見もの・読みもの日記

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近江巡礼と若冲の旅(3):若冲ワンダーランド(MIHOミュージアム)

2009-10-20 00:04:39 | 行ったもの(美術館・見仏)
MIHOミュージアム 秋季特別展『若冲ワンダーランド』(2009年9月1日~12月13日)

 さて、若冲である。昨年12月、北陸の旧家で若冲の『象鯨図屏風』が見つかり、2009年9月からMIHOミュージアムの若冲展で公開予定、と聞いたときは、正直、あまり期待していなかった。新発見の『象鯨図屏風』でお客を釣って、あとは旧知の作品でお茶をにごすんじゃないかと思っていたのだ。これが、とんでもない大ハズレ。たとえ、東博の『動植綵絵』を見逃しても、このワンダーランドは見逃すべきでないと思う。

 本展の画期性の第一は、「オタク」若冲像をくつがえす記録資料の発見である。『京都錦小路青物市場記録』という冊子によれば、40歳で弟に家督を譲り、画業に専念したと考えられていた若冲が、50代後半には、町年寄として、地域コミュニティのために奮闘していたことが分かるのだ。これはすごい。貴重な記録を発見したのは、近世市場史の宇佐美英機氏で、これを美術史家に紹介したのは、日本絵画史の奥平俊六氏だという。大学で地道に積み重ねられた史料研究の成果が、多くの美術ファンにさざなみのような衝撃を広げていく様子が、目に見えるようで、感銘深かった。

 画期性の第二は、展覧会に出る機会の少ない、個人蔵の作品(水墨画が多い)を徹底的に集めたことだ。私は、2000年の若冲展はもちろん、それ以前から「若冲」の作品ありと聞けば、西へも東へも飛び歩いてきたつもりだが、未知・初見の作品が多数あって、興奮の連続だった。『寒山拾得・楼閣山水図』の左右の楼閣山水の自由さ、雪舟もびっくりだろう。仔犬のような寒山拾得もかわいい。『松林図』も、よすぎる。

 大作も手抜きなし。ちょうど、いちばんいい時期に行ったのかも知れないが、枡目描きの『鳥獣花木図屏風』(プライス・コレクション)と点描の『石燈籠図屏風』(京博)が並んだところは圧巻だった。

 音声ガイドはおすすめである。私は、普段こうしたガイドは使わないのだが、会場内でヘッドフォンをしたおじさんたちが、「この解説は、詳しくていいなあ」「辻ナントカって有名な先生だぞ」と大声で話しているのを聞いて、えっ!と慌てた。結局、ひとりで一周したあと、ガイドを借りて、もう一周することにした。

 館長・辻惟雄先生は「概要」「鳥獣花木図屏風」「象と鯨図屏風」の3ヵ所で登場する。ヘッドフォンをつけて作品の前に立つと、「この青いところは…」なんて、辻先生が横で解説してくれているようで、なかなか贅沢である。『象と鯨図屏風』では、高々と鼻を上げた象が、海の鯨に挨拶しているようだ、というのは、誰でも考えそうだが、画面右端から伸びた牡丹の花が、象のお尻のあたりを撫ぜているのは、若冲から象への挨拶なんじゃないか、という解釈は、ユニークで微笑ましかった。

 ここで、ミュージアムショップに飾ってあった、鯨の壁掛けと象のクッションの写真を挙げておこう(お店の方に断って撮りました。売り物ではないらしい)。鯨図の、ビーズで表現された水しぶきが秀逸。白象は、ちゃんとお尻に牡丹の花をつけている。

 

 図録には、辻惟雄氏、狩野博幸氏ら、読み応えのある論文を収録。私は帰りの新幹線の中で、眠気を忘れて貪り読んできた。作品の落款や画賛を丁寧に翻刻してあって、資料的価値も高く、開きやすい製本もありがたい。所用3時間。ハマりすぎかな。
コメント (2)
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