見もの・読みもの日記

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関西美術館めぐり拾遺2・日高川草紙

2007-05-18 23:04:09 | 行ったもの(美術館・見仏)
○京都国立博物館・平常展示から

http://www.kyohaku.go.jp/jp/index_top.html

 特別展『藤原道長』のあとは、いつものように平常展示館を訪ねた。まっすぐ2階に上がって、絵画エリア(中国絵画→近世絵画→絵巻→水墨画→仏画)を順にまわるのが、私の定番コースである。(関東在住者としては)ずいぶん足繁く通っているつもりだが、毎回、はっとするような名品との出会いがある。

 今回、最も楽しんだのは「絵巻」の部屋。天地の幅が15センチほどの、小型の絵巻がずらりと並んでいた。「小絵(こえ)」といって、将軍家や公家の子女の愛玩物であったと推定されているものだ。普通サイズの絵巻に比べると、ずっとカジュアルで、子どものお小遣いで買えるコミック本みたいな趣きがある(往々にして、絵の中に登場人物の科白が混入している)。

 展示作品のうち『中宮物語絵巻』と『平家物語絵巻』は、色彩なしの白描画。『鶴の草紙』は民話「鶴の恩返し」の類話だが、「わざはひを連れて来い」という地頭の難問に対して、ほんとに「わざはひ」という動物(巨大な雌ライオンみたいな姿で、地頭の飼い犬を喰ってしまう)を連れてくる、というのが、シュールで面白い。

 しかし、圧倒的な魅力のオーラを放っていたのは『日高川草紙』である。『道成寺縁起』の異本で、三井寺の僧・賢学と遠江国橋本の長者の娘・花姫を主人公とする。前世の因縁で、娘と一夜の契りを結んだものの、道心に立ち返ろうとする賢学。捨てられたと知った娘は蛇身を顕わし、恋人を追う。前半の情緒纏綿としたラブシーンから、雪崩れを打つような急展開。地を這い、水面を渡る蛇体は、次第に可憐な少女の面影をなくし、恐怖とスピード感をぐんぐん増していく。「文化財オンライン」には、1画像しか公開されていないのが残念。この作品の迫力は、ぜひとも連続で味わいたい!!

 笠を押さえ、風圧を必死にこらえる賢学のポーズも見事である。「動き」の表現が、アニメーター並みに巧いなあ~この画家。最後は、賢学は釣り鐘の下で焼け死ぬのではなく、赤子のように無力な姿勢のまま、大蛇(龍)の前足に掴まれて、日高川に引きずり込まれる。そして、賢学の菩提を弔う場面で静かに幕。「やだーこわいよー」とはしゃぎながら見入っているカップルが何組かいた。

 ほか、若冲あり、蘆雪あり。水墨画では、雪村筆『猿蟹図』がいい。竹林の陰からカニを見守る、擬人化されたサルの表情が可愛い。仏画は『当麻曼荼羅』の小特集で、久しぶりに『印紙当麻曼荼羅図』を見た。

 あー京博のサイトを見ると、来月の平常展示もすごいなあ。絵巻は『泣不動縁起』ほか、重要文化財が4本並ぶ。相阿弥の『瀟湘八景図』も出るのか。また行きたいなあ。
コメント
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