人。在特会などが主導するヘイトスピーチデモが、古くからある差別とどう違うのか、寛容・包摂が規範化した現代において、それに反発する「バックラッシュ」の面を持っているのではないかと説く。向山さんはエコノミスト。経済面から、日本・韓国・中国の実力と影響関係を冷静に論じる。

 最後の二人は弁護士で、上瀧(こうたき)さんは、在特会による朝鮮学校襲撃事件等、反ヘイトスピーチ裁判を手がけ、泥さんも集団的自衛権、人種差別問題などに取り組んでいる。上瀧さんの、一人の権利を守ることが社会の公益につながる、という考え方に強く賛同する。このお二人は、個人的な閲歴がユニークで、特に泥さんは、小さな皮革工場に勤めたり、建設現場の人材派遣業をやって、自分も土方をやったり、小説みたいである。その泥さんが語る親鸞や阿弥陀の本願の話はとても面白かった。

 阿弥陀の願に「もしも私が悟りを開けるならば、すべての女性は洗濯や繕いものの苦労をしなくても済むだろう。これが実現できないようなら私は悟らない」というのがあるというのは知らなかった。いい話である。
コメント
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