見もの・読みもの日記

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ふつうの若者/「ニート」って言うな!(本田由紀ほか)

2008-02-20 00:07:07 | 読んだもの(書籍)
○本田由紀、内藤朝雄、後藤和智『「ニート」って言うな!』(光文社新書) 光文社 2006.1

 刊行された直後は、当時、書店にあふれていたニート本の1冊だと思って、手に取ることをしなかった。先日、本田由紀さんの『多元化する「能力」と日本社会』(NTT出版,2005)を読んで、なかなかいい論者だな、と思ったので、あらためて読んでみた。

 本書は3部構成である。本田由紀の「『現実』-『ニート』論という奇妙な幻想」は、精密な調査データに基づき、「ニート」言説と「ニート」と定義される若者たちの実像の乖離を検証したもの。著者によれば、日本で「ニート」と呼ばれるのは、通常、15~34歳の若者の中で、学生でない未婚者でかつ働いておらず、求職行動もとっていない人々である。その過半は、「働く意欲はあるが、いまは求職していない(資格取得準備中、療養中、家事手伝い中など)」の普通の若者、あるいは「(さまざまな理由により)今働く必要・予定がない」若者である。

 「ニート」の中で最も不活発な層は「働く意欲がない」若者だが、社会問題となる「犯罪親和層」や「ひきこもり」は、その中のさらに小さなコアでしかない。にもかかわらず、しばしば、全ての「ニート」に、「ひきこもり」の通俗イメージが拡大適用されている。これは、「ひきこもり」に対する誤解と偏見のもとにもなっており、「ニート」「ひきこもり」双方にとって、迷惑で不幸なことである。

 そして「ニート」の外側では、「失業者=求職中」や「フリーター=非正規雇用」の若者が増大しており、こちらのほうが大問題のはずなのだ。著者によれば、「ニート」という言葉が流行り始める直前には、若年就労問題の最大の要因は、企業が新規学卒者の採用を抑制したことにある、という認識が地歩を得つつあったのだそうだ(平成15年度版国民生活白書)。にもかかわらず、2004年以降、「ニート」論の「絨毯爆撃」(!)によって、上述の認識は掻き消されてしまった。著者が、この背景に、JIL(労働政策研究・研修機構)の変貌(独立行政法人化→評価の強化→世間の注目度の重視)を見ているのは、スルドイ洞察だと思う。

 第2部、内藤朝雄の「『構造』-社会の憎悪のメカニズム」は、「ニート」をはじめとして、若者にネガティヴな意味づけを与える言説が生み出される背景を分析する。「いいがかり資源」を相互に流用しながら、複数のネガティブイメージを生み出す術、先行ヒットにイメージを上乗せしながら続ヒットを狙う術など、キレのある分析を面白く読んだ。「教育という危険な欲望」「教育は阿片である」など、毒のある言い回しも好きだ。しかし、最後に提示される「透明な社会と決別して、不透明な成熟した社会にする」という解決策は、具体性を欠き、あまり感心しなかった。

 第3部、後藤和智の「『言説』-『ニート』論を検証する」は、新聞・雑誌など各種メディアに載った「ニート」言説を検証したもの。とりたてて重要な分析結果が導かれているわけではないが、資料的価値はある。何にしても、本来、社会や経済構造の問題であるものを、心構えとか親の責任にかぶせたがる言説には、厳しい警戒が必要だと思う。
コメント
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