見もの・読みもの日記

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アメリカン・ドリームの極北/ルポ貧困大国アメリカ(堤未果)

2008-05-02 23:05:17 | 読んだもの(書籍)
○堤未果『ルポ 貧困大国アメリカ』(岩波新書) 岩波書店 2008.1

 気になるままに放っていたら、あれよあれよという間にベストセラーになってしまった。しかし、話題の沸騰度とは別に、読む価値のある1冊だと思う。

 超大国アメリカの内部で、普通の(だったはずの)人々の暮らしがどうなっているかを、赤裸々に伝えるルポルタージュ。マイホームを夢見て、サブプライムローンに手を出し、膨大な借金を抱え込んだ家族。ファーストフード・チェーンと提携することで、少ない予算をやりくりし、貧困家庭向けの無料給食を実現している公立学校。その結果、生み出されるジャンクフード漬けの肥満児童。世界一高い医療費で破産する中間層。市民権の取得や学費免除につられて、軍に入隊する若者。アメリカ国内だけの話ではない。今や世界中の貧困層がリクルートされ、イラクで「民営化された戦争」を支えているという。恐ろしい話だ。

 これは、不安を煽りすぎる書き方なのではないか、と何度も疑った。しかし、数字は嘘をつかない。たとえば、先進国中で最も高い(日本の倍近い)といわれる乳児死亡率。本書の数字とやや異なるが、厚生労働省の実績評価書で検証することができる。「盲腸手術入院の都市別総費用ランキング」の出典はこれかな? 最新データは、本書掲載分(2000年)より下がっているが、それでもニューヨークでは2日入院で200万円近い。私は経験がないが、日本なら30万円を超えることはまずない、という。「一度の病気で貧困層に転落する」というのも、誇張でないと思われる。

 今日の事態を引き起こしたのは、「自由競争」という言葉に弱い、アメリカ人の性(さが)である。自由競争の下でこそ、サービスの質の向上が図られ、国民の福祉は増大する、そして勝者はアメリカン・ドリームを手に入れる、と予想されていた。しかし、「教育」「医療」「災害対策」など、国家が国民に責任を負うべき業務に「市場原理」が導入された結果、中間層は貧困層へ、貧困層は最貧困層へ、ものすごいスピードで転落しつつあるという。

 さらに、9.11以降「ルール無用」の段階に進んだ「戦争ビジネス」は、貧困層に「いのち」の切り売りを強いている。クウェート勤務と聞いていたのにイラクに派遣され、仕事はトラック整備士のはずが、銃弾の飛ぶ中で、劣化ウラン弾を取り扱う。それでも、生きる(食べる)ために嫌と言えない人々。前近代の農奴制か?と疑うような事例が、いくつも紹介されている。これを読んでしまうと、日本の自衛隊の派遣先が非戦闘地域か否かなんて議論は、国際社会では、ほとんど寝言にしか聞こえないだろうなあ、と思う。

 やっぱり、全ての人が人間らしい生活を営むためには、「市場原理」で回してはいけない仕事があるのだ。「民営化」でバラ色の未来が開けると思った人たちは、そろそろ自分の間違いを認めなければならないと思う。それと同時に、これまで近代の成功した資本主義国家は、「外部」(植民地)にツケを押し付けることで、国内格差の調整を図ってきたと思う。もし、こんなふうに、グローバリゼーションによって、外部のない格差社会が極限まで進行したら、そのときこそ共産主義革命は起こらないだろうか?(妄想だけど)
コメント
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