見もの・読みもの日記

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扉を開くアーカイブズ/冷泉家 王朝の和歌守展(東京都美術館)

2009-10-26 22:00:29 | 行ったもの(美術館・見仏)
東京都美術館 『冷泉家 王朝の和歌守(うたもり)展』(前期:2009年10月24日~11月23日)

 この秋、なぜか東京では、文書・典籍(アーカイブズ)にまつわる展覧会が目立つ。その筆頭に挙げられるのが、冷泉家(れいぜいけ)に伝わる貴重な古典籍(冷泉家時雨亭文庫)を紹介するこの展覧会。「国宝5点、重要文化財約400点」という、嘘のような数字に驚く。

 しかし、会場内は、比較的すいていた。うーん、やっぱり感性だけで楽しめる絵画や彫刻(仏像)と違って、ちょっと敷居が高いのかな。私は、学生時代に国文学を専攻していたので、本展に登場人する人々には、多少の馴染みがある。冒頭には、俊成・定家・為相の3人の肖像と自筆本が並べられている。俊成自筆の『古来風体抄』と定家自筆の『拾遺愚草』には、震えるほど感激した。こんなものが残っていていいのか、という感じ。続いて、定家の『名月記』。父俊成の死去を記した箇所は、以前、五島美術館の全巻展示会のときにも見た覚えがある。お正月の伊達巻みたいな大きな芯に巻かれ、新しい木箱に収めてあるようだが、箱書の「名月記」という文字があまり上手くなくて、ほほえましかった。

 歌集は、勅撰集よりも、バラエティ豊かな私家集に惹かれる。定家の異母姉にあたる坊門局という女性は、古筆の世界では名品で有名なのだそうだ。なるほど『重之集』とか『兼輔中納言集』とか、くるくるとからまる糸のようで、華やかでリズミカルな筆跡(図録には表紙しか写ってないって、ちょっと意地悪)。私は、藤原資経という人物の筆跡が気に入ったのだが、このひと、二条家の「事務方の人間」()ということしか分からないらしい。西行と伝える筆跡(出羽弁集)は、全体が右に流れているのもお構いなしで、枯れた味わいがある。

 「百首歌」の、堂々たる巻子にもびっくりした。学生時代、○○百首とはよく聞いても、実際の形態など想像したこともなかった。展示されていたのは鎌倉後期の応製百首だが、それでも「原型」が残っているなんて驚きである。今から国文学を学ぼうとする若い世代はいいなあ、いろいろなことが分かって。また、今回の時雨亭文庫調査によって、新たな私家集や新出歌も発見されたというのもすごい!

 うちに帰ってから、近所の本屋で『芸術新潮』11月号を見つけた。特集は「京都千年のタイムカプセル 冷泉家のひみつ」。これを読んでいくと、本展の見どころがよく分かる。私は「冷泉家の本はこうなっている」が重宝した。会場の展示解説は、造本についての説明が少ないので。大半は綴葉装(てっちょうそう)なのね。

 時間がなければ、山口晃さんの挿絵による「早わかり」を立ち読みしておくだけでもいい。ライバル二条家の没落(その結果、二条家旧蔵本も冷泉家に統合されたこと)、いくつもの戦乱や天災を奇跡的にかいくぐってきたことなど、冷泉家と御文庫の歴史は、本当の意味の大河ドラマだと思う。

 特筆すべきは、1981年に財団法人を創立し、御文庫を開放して調査を開始された第24代の為任氏(1914~1981)の決意。また、第25代(ご当代)の為人氏は、84年に婿養子に入られ、はじめは「えらいところにきてしまった」と悩まれたが、「冷泉家の蔵番」ひいては「日本文化の蔵番」になろう、と決意を固めていくところは感動的である(図録に寄稿あり)。世襲はよくないことだというけれど、「家」の機能によって、守り伝えられてきた文化遺産はたくさんあるのだ。新しい社会は、これに代わる文化の継承システムを作れるのだろうか。

(財)京都古文化保存協会「非公開文化財特別拝観」
ここだけの話。毎年秋の4日間、冷泉家住宅の一般公開が行われている。行ってみようと思っているのだが…今年は混みそうだなあ。
コメント (4)
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