見もの・読みもの日記

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図書館より、もっと図書館/ジュンク堂の提言

2007-05-02 23:22:22 | 街の本屋さん
○雑誌『情報の科学と技術』57(4) 2007.4 「特集:図書館への提言」

 とりあえず、言い訳――別に読もうと思って手に取ったわけではなくて、回覧物として職場の机に載っていた雑誌である。ついでに言うと、「重要」として付箋が付いていたのとは全く違う記事に、私は惹き付けられてしまった。

 ひとつは福嶋聡氏の「本と人の出会いの場~書店と図書館」である。著者の名前に記憶はなかったが、「私の所属するジュンク堂書店」という一言を見た瞬間、あ、あのひとに違いない、と思い出した。著書のタイトルも忘れていたけれど、内容は鮮烈な印象に残っている。『劇場としての書店』(新評論 2002.7)の著者である。

 ジュンク堂は「図書館型」の書店と言われるそうだ。ただし、はじめからそうしたコンセプトがあったわけではなく、売れ筋の平積みよりも専門書の品揃えを重視した結果、「天井から床近くまで書籍が並ぶ書棚が林立する」店舗となり、誰とはなしに「まるで、図書館のようだ」と言われ始めたのだそうだ。私は、ジュンク堂のユーザー(というのも図書館用語だな)になって日が浅いが、確かにあの書架には圧倒される。

 著者は「図書館を利用する書店人」であることをカミングアウトしているという。著者によれば、すべての商売において、最も重要なことは、自らが扱う商材をよく知ることだ。「本好き」の書店員でなければ、「本好き」のお客様が本を選ぶ時に快適な空間を形成することはできない。お客様が納得する本の配列はできない。とはいえ、片っ端から本を買うのは経済的にもしんどいし、置き場所にも困るから、効率よく図書館を利用するのだという。

 しかし、「お客様と本との出会いを演出する」図書館など、私は不幸にして経験したことがない。著者に倣って言うなら、私は「図書館を利用しない図書館人」である。圧倒的に書店のほうが好きなのだ。

 著者はいう、「書店の棚に収められた数多くの書物が、訪れた読者を自らの世界に誘い込もうとする。その誘惑を受けとめ、試行錯誤、逡巡の末、自らをその読書体験へと誘い込む書物を選択する、すなわち書店で書物を購入するその瞬間こそ、個々の読書体験の第一歩であり、ひょっとしたら最も決定的な第一歩だとも思うのである」と。本との出会いを「至福の体験」として、こんなふうに熱っぽく語ることのできる図書館員がどれだけいるのだろう。むしろ、いまどきの「常識的」図書館人は、「本(情報)を選択する際の試行錯誤、逡巡」なんて無駄なものは、極力無いほうと思っているフシがある。ほんとは「試行錯誤、逡巡」があり、時に「失敗」や「後悔」があるから(恋愛と同じで)いいのにねー。

 著者も認めているように、図書館には図書館の良さがある。図書館の棚の古さ、書店と図書館との間の宿命的な「時差」(この表現はちょっと素敵だ)は、書物にとって大切なものかもしれない、という。でも、やっぱり、私にとって居心地がいいのは、多くの図書館そのものではなくて、ジュンク堂のような「図書館型」書店の空間である。

 ほか、記事のタイトルだけ挙げると、着地点の見えないデジタル技術への不安を率直に表明した津野海太郎さんの「情報は捨てても本は捨てるな」も読み得。鳥取県知事の片山善博氏の「図書館のミッションを考える」も意外と面白かった。
コメント
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