○千葉市美術館『都市のフランス、自然のイギリス~18・19世紀絵画と挿絵本の世界~』
http://www.ccma-net.jp/
春に地元の川越市立美術館を通りかかったときも、この展覧会のポスターを見た。けれど「都市のフランス、自然のイギリス」という大見出しだけ見て、ふーん風景画の展覧会か、と思って素通りしてしまったのだ。今回、初めて小見出し後半の「挿絵本の世界」に気づいて、行ってみることにした。
会場の第1室には、普通の油彩画が並んでいた。コロー、モネの風景画に混じって、私の注意を惹いたのは『秋の精』と題して、蝶のような羽をつけた裸体の美女が、葡萄の蔓をブランコにしている大きな絵だった。背景の青空が美しい。作者はギュスターヴ・ドレ。ん? ドレって版画家じゃなかったかしら。解説によると、木口木版挿絵の帝王(!)と呼ばれたドレは、油彩画家としても認められることを望んだが、願いは果たせなかったという。
次のセクションに進むと、一転、まわりの壁から油彩画が消えて、19世紀フランスの版画と挿絵本に囲まれる。当時の挿絵本は贅沢品だ。当然、大人の鑑賞に堪えるもの、風刺と風俗を題材にしたものが多い。J.J.グランヴィルって、よく分からないんだけど好きだな~。私は『当世風変身譚』の「人間嫌い」と題された偏屈そうなアナグマ(?)とカケス(?)の家政婦の図がツボだった。ドーミエは分かりやすくて素直に面白い。
そして、帝王ギュスターヴ・ドレ(1832-1883)の登場。いや~すごい! この展覧会では、ドレの傑作が勢揃いである。私は『さまよえるユダヤ人』(1860年刊)に一撃を喰らってしまった。暗闇に潜む亡霊の影。噴き出すような妄想と恐怖。こういう暗い狂気こそをロマン主義って言うんだなあ。ダンテの『地獄篇』も同様。『ドン・キホーテ』は無類の滑稽さにあふれ、ラ・フォンティーヌ『寓話』は小動物への愛情が感じられる。『ロンドン巡礼』では、びっしり並んだ停泊船の林立するマストを描いた「ドックの中」がいい。『狂気のオルランド』では、巨大な月面(クレーターが!)に向かって突っ込む四頭立ての馬車を描く。写実、幻想、科学、ロマン主義、何でもあり。まあ、こんな説明を読むよりも、以下のサイトでも覗いてみてほしい。真夏でも肌寒くなるような、冷ややかな黒の魅力にしばし浸れる。
■参考:連想美術館(ギュスターヴ・ドレ)
http://sol.oops.jp/illustration/dore.shtml
ジョン・マーティン(1789-1854)による『失楽園』の挿絵も好きだ。ドレよりも、いっそう陰鬱でロマン主義的である。「万魔殿の出現」の堅固な建築的幻想に惹かれる。そして、ウィリアム・ブレイク(1757-1827)。「アカデミックな絵画表現に反対し、ミケランジェロの身体表現に傾倒し」という解説を読んで、そうか、ミケランジェロって「反アカデミズム」なんだ~と妙に感心した。確かに、私はブレイクの肉体表現に近代舞踊みたいな人工性を感じる。
イギリス・セクションに入るところで、また少し油彩画が並べられている。そして、版画を挟んで、挿絵本が登場。19世紀のイギリスでは、多色刷りが本格的に普及し、リチャード・ドイル、ケイト・グリーナウェイなど、よく知られた「絵本作家」が現れる。その一方、エドマンド・エヴァンスのように、画家としてではなく優れた木版師として名を残した人物もいる。
ウォルター・クレインの「クイーン・サマーあるいは百合と薔薇の騎馬試合」それからウィリアム・ニコルソンの「ロンドン・タイプス」(ロンドンのさまざまな職業人を描いたもの)は、全くタイプが違うけれど、どちらも私の好きな作品である。たぶん昨年、場所も同じ千葉市美術館で見たのだ思うが、再会できて嬉しかった。
http://www.ccma-net.jp/
春に地元の川越市立美術館を通りかかったときも、この展覧会のポスターを見た。けれど「都市のフランス、自然のイギリス」という大見出しだけ見て、ふーん風景画の展覧会か、と思って素通りしてしまったのだ。今回、初めて小見出し後半の「挿絵本の世界」に気づいて、行ってみることにした。
会場の第1室には、普通の油彩画が並んでいた。コロー、モネの風景画に混じって、私の注意を惹いたのは『秋の精』と題して、蝶のような羽をつけた裸体の美女が、葡萄の蔓をブランコにしている大きな絵だった。背景の青空が美しい。作者はギュスターヴ・ドレ。ん? ドレって版画家じゃなかったかしら。解説によると、木口木版挿絵の帝王(!)と呼ばれたドレは、油彩画家としても認められることを望んだが、願いは果たせなかったという。
次のセクションに進むと、一転、まわりの壁から油彩画が消えて、19世紀フランスの版画と挿絵本に囲まれる。当時の挿絵本は贅沢品だ。当然、大人の鑑賞に堪えるもの、風刺と風俗を題材にしたものが多い。J.J.グランヴィルって、よく分からないんだけど好きだな~。私は『当世風変身譚』の「人間嫌い」と題された偏屈そうなアナグマ(?)とカケス(?)の家政婦の図がツボだった。ドーミエは分かりやすくて素直に面白い。
そして、帝王ギュスターヴ・ドレ(1832-1883)の登場。いや~すごい! この展覧会では、ドレの傑作が勢揃いである。私は『さまよえるユダヤ人』(1860年刊)に一撃を喰らってしまった。暗闇に潜む亡霊の影。噴き出すような妄想と恐怖。こういう暗い狂気こそをロマン主義って言うんだなあ。ダンテの『地獄篇』も同様。『ドン・キホーテ』は無類の滑稽さにあふれ、ラ・フォンティーヌ『寓話』は小動物への愛情が感じられる。『ロンドン巡礼』では、びっしり並んだ停泊船の林立するマストを描いた「ドックの中」がいい。『狂気のオルランド』では、巨大な月面(クレーターが!)に向かって突っ込む四頭立ての馬車を描く。写実、幻想、科学、ロマン主義、何でもあり。まあ、こんな説明を読むよりも、以下のサイトでも覗いてみてほしい。真夏でも肌寒くなるような、冷ややかな黒の魅力にしばし浸れる。
■参考:連想美術館(ギュスターヴ・ドレ)
http://sol.oops.jp/illustration/dore.shtml
ジョン・マーティン(1789-1854)による『失楽園』の挿絵も好きだ。ドレよりも、いっそう陰鬱でロマン主義的である。「万魔殿の出現」の堅固な建築的幻想に惹かれる。そして、ウィリアム・ブレイク(1757-1827)。「アカデミックな絵画表現に反対し、ミケランジェロの身体表現に傾倒し」という解説を読んで、そうか、ミケランジェロって「反アカデミズム」なんだ~と妙に感心した。確かに、私はブレイクの肉体表現に近代舞踊みたいな人工性を感じる。
イギリス・セクションに入るところで、また少し油彩画が並べられている。そして、版画を挟んで、挿絵本が登場。19世紀のイギリスでは、多色刷りが本格的に普及し、リチャード・ドイル、ケイト・グリーナウェイなど、よく知られた「絵本作家」が現れる。その一方、エドマンド・エヴァンスのように、画家としてではなく優れた木版師として名を残した人物もいる。
ウォルター・クレインの「クイーン・サマーあるいは百合と薔薇の騎馬試合」それからウィリアム・ニコルソンの「ロンドン・タイプス」(ロンドンのさまざまな職業人を描いたもの)は、全くタイプが違うけれど、どちらも私の好きな作品である。たぶん昨年、場所も同じ千葉市美術館で見たのだ思うが、再会できて嬉しかった。