○成田龍一『大正デモクラシー』(岩波新書:シリーズ日本近現代史4) 岩波書店 2007.4
今月(4月)の岩波新書のラインナップは、惹かれる新刊揃いだった。なので、これが3冊目。多彩な言論や社会運動が花開き、政党内閣の成立へと結実した、いわゆる「大正デモクラシー」の時代。しかし、1923(大正12)年の関東大震災、1927(昭和2)年の金融恐慌を経て社会不安と不況感が増大すると、軍部の台頭を許し、民主主義は後退した――というのが教科書的な見取図であろうと思う。
これに反して、本書は、大正デモクラシーと昭和期の軍部独裁=天皇中心主義を対立的に扱わない。むしろ、大正デモクラシーそのものに「国家」「国民」「国権」との親和性が胚胎していたことを認め(それは辺境=植民地の人々に対する抑圧と排除の上に成り立つ)、大正デモクラシーとは「帝国のデモクラシー」ではなかったか、と問いかけるところが眼目である。すなわち、大正デモクラシーの思想と運動に共感し、社会改造をめざす官僚たちが、国家統制型の政治経済システムを作り出していくのである。ここ、鋭い。
本書はまた、私が読み慣れてきた通俗書のように、誰か魅力的な人物に焦点を絞って歴史を語ることをしていない。「社会を主人公にして描く」というとおり、どの登場人物からも一定の距離を保って、多面的に当時の世相を描き出していく。女性運動、社会運動、農民運動、あるいは大衆文学の動きなど、初めて知ることが多くて、新鮮で面白かった。
なお、岩波新書のサブシリーズ「日本近現代史」は、以前から気になっていたのだが、買ってみたのはこれが初めて。ジャケット広告によれば、このあと、加藤陽子さんの『満州事変から日中戦争へ』、吉見俊哉氏の『ポスト戦後社会』などの続刊が予定されている。楽しみである。
今月(4月)の岩波新書のラインナップは、惹かれる新刊揃いだった。なので、これが3冊目。多彩な言論や社会運動が花開き、政党内閣の成立へと結実した、いわゆる「大正デモクラシー」の時代。しかし、1923(大正12)年の関東大震災、1927(昭和2)年の金融恐慌を経て社会不安と不況感が増大すると、軍部の台頭を許し、民主主義は後退した――というのが教科書的な見取図であろうと思う。
これに反して、本書は、大正デモクラシーと昭和期の軍部独裁=天皇中心主義を対立的に扱わない。むしろ、大正デモクラシーそのものに「国家」「国民」「国権」との親和性が胚胎していたことを認め(それは辺境=植民地の人々に対する抑圧と排除の上に成り立つ)、大正デモクラシーとは「帝国のデモクラシー」ではなかったか、と問いかけるところが眼目である。すなわち、大正デモクラシーの思想と運動に共感し、社会改造をめざす官僚たちが、国家統制型の政治経済システムを作り出していくのである。ここ、鋭い。
本書はまた、私が読み慣れてきた通俗書のように、誰か魅力的な人物に焦点を絞って歴史を語ることをしていない。「社会を主人公にして描く」というとおり、どの登場人物からも一定の距離を保って、多面的に当時の世相を描き出していく。女性運動、社会運動、農民運動、あるいは大衆文学の動きなど、初めて知ることが多くて、新鮮で面白かった。
なお、岩波新書のサブシリーズ「日本近現代史」は、以前から気になっていたのだが、買ってみたのはこれが初めて。ジャケット広告によれば、このあと、加藤陽子さんの『満州事変から日中戦争へ』、吉見俊哉氏の『ポスト戦後社会』などの続刊が予定されている。楽しみである。