見もの・読みもの日記

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国家を支えるエリート/中国の頭脳:清華大学と北京大学(紺野大介)

2008-02-26 23:25:42 | 読んだもの(書籍)
○紺野大介『中国の頭脳:清華大学と北京大学』(朝日選書) 朝日新聞社 2006.7

 中国を代表する有名大学といえば、清華大学と北京大学。ただし、日本人にとっては、北京大学の知名度のほうがずっと高いのではないかと思う。

 両大学は、いろいろな点で対照的である。清華大学は、義和団事件の対米賠償金によってつくられた米国留学予備校を前身としているが、北京大学は、日本とのつながりが深い。戦後(1952年)、毛沢東の指示で、大学の分離調整が行われたとき、清華大学は、人文社会学部を北京大学に移し、逆に北京大学の工学部を統合した。以来、清華大学=理工系、北京大学=文系、というイメージが定着している(現在は、どちらも総合大学に再編)。北京大学は、ゴーイング・マイ・ウェイを良しとする自由な校風だが、清華大学は、理系らしく「まじめでコンサバティブ」という評価がある。

 英国の大学情報誌タイムズ・ハイアー・エデュケーション・サプリメント(THES)の「世界の大学ランキング」では、北京大学の評価は、15位(2005年)→14位(2006年)→36位(2007年)。ちなみに東京大学は、16位→19位→17位で、アジアの首位を争っている。一方、清華大学は、62位→28位→40位で、北京大学に大きく水をあけられているように見える。ところが、中国国内のランキングでは、清華大学が圧倒的に強い。最新版のランキング(2008年1月9日付)では、12年連続の首位を獲得した。うーむ、どこから来るんだろう、この見解の相違は?

 本書の著者は、清華大学の優越を肯定する立場から、さまざまなエピソードを紹介している。TOEFL600点以上の学生がごろごろしているなどというのには驚かないが、原子間力顕微鏡を学生たちが自前で作ってしまうとか、人工衛星の単独打ち上げに成功している(2004年)ことには、さすがに舌を巻いた。こうなると「大学」というより、一企業の競争力に近いのではないかと思う。

 アメリカの大学は、大学の「武器」となり「資産」となる優秀な頭脳を求めて、清華大学の学生に、積極的なヘッドハンティング(留学の勧誘)を仕掛けている。その結果、中国では人材の海外流出が問題になっている、というのは、何かで読んだ。しかし、アメリカにおける理工系Ph.D取得者の国別一覧(242頁)を見ると、そもそも日本人の少なさに愕然とする。うーむ。清華大学が、アメリカの(つまり世界の)一流大学とガッチリ連携を深める一方で、「二番手」北京大学は、やむなく日本の大学に秋波を送っているのではないか、と勘ぐりたくなるのだが、如何?

 ところで、中国の現在の国家指導部(政治局常務委員会)は、9人のうち4人までが清華大学OB(理工系)である。これもすごい話だ。日本では、理科離れが言われて久しいが、理系って泥臭い損な仕事のイメージが強いのではなかろうか。一方、中国では、「理科を学んで国家の指導者になる」というモデル(朱鎔基さんもその1人)の実在によって、ますます優秀な人材が理系に誘導されていると思う。

 本書を読むと、日本は、政治も外交も教育システムもいいところなしだが、中国人は日本人の「モノ作り力」を高く評価しているという。確かに、日本の民間企業が築き上げてきた「万人を得心させる製品力」は、まだ中国にはないものだ。中国の底力を知り尽くした著者の言だけに、説得力があると思った。
コメント
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